日立製作所は2月17日、世界経済フォーラム(WEF(World Economic Forum))から世界の先進工場の一つに選出された、社会インフラ制御システムを設計・製造する「大みか事業所」をプレス向けに公開した。

総合システム工場としての大みか事業所

大みか事業所(茨城県日立市大みか町)は、1969年、「世界に冠たる総合システム工場」を目指して発足。約2500名の従業員が勤務し、電力、鉄道、上下水・産業分野などの社会インフラ制御システムを設計・製造する。また、同社が提唱する「Lumada(日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称)」の実践工場でもある。

  • 大みか事業所全景

    大みか事業所全景

総合システム工場の意味について、日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット制御プラットフォーム統括本部 大みか事業所長 花見 英樹氏は、「顧客や社会の課題に対してどういったものが必要であるかを考えシステムを作成する。開発・製造、保守、品質管理まで一貫体制による情報管理体制による情報システム開発で、社会インフラシステムの品質と安定稼働を支えている」と説明する。

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット制御プラットフォーム統括本部 大みか事業所長 花見英樹氏

総合システム工場に向けては、各工程でさまざまな取組を行っている。

RFIDとカメラ映像で問題点を把握

制御盤組立工程では、RFID(ICタグ)やカメラ映像の分析などにより、リードタイムを約50%削減したという。

具体的には、作業員はRFIDが埋め込まれ自身の身分証明と作業指示書を作業前にリーダーに読み込ませることで、その日に行う作業内容をディスプレイに表示。その指示に従って作業を行う。

  • 大みか事業所B棟の制御装置生産ライン

画面に表示される作業内容は1画面に1作業で、その作業が完了すると画面を遷移して次の作業に移る。画面遷移が行われるまでの時間が作業時間とみなされ、これを集計することで作業時間の平均値などのデータが算出され、想定よりも時間がかかった場合は、その作業を録画したビデオ映像を分析して原因を追究。作業指示書の書き方や設計自体の問題点を洗い出し、指示書の変更や次の製品の設計などに反映させるという。

  • 立体表示の作業指示書の画面遷移

  • 各作業場には8台のカメラが取り付けられている

作業指示書は設計図ではなく、3D画像による立体表示で、これらは設計書から半自動で作成。また、さまざまな工程の作業時間を蓄積することで、新製品の生産計画の参考にするという。

  • 右上が立体表示の作業指示書。右下が8台のカメラ映像。左の表とグラフは作業時間の実績値で、目標値との差が大きい作業が問題のある作業。それをカメラ映像で分析する

生産進捗・実績管理ソリューションで生産性を3割向上

プリント基板組立現場では、JUKIの電子部品用自動倉庫と自動搬送装置(AGV)を導入。JUKIのロボットアームが、部品入庫の検品作業を行い、検品が終わった部品は、AGVが自動倉庫に格納する。また、作業のための部品が不足する場合は、AGVが自動倉庫から部品を取り出し、現場まで搬送する。

  • 電子部品用自動倉庫と自動搬送装置(AGV)

  • AGVから部品を受け取る作業員

また、プリント基板生産現場では、「生産進捗・実績管理」「稼働実績分析」「不具合解析」「設備保全」「在庫管理」といった5つのソリューションにより、生産性向上や不具合発生時の原因解析率向上を実現する。生産進捗・実績管理画面では、自動倉庫の空き容量や温度などラインを構成するさまざまな生産設備の稼働状況と、組み立て用部品の在庫切れなどのエラー発生設備をリアルタイムに可視化する。

  • 上部にある生産進捗・設備稼働状況画面

これらにより、プリント基板組立現場では生産性が30%向上したという。

シミュレータを用いたシステム試験やサイバー攻撃に対する訓練施設

ソフト設計・開発工程では、自律分散フレームワークを独自開発。このフレームワークは全体システムはサブシステムの集合体という形態で、各サブシステムは自らを制御し故障は他のサブシステムに影響しないようになっているほか、サブシステムは互いに協調するという。このフレームワークはソフト、ハードのオンラインでの拡張が容易で、既存システムを稼働させながら、新たなシステムを追加していくという社会インフラ制御システムに適しているといい、現在、鉄道など4000システムに採用されているという。

  • 独自開発した、自律分散フレームワーク

また、同事業所では、本番環境と同じ環境をサイバー空間上に模擬したシミュレータを用いたシステム試験を実施。制御装置は、短いもので数カ月、長いものだと2年程度かけてテストを行うという。

鉄道では、JR東日本の東京圏輸送管理システム(ATOS)の環境を大みか事業所内に再現。本番と同じデータを利用したテストを行っており、JR東日本の指令所職員の教育環境としても利用されているという。

  • 列車走行シミュレータ(TTS)

同事業所では「Sense(見える化)」→「Think(分析)」→「Act(対策)」の3つのサイクルをまわすことで、生産性向上と品質向上を図り、成熟度モデルのレベルアップを図っている。

  • 成熟度ベースのアプローチ

花見氏によれば、現在の大みか事業所は、各工程で異なるが3~5のレベルだという。

そのほか、同事業所内には、サイバー攻撃に対する訓練施設「NxSeTA」(Nx Security Training Arena)もある。この施設では、重要インフラへのサイバー攻撃を想定し、情報システムや制御システムの現場の人員だけでなく、経営層に向けても訓練を行う。講師と攻撃(レッドチーム)を日立の社員が務め、防御側(ブルーチーム)を訓練を受ける企業が担当。プログラムは電力、鉄道、その他分野の3つからなり、各企業のセキュリティポリシーやマニアルに沿ったカスマイズ仕様の訓練になっているという。

  • サイバー攻撃に対する訓練施設「NxSeTA」(Nx Security Training Arena)

これらの取組が認められ、同事業所は世界経済フォーラム(WEF(World Economic Forum))から世界の先進工場「Lighthouse」(灯台:企業の指針)の一つに選出された。

  • 世界の先進工場「Lighthouse」に認められた盾

変圧器の設計製造およびその試験所がある国分工場

また同日は、変圧器の設計製造を行う国分工場の一部や日立製作所の「創業小屋」も公開された。

国分工場では、500MVAを超えるような大型の変圧器も製造しており、それを輸送するための線路の引き込み線も設置。組立工場の隣には、完成品を試験するための高電圧大電力試験所があり、最大試験電圧1600KVの交流高電圧発生装置、最大試験電圧1500kVの直流高電圧発生装置、3000kVまでの雷インパルスの試験ができるインパルス電圧発生装置を備える。現在では、国際的に通用する試験報告書を発行できることから自社製品だけでなく、試験をサービスで提供する事業にも注力しているという。

  • 交流高電圧発生装置

  • 直流高電圧発生装置

また、日立事業所 海岸工場の敷地内には「創業小屋」(当時のイメージを再現)もある。創業小屋はもともとは日立鉱山のふもとにあったが、海岸工場内に再現された、なお、来年には日立の福利厚生施設である「大みかクラブ」の敷地内に移設される予定だという。

創業小屋は、当初、日立鉱山で利用される海外製機器の修理を目的としていたが、1910年には日立製作所初の自社製品である「5馬力誘導電動機(モーター)」もこの創業小屋で開発されたという。

  • 日立事業所 海岸工場内に再現された「創業小屋」