新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でマスクの品薄状態が続く中、マスクの自社生産に乗り出したシャープ。4月21日には個人向けの販売をスタートしたものの、直販サイトにアクセスが集中してつながりにくい状況が続き、さらにはシャープのスマート家電でクラウドサービスが使えなくなるという、思わぬ事態まで引き起こしました。

  • シャープ、マスク販売再開急ぐ

    シャープの自社製マスク
    (画像提供:シャープ)

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    シャープのスマート家電でクラウドサービスが使えなくなるという、思わぬ事態も(写真は、同社のスマートホームサービス「COCORO HOME」発表会より)

シャープは問題解消を図るべく対策を進め、マスクの販売再開を目指しているますが、4月23日時点では見通しは立っておらず、次回販売についてはマスク販売サイトで案内する、としています。

早期のマスク販売再開とスマート家電のネットワーク機能復旧を願いつつ、今回も同社広報へのメール取材から見えてきたことをお伝えしたいと思います。

【4月23日11時45分追記】シャープ広報からの追加の回答を元に、一部の記述を加筆修正しました。

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    シャープは4月22日10時からのマスク販売を休止した

マスク販売の影響、スマート家電まで及んだ理由

シャープは自社製のスマート家電について、“AIoT家電”という独自の表現をしています。AIoTとは、AI(人工知能)とIoT(Internet of Things、モノのインターネット)のテクノロジーを結び付けた造語で、家電見本市「CEATEC JAPAN 2015」でそのコンセプトを披露して以来、スマート家電とその周辺を取り巻くサービスの開発に力を入れてきました。

同社のAIoT家電には、エアコンや冷蔵庫、空気清浄機、洗濯機、各種調理器具といった白物家電をはじめ、テレビ、スマートフォン、モバイル型コミュニケーションロボット「RoBoHoN(ロボホン)」などがあり、2019年9月時点で11カテゴリー292種の製品を展開。2020年からは、北米市場への市場投入も始まっています。

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    シャープのAIoT家電。白物家電からロボホンまで幅広いラインナップ

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    シャープが1月の家電/テクノロジー見本市「CES 2020」で披露した、北米市場向けの家電製品群。右端のビルトインタイプの電子レンジとスチームオーブンは、専用アプリから操作できる

2019年10月には、シャープ100%出資子会社のAIoTクラウドを設立。独自のAIoTプラットフォームを、他社のスマート家電と幅広く連携させることを目指しています。ライター・ジャーナリストの山本敦氏取材記事によると、実際に家庭でインターネットに接続して使われているAIoT家電の台数は65万台に達しており、シャープでは「2020年に累計400機種以上までAIoT家電を拡大する」という目標を掲げているそうです。

AIoTのさらなる展開強化を図っていたシャープでしたが、今回のマスク販売の影響が自社のAIoT家電に及んだことで、クラウドサービスが正常に利用できなければ製品そのものの魅力が薄れてしまうという、重大な課題が浮き彫りになりました。

そもそも、マスク購入のアクセス集中がなぜ、AIoT家電に影響したのか。

シャープのAIoT家電は、「COCORO+」というクラウドサービスを用いて家電の各種センサーとクラウド上のAI(人工知能)を連携させ、さまざまな便利機能を提供しています。スマホアプリで操作するときは、会員サイト「COCORO MEMBERS」にログインする必要があります。

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    AIoT家電用のスマホアプリでは、自宅にあるCOCORO+対応製品の稼働状況を機器リストから確認できる(写真は、同社のスマートホームサービス「COCORO HOME」発表会より)

このCOCORO MEMBERSは、会員登録するとシャープの家電を一元管理でき、登録したシャープ製品のサポート・サービスなどが受けられるほか、COCORO+のサービス提供やシャープの通販サイト「COCORO STORE」の利用にも必要となる存在です。今回のマスク販売でも、COCORO MEMBERSの仕組みが活用されています。

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    シャープの通販サイト「COCORO STORE」

シャープの説明を元にまとめると、COCORO MEMBERSやCOCORO+といったサービスは同じプラットフォームで運用されており、それぞれのアプリケーションソフトのユーザー認証にはCOCORO MEMBERS会員基盤との通信が必要となります。

