宇宙航空研究開発機構(JAXA)は国産小型ロケット「イプシロン」の改良型を「イプシロンS」と命名し、初号機を2023年に打ち上げると発表した。IHIエアロスペース(IA、東京都江東区)との共同開発で、2号機から同社に打ち上げ業務を移管する。両者が基本協定を締結して開発体制が整った。初号機にはNECが開発を受注したベトナムの衛星を搭載する。
イプシロンは3段式の固体燃料ロケットで、政府が大型ロケット「H2A」などと共に基幹ロケットと位置づけている。2013年に内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)で初号機を打ち上げ、これまで4機全て成功している。1段目をH2Aの固体ロケットブースターと共通化し、機体点検や管制を合理化するなどしてコストを抑えたのが特徴だ。イプシロンSと、今年度に初打ち上げを予定するH2Aの後継機「H3」では、技術や部品の共通化によるコスト削減をさらに進める。
計画では、イプシロンSは全長約27メートル。地球周回低軌道に1.4トンの衛星を打ち上げる能力があり、イプシロンよりやや能力が高い。現在50億円前後となっている打ち上げコストの目標は非公表だが、将来は消費税と安全監理費用を除き30億円以下を目指すとみられる。命名の「S」はSynergy(相乗効果)、Speed、Smart、Superior(優れた、上質の)、Serviceに共通する頭文字に由来するという。
H2Aは2007年、打ち上げ業務をJAXAから三菱重工業に移管し、同社が商業打ち上げに参入した。JAXAが開発し、IAが機体の設計と製造を担当してきたイプシロンも、改良型のSでは同社が共同開発し、打ち上げも行う。これにより宇宙産業を振興し、国産ロケットの国際競争力を高めるねらいがある。国産小型ロケットは主に科学目的の衛星、探査機を搭載してきたが、この役割に加え、商業衛星の打ち上げ市場への本格参入を目指す。
JAXAはイプシロンSの開発を正式決定したのを受け6月11日、IAと協定を締結した。山川宏理事長は「協定は、打ち上げサービスに移行するまでの一連の土台が整ったという点で大きな意味がある。H3との相乗効果を発揮しながら、わが国の宇宙へのアクセスの自立性の確保、宇宙産業の拡大に貢献していきたい」としている。
イプシロンS初号機が搭載するのはベトナムの地球観測衛星「ロータスサット1」。日本の政府開発援助(ODA)基金を利用したもので、ベトナム国家宇宙センターから住友商事が受託し、NECが開発、打ち上げ調達、現地人材育成プログラムなどを約200億円で一括受注した。国産小型ロケットが海外の衛星を打ち上げるのは初めてとなる。
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