産業技術総合研究所(産総研)は、培養対象の細胞に培養液を流したり、電気刺激を加えたりできる「組織培養デバイス」を用いて、栄養や薬剤を供給可能な、実際の血管に似た3次元組織の作成に成功したと発表した。
この方法で作成された人工組織は、主血管と毛細血管に分かれており、実際の血管に近い構造を持ち、培養液を流すことで、血液が臓器に運ばれるまでの環境を模倣できるという。これにより、従来2次元的に模倣されてきた環境に比べ、より実際の体内に近い3次元的な組織の作成が可能となるため、医薬品開発、再生医療、がん研究の分野での応用が期待される。
同成果は、産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 ステムセルバイオテクノロジー研究グループ 木田泰之研究グループ長、森宣仁 研究員、赤木祐香 研究員、髙山祐三 主任研究員らのグループによるもの。詳細は「Scientific Reports誌」にて発表された。
医薬品開発、再生医療、がん研究といった分野では、生体内での環境を模倣した実験が必要不可欠である。当該分野では、酸素や栄養、薬剤といった観察対象が、どう運ばれ、どう振る舞うのかを観察するため、「3次元組織」と呼ばれる細胞と組織ゲルを組み合わせた人工組織が注目を集めている。
しかしこれまでは、これらの3次元組織に、主血管と毛細血管を持った実際の血管に近い構造を持った人工血管の作成は困難であった。そこで研究グループは、まず臓器の機能を担う実質細胞、血管のもととなる血管内皮細胞、血管の形成を助ける間葉系幹細胞を培養皿で増やし、コラーゲンと混合した。
次にこの混合液を、組織培養デバイスを型として流し込み、あらかじめ入れておいたニードルを抜いてトンネルを形成。その内壁に血管内皮細胞を接続し、主血管を作成した。さらに主血管に培養液を流し込むことで、血管内皮細胞を活性化し、毛細血管を作成した。
この人工血管に培養液を流して観察すると、主血管と毛細血管が接続されていることが確認できたという。また、実質細胞として肝臓由来の細胞を使用することで、薬剤の代謝や肝機能を示すタンパク質発現の計測にも成功した。
研究グループは今後、iPS細胞由来の細胞を用いた組織の大量生産・高機能化や、より複雑な構造を持つ脳や小腸といった組織の作製も目指すとしている。