今回、マスク販売にあたって同社は万全を期していたものの、直販サイトに「想定以上のアクセス」が集中。これを受けて接続(入口)を絞るファイアーウォールが働き、マスク販売ページへのアクセスだけでなく、AIoT家電が連携する各COCORO+サービスもつながりにくくなり、ログインができないなどの現象が発生してトラブルが起きました。物販とスマート家電の「認証の入口」が同じだったことが、一連の事態を引き起こしたというわけです。

事前の報道で大きな注目を集めていたシャープのマスク。アクセス集中の可能性は同社でも検討していたはずですが、万全を期しても落ちないサービスはないというもの。シャープ公式Twitterからは「マスクのネット自社販売について『そこ大事なとこだろ』というお声、たくさん頂戴しております。ぐうの音も出ません。」と弱気なひと言が漏れました。

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    シャープ「SHARP COCORO LIFE」のWebサイトに掲載されている、AIoTプラットフォームの概要

実際、マスク販売開始と前後してTwitterなどを中心に、シャープのエアコンや空気清浄機がアプリから操作できないといったツイートが複数あったほか、ネコの健康を見守るためのシステムトイレ型「ペットケア モニター」の情報をアプリから確認できなくなったという報道もありました。

赤外線リモコンや物理ボタンからは通常通り操作できる、という声も一部では見られましたが、いずれにしてもAIoT家電ユーザーからはさまざまな不具合の指摘が上がっていたことは事実です。

また、COCORO MEMBERSへの会員登録にあたり、必要事項を入力後に登録完了させるための認証コードメールがいつになってもユーザーに送られてこない、という問題が多数発生したことも明らかにしており、これについても原因究明を進め、「復旧に向けて全力で対応している」とのことです。

なお、ジャーナリストの大河原克行氏取材記事によれば、シャープのAIoTプラットフォームは大阪・堺データセンターのインフラを活用しており、AIoT家電以外にもオフィス向けのサービスや他社サービス・機器に対して、COCOROサービスプラットフォーム事業を提供することを考えているそうです。

ただしシャープ広報によれば、オフィス向けのサービスや他社サービスはAIoT家電向けのサービスとは別になっており、今回のマスク販売の影響範囲はAIoT家電サービスのみにとどまった、と話しています。

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    マスク販売に関連して、COCORO MEMBERSへの会員登録ができない不具合も発生した

AIoT家電への影響、「改善策を検討中」。冷静に待ちたい

ネット上では、「マスク販売のために(COCORO MEMBERSとは別の)専用サイトを立ち上げればよかったのでは?」という声が散見されます。筆者も、今回のマスク販売の影響の大きさを見ているとそう感じてしまうところがありますが、もし別の販売サイトを立ち上げるとなれば、システム構築と運営には追加のコストが発生することは避けられず、運用開始まで時間がかかればマスク販売の開始タイミングも遅れることは容易に想像がつきます。

また、COVID-19の世界的な感染拡大の影響で平時よりも需要が高まり、価格が上がったマスクに、新たな販売サイトを立ち上げることによるコストを付加するわけにもいかないと考えられます。

シャープのマスク生産は「企業としての社会貢献」であり、異例ずくめの状況の中で始まった取り組みです。同社は2月28日にマスクの生産を決定し、そこから政府や鴻海(ホンハイ)精密工業などのサポートを受けながら、わずか1カ月で生産を開始。可能な限りマスクが必要とされるところへ提供できるよう、まずは政府への納入を優先した上で、個人向けの販売にこぎ着けました。

毎日マスクの在庫を補充し、購入日を含めて3日間再購入できなくする仕組みを導入するなど、ここまでの動きは非常に迅速でした。AIoT家電についても、マスク販売のたびにユーザーへの影響が出ては困ってしまいますが、シャープ広報は「詳細を現在調査中で、改善策を鋭意検討中」とコメントしています。

現時点でマスク販売はまだ再開されていませんが、シャープが一人でも多くの人にマスクを届けるためにどのような対策を取るのか、いち消費者としてはまずは冷静になって待ちたいものです。

【4月23日19時30分追記】シャープは、直販サイトでの個人向けマスク販売を抽選方式に変更すると発表しました。

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    (画像提供:シャープ)