AppleがMac搭載のプロセッサをIntel製プロセッサから独自開発のARMベースのプロセッサに移行させることを、早ければ「WWDC20」 (6月22日からオンライン開催)で発表すると米BloombergのMark Gurman氏が6月9日 (米国時間)に報じている。過去に数多くのAppleの発表に関するスクープを伝えてきたGurman氏は、アナリストのMing-Chi Kuo氏やBuzzFeed NewsのJohn Paczkowski氏と共に信頼性の高さで注目されるジャーナリストの1人だ。同氏は計画をよく知る人達から独自開発プロセッサへの移行に関する情報を得たとしている。

  • コードネームはKalamata
  • OSはmacOS
  • 独自開発のプロセッサはiPhoneやiPadと同じ技術 (=ARMベース)
  • 次期Aプロセッサをベースに少なくとも3つのMac用プロセッサを開発
  • 台湾のTSMCが5nmプロセス技術で製造
  • 内部テストの結果はARMベースのプロセッサによって大きく向上、中でもグラフィックス性能とAI関連の処理に効果、効率性も優れる
  • ARMプロセッサを搭載したMacの登場は2021年
  • 将来的にはMacの全ラインナップをARMベースのプロセッサに

今年3月にMing-Chi Kuo氏がレポートの中で、2020年の第4四半期から2021年第1四半期にARMベースのプロセッサを搭載したMacが登場すると予測し、それから開発者の間でWWDCでの発表の可能性が現実味をもって議論され始めていた。ARMベースのMacの登場が2021年第1四半期にずれ込むとしても、今年のWWDCで移行プロジェクトを発表し、開発者に必要なツールを提供しておかないとアプリケーション開発の対応が間に合わないからだ。

  • WWDC20

    今年のWWDCは初の完全オンライン開催

独自開発プロセッサへの移行発表は、今年のWWDCキーノートのハイライトになり得る。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響でWWDC20は完全オンラインイベントに変更され、例年とは異なる。WWDC20のキーノートの詳細も9日時点で明らかになっていない。独自開発プロセッサの発表時期を含めてAppleがスケジュールを大幅に変更している可能性もあり、そのためGurman氏は「早ければ今月に年次開発者カンファレンスで発表」としている。

過去に2度プロセッサ移行を成功

ARMベースのプロセッサを採用する理由は、Intel製プロセッサの向上ペースの減退。Intelの製品ロードマップにMacの新製品投入計画が制限される状態が続いている。独自開発ならプロセッサ・レベルからMacのための設計を徹底でき、ハードウェアとOS、ソフトウエア、サービスが連動するAppleの強みをより引き出せる。

ただし、アーキテクチャが異なるプロセッサの移行は容易な作業ではない。プラットフォーム規模のトランジションになり、ユーザーや開発者にも影響が及ぶ。例えば、Microsoftが昨年秋にARMアーキテクチャのMicrosoft SQ1プロセッサを搭載した「Surface Pro X」を発表した。同社はx86向けのWindowsアプリケーションをARMベースのWindowsで動作させるエミュレーション機能を用意しているが、同機能では64bitのx86命令が変換できない。そのためAdobeの「Lightroom」のようなx86互換の64bit版だけで提供されているアプリケーションを利用できないという制限が生じている。

Appleがどのようなトランジション計画を講じるかが注目点になるが、同社は過去に2度、ユーザーや開発者の負担を最小限にとどめてプロセッサの移行を成功させている。最初は68Kと呼ばれるMotorola製プロセッサからIBMのPowerPCへの移行 (1994年〜96年)、そしてPowerPCからIntel製プロセッサへの移行 (2005年〜06年)だ。同社はまた、プロセッサの移行だけではなく、2001年〜03年にMac OSからMac OS Xへの移行も成功させている。

  • WWDC基調講演で「それは真実だ!」とIntel製プロセッサへの移行を発表

    2005年にIntel製プロセッサに移行し始める前、AppleはWintelと対立する関係だったため「まさかAppleが」という雰囲気だったが、WWDC基調講演で「それは真実だ!」と発表

プロセッサの移行は2つの取り組みから成る。1つはApple側の取り組みで、ARMアーキテクチャに対応するARMネイティブなmacOSを用意し、そしてARMベースのプロセッサを搭載するデバイスを提供しなければならない。もう1つは、前述の開発者側の取り組み。Mac向けのアプリケーションを新しいプロセッサに対応させなければならない。

前回のIntel製プロセッサへの移行の際には、2005年6月にWWDCで移行プロジェクトを発表。その時点でIntel製プロセッサに対応するMac OSを用意し、2006年1月にIntel製プロセッサを搭載したMacBook ProとiMacを発表。そして同年8月にMac ProとXserveにもIntel製プロセッサを搭載して、約7カ月でラインナップの移行を完了させた。アプリケーション開発者には、PowerPCとIntel製プロセッサの両方の環境で動作するアプリケーション (Universal Binary)を、Xcodeで簡単にコンパイルできるようにした。Universal Binaryは、Mac OS Xにおける64bitへの移行の際にも活躍した。

  • 2年計画だったIntel製プロセッサへの移行

    Intelプロセッサへの移行の際には2年のトランジション期間を設定、スムースに移行を完了させた

ARMベースのプロセッサ搭載については、Macのラインナップ全体ではなく、効率性を活かせるモバイルノートのみの移行にとどまるという予想もある。いずれにせよ、Appleがプロジェクトの発表に踏み切るなら、スムースなトランジションと共にARMベースの独自開発プロセッサの利点を引き出してくれると期待できる。