建設大手の大林組は2020年6月11日、宇宙エレベーターのケーブルに使うことを目指した、カーボンナノチューブ(CNT)の2回目の宇宙実験について発表した。

国際宇宙ステーション(ISS)を利用して行うもので、2015年から行った実験に続く2回目。改良を加えた試験体を用いて、宇宙での損傷度合いなどを確かめる。同社は2012年、2050年に宇宙エレベーターを完成させることを目指した構想を発表しており、この実験はその実現に向けた大きな一歩となる。

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    大林組が構想する、宇宙エレベーターの想像図 (C) 大林組

宇宙エレベーター

宇宙エレベーター(Space Elevator)とは、惑星と宇宙をつなぐエレベーターのこと。惑星の赤道と静止軌道をケーブルで結び、そこに「クライマー」と呼ばれる昇降機(リニアモーターカーなど)を走らせることで、ロケットよりも安全かつ安価に、宇宙へ人や物資を輸送できる手段として期待されている。

SF作家アーサー・C・クラークの『楽園の泉』を始め、これまでさまざまな小説や映像作品に登場しているが、現在の技術力では造ることは不可能と考えられている。

その最大の障壁が、惑星と宇宙をつなぐ長大なケーブルをどう造るかという問題である。たとえば地球に宇宙エレベーターを造ろうした場合、ケーブルの総延長は約10万kmにもなり、その素材に求められる破断長(自重で切れてしまう長さ)は約5000kmにもなるとされる。しかし、鋼鉄の破断長は50km、防弾チョッキなどにも用いられる強い強度をもつケブラー繊維でも200kmが限界とされ、とても足らない。

それを実現する素材として期待されているのが、「カーボンナノチューブ」と呼ばれる、炭素原子だけでできた極細の筒状の素材である。破断長は1万km以上とされ、質量は鉄筋の4分の1~3分の1ほどときわめて軽く、さらに高弾性力、高電流密度耐性、高熱伝導性といった特徴ももち、宇宙エレベーターのみならず、さまざまな分野への応用が期待されている。

現在ではまだ、数cmほどの長さしか造ることができず、10万kmもの長さは夢のまた夢だが、世界中で研究が進んでいる。

こうした技術開発を背景に、大林組は2012年に「宇宙エレベーター建設構想」を発表。カーボンナノチューブ以外にも解決すべき問題は多いものの、それらが解決され、2025年に着工できれば、2050年には宇宙エレベーターが実現できるとしている。

2015年から行われた第1回実験に続く2回目の実験

その第一歩として、 同社は静岡大学や有人宇宙システムなどと共同で、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームを利用し、宇宙エレベーターのケーブル材料向けに開発したカーボンナノチューブのより糸を宇宙環境にさらす実験を行っている。

「きぼう」船外実験プラットフォームには、「簡易曝露実験装置(ExHAM)」と呼ばれる、実験サンプル(試料)を搭載した装置を設置することができ、地上実験で再現することの難しい過酷な宇宙環境を利用した、長期間の曝露による材料の経年変化など、宇宙環境が各種材料に与える影響を複合的に調べることができる。

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    「きぼう」の宇宙曝露実験スペース(赤枠) (C) JAXA/NASA via 大林組

同社を中心とした研究チームはまず、2015年から2017年にかけて第1回の実験を実施。試料を地球に持ち帰って分析したところ、地球周辺にある原子状の酸素が衝突したものと考えられる損傷が見られたという。また、ISSの進行方向の前面で曝露した試料が、背面で曝露したものよりも大きく損傷していたことも確認できたとしている。

この結果を受け、2回目となる今回の実験では、より糸を金属系とケイ素系の2種類の材料で被覆するなどの改良を施した試験体を新たに作製。両者を同期間宇宙環境にさらすことで、それぞれの損傷度合いを確認することを目的としているという。

2種類の材料を作製した理由について、まず金属系材料は、宇宙空間での耐環境性が高いため、長期にわたって対象物を保護することが可能であること、また物質が放出されることもないため宇宙空間を汚染する心配もないことが理由だという。また、被覆の加工性にも優れており、被覆の厚さの調整や長いケーブルへの連続的な被覆加工も容易といった特徴もあるとしている。

金属は比重が大きいことから、被覆によりケーブルの質量が大きくなるという問題はあるものの、設計条件を調整することにより宇宙エレベーターにも適用可能だと考えられるという。

一方のケイ素系材料は、金属系材料と比べると軽量で、加工性がよく、柔軟性と変形追随性にも優れているといった特徴をもつ。また、もともと人工衛星用材料の保護のために開発されたもので、衛星のシート状の外装材として宇宙空間での使用実績もあるため、その劣化度合いと今回のより糸状の試験体による実験結果から耐用年数を予測し、適切な交換時期に基づいたメンテナンス計画を立てることが可能であるとしている。

この2種類の試験体は、2019年7月にスペースXの「ドラゴン」補給船運用18号機で打ち上げられ、すでに実験が始まっている。2種類の試験体は、ISS進行方向の前面と背面で、それぞれ1年間および2年間曝露される。

今後、今年の夏以降に1年経過した試験体、2021年夏以降に2年経過した試験体が帰還予定となっている。回収した試験体は、詳細な分析を行い、前回の実験結果とも比較しながら損傷度合いを評価していくとしている。

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  • CNTより糸の金属系被覆の様子(左)と、ケイ素系被覆の様子(右) (C) 大林組

【参考文献】

宇宙エレベーターのケーブル向け材料の2回目の宇宙実験を実施 | ニュース | 大林組
宇宙エレベーター建設構想|季刊大林
宇宙エレベーター建設構想|季刊大林
国際宇宙ステーション/「きぼう」日本実験棟における宇宙実験の試験体を回収 | ニュース | 大林組
簡易曝露実験装置(ExHAM):「きぼう」での実験 - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - JAXA

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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