中国国有の宇宙企業「中国航天科技集団」は2020年3月17日、新型ロケット「長征七号甲」の打ち上げに失敗した。

長征七号甲は、2016年にデビューした中型ロケット「長征七号」を改造したロケットで、今回が初めての打ち上げだった。

失敗の詳細や原因はまだ不明だが、場合によっては他のロケットの打ち上げや、中国の宇宙計画全体に影響が及ぶ可能性がある。

  • 長征七号甲

    長征七号甲の模型 (C) CALT

長征七号甲ロケットとは?

長征七号甲(CZ-7A)は、中国最新のロケットのひとつで、主に静止衛星を打ち上げること、そして旧型ロケットからの代替を目的に開発された。

中国は長らく、低軌道衛星打ち上げ用の「長征二号」ロケットと、それから派生した静止衛星打ち上げ用の「長征三号」ロケット、極軌道打ち上げ用の「長征四号」ロケットを運用してきた。しかし、長征二号は1960年代の設計であり、旧式化が進んだこと、また推進剤に毒性の強い物質を使っており、環境や人体に悪影響を与える危険があることなどから、2006年にこれらを代替する新型ロケットの開発が決定された。

この新型ロケットは、超大型ロケットの「長征五号」、小型ロケットの「長征六号」、そして中・大型ロケットの「長征七号」からなり、これらは機体の一部やロケット・エンジンなどを共通化させたモジュール式ロケットとして開発された。そして、2015年にまず長征六号がデビューし、2016年には長征七号と五号がデビューした。

このうち長征七号は、主に低軌道へ衛星を打ち上げることを目的とした2段式のバージョンがまず開発され、2016年と2017年に打ち上げに成功。そして、静止衛星を打ち上げるために3段目を追加した、長征七号甲が開発された。

長征七号は、1段目に推力1200kNの「YF-100」エンジンを2基装備。また、1段目の周囲には4基のブースターがあり、それぞれYF-100を1基ずつ装備している。2段目には、推力176.5kNの「YF-150」エンジンを1基装備している。YF-100とYF-115はともに、推進剤に液体酸素とケロシンを使う、二段燃焼サイクル・エンジンである。

長征七号甲は、1段目とブースターの機体とエンジン、そして2段目のエンジンは長征七号と同じなものの、2段目のタンクの全長は短くなっている。そして3段目に、長征三号シリーズの3段目に使っている機体や液体酸素・液体水素エンジン「YF-75」を、ほぼそのまま流用して載せているとされる。

静止トランスファー軌道への打ち上げ能力は約6tとされ、これは米国の「ファルコン9」やロシアの「プロトンM」など、他国の主力大型ロケットとほぼ同等の能力である。このため、静止通信衛星や測位衛星などを打ち上げる、中国の主力ロケットとして使われるとともに、これまでその任を担ってきた長征三号からの代替を目指すとされている。

打ち上げ失敗の概要と今後の影響

長征七号甲の1号機は、日本時間3月17日22時34分(現地時間21時34分)、海南島にある文昌衛星発射場から離昇した。しかしその後、国営メディアなどは「打ち上げは失敗に終わった」と報じ、ロケットの製造や打ち上げを担当した中国航天科技集団もそれを認めた。

現時点で、打ち上げのどの時点で問題が起きたのかなど、失敗の詳細や原因は明らかになっていない。現地で打ち上げを見学していた宇宙ファンが微博などに投稿したところによると、ブースターの分離や1段目の燃焼は正常だったように見えたとされるが、正確なところは不明である。

国営メディアは、「エンジニアが故障の原因を調査する」と述べた。

この失敗により、搭載されていた「新技術試験衛星六号」も失われた。なお、この衛星がどのような目的や能力をもっていたかは明らかにされていない。

今回の失敗は、長征七号甲や、そのもととなった長征七号だけにとどまらず、他のロケットの打ち上げにも影響が及ぶ可能性がある。

長征七号の1段目とブースターに使われているYF-100エンジンは、長征五号や六号、七号、また開発中の長征八号にも使われている。2段目のYF-115エンジンは、長征六号や七号にも使われており、そして3段目は長征三号から流用している。したがって、どの時点で問題が起きたにせよ、他のロケットの運用や開発にも影響が波及することになろう。あるいは、もし品質管理の不備などが原因だった場合には、どのタイミングでトラブルが起きたかにかかわらず、すべてのロケットに影響するかもしれない。

また、長征五号は2017年に、1段目の液酸液水エンジン「YF-77」のトラブルで打ち上げに失敗しており、昨年末に打ち上げを再開したばかりだった。

そもそも、旧型の長征ロケットから新型の長征ロケットへの移行もうまく進んでいない。長征五号は失敗を含めても、これまでに3機しか打ち上げられておらず、長征六号も2015年のデビュー以来3機しか打ち上げられていない。そして、打ち上げ能力などの点から主力ロケットとなりうる長征七号も、今回の失敗が3機目の打ち上げであり、そして今回の失敗により、旧型機からの移行もさらに遅れることになろう。

さらに、長征五号は今年、月探査機「嫦娥五号」や火星探査機「火星一号」、宇宙ステーションの最初のモジュール「天和」の打ち上げなどに使われる予定であり、打ち上げが停止することになればこれらの計画に多大な影響が出ることは避けられない。とくに火星探査機は、地球と火星との位置関係上、今年のタイミングを逃すと約2年2か月後まで打ち上げることができなくなる。

今回の失敗は、場合によっては中国のロケット技術全体の信頼性、そして宇宙計画全体に影響を与えるかもしれない。中国の宇宙開発は大きな試練のときを迎えている。

  • 長征七号甲

    長征七号甲のベースとなった長征七号の打ち上げの様子(画像は2016年の初打ち上げ時のもの) (C) CALT

参考

http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758838/c6809019/content.html
http://calt.spacechina.com/n482/n498/c14641/content.html
FAILURE: XJY-6 - CZ-7A (Y1) - WSLC - March 16, 2020 (13:34 UTC)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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