神戸大学大学院工学研究科の田中勉准教授らと理化学研究所の研究グループは14日、大腸菌の代謝系を改変して生物資源(バイオマス)を与え、ナイロン原料の生産性を8倍に引き上げる技術を開発したと発表した。ほかの物質生産にも応用でき、食品・医薬品や化成品原料の生産性向上が見込めるという。

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    通常の大腸菌を用いた培養(上)と、改変した大腸菌を用いた培養(下)。(神戸大学提供)

大腸菌にバイオマスを与えると、菌体の維持・増殖とともに目的とする生産物を作らせることができる。ただし、バイオマスを多く与えても、菌体ばかりが増殖することがよくある。大腸菌の代謝系は1つしかないため、菌体維持のためのエネルギーを削って生産性を向上するのは不可能だ。

研究グループはまず、原料として食糧と競合しないリグノセルロース系のバイオマスに着目し、その構成要素であるグルコースとキシロースを効率的に利用する代謝系を設計した。次に大腸菌を改変して2つの代謝系を独立して保持させ、設計した代謝系を構築。この改変により、グルコースを原料として目的物を生産し、キシロースを原料として菌体を維持・増殖できるようにした。

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    新技術によるムコン酸の生産性向上(神戸大学提供)

この結果、ナイロンの原料であるムコン酸と呼ばれるジカルボン酸を最適な培養条件で80時間後に1リットル当たり4.26グラム作ることに成功。同じ株を使った従来の方法では同0.53グラムだった。理論上の最大収量に対する実際の収量でも、グルコース1グラム当たり0.31グラムという世界最高値を得たという。従来の最高値は同0.21グラムだった。

ムコン酸以外にも食品・医薬品の添加剤として知られる1,2-プロパンジオールや芳香族化合物の必須アミノ酸であるフェニルアラニン、重要なアミノ酸であるチロシンの生産性向上も確かめ、汎用性が高い技術になることが示されたとしている。

糖類の使い分けで大腸菌の代謝を制御できることを示した今回の成果は、さまざまな糖類が混在するバイオマスを目的別に有効利用することにも貢献が期待できる。

この研究は科学技術振興機構の未来社会創造事業の助成で行われ、結果は1月14日に英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。

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