パナソニックは眼鏡型VRグラスを新開発し、家電・テクノロジー見本市「CES 2020」に参考出展した。メガネっぽいコンパクトサイズで軽いだけでなく、パナソニックのAV関連技術を投入して圧倒的な高画質を実現している点も大きな特徴だ。筆者は今回、このVRグラスの試作機を短時間ながら体験することができた。

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    パナソニックが「CES 2020」に合わせて発表した「眼鏡型VRグラス」

パナソニックが1月7日に発表した眼鏡型VRグラス。その最大の特徴は、「4Kを超える高解像度で、世界で初めてHDR(ハイダイナミックレンジ)に対応」したことだ。かけたところは、ぱっと見では映画「マトリックス」のモーフィアスや、SFアニメ「攻殻機動隊」のバトーっぽい雰囲気で個人的にニヤリとしてしまうのだが、中身は既存のどのヘッドマウントディスプレイ(HMD)にも引けを取らないハイエンド仕様になっている。

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    パナソニックの眼鏡型VRグラスは、4Kを超える高解像度で、世界で初めてHDRに対応

VRグラスの左右には、大手のVRグラス向けデバイスメーカーであるKopinとパナソニックが共同開発したマイクロ有機ELパネルを搭載しており、画素境界が網目のように見えて精細感が削がれる「スクリーンドア効果」の発生も抑制。これに、Kopin社、3M、パナソニックの3社で新たに共同開発した超薄型パンケーキレンズを組み合わせ、クリアで歪みのないHDR映像を実現した。

試作機では4K相当の解像度とHDR表示を実現しているが、今後、1.3型/2,560×2,560ドット(5K相当、2,245ppi)で、HDR/120Hz表示に対応したデバイスを搭載予定だ。

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    眼鏡型VRグラスをかけたところの側面

テクニクスブランドの高級イヤホン「EAH-TZ700」で採用されている磁性流体ドライバーを備えたイヤホン部や、テクニクスのデジタルアンプも採用するなど、VRグラスとしては異例といえるほど音質にこだわっているのも大きな特徴といえそうだ。

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    テクニクスイヤホン「EAH-TZ700」で採用されている、磁性流体ドライバーを備えたイヤホン部。使わないときはマグネットでツルにくっつく

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    テクニクスのデジタルアンプも採用。試作機では外付けボックスに収納されていた

今回体験した試作機は、VR映像を出力するパソコンと様々なケーブルで有線接続されていた。製品化するときは、VRグラスと映像出力デバイスをUSB Type-Cケーブル1本でつないで映像・音声を伝送することを目指している。音声についてはワイヤレス伝送にすることも含めて検討中とのことだ。さらに、VRグラスそのものをスタンドアロン(単体)で動作することも検討している。

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    VRグラスのツルにはUSB Type-C端子を内蔵。映像出力デバイスとUSB Type-Cケーブル1本でつなぐ形を目指している

試作機のデザインは通常のメガネに似ており、レンズ部は分厚い楕円の円筒状にしたような形状だ。装着するときは、既存のVRゴーグルのように頭にかぶるのではなく、普通のメガネと同じようにスッと掛けるだけで良い。

内部に視力矯正用のレンズを追加できるため、眼鏡をかけているユーザーは、自分の視力に合った矯正レンズを追加してVRグラスを眼鏡代わりに装着するだけで高精細なVR体験ができる。強度の近視でメガネが手放せない筆者にとっては、メガネ無しでVR体験できる仕組みを備えていたのはありがたかった。

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    視力矯正用のレンズを内部に追加できる

表示される映像は精細感が高く、動画もなめらかに流れていく。ジャイロセンサーを備えているので、顔の向きを変えるだけで別のアングルの映像が目の前に広がる。

空撮映像のデモでは、周囲に水平線や地平線、見下ろすと地上の市街地の様子が見え、頭上を見上げると撮影時に使われた大型ドローンがすぐ手に取れる場所にあるかのように映し出された。感覚としては、ドローンにぶら下がって大都会の上を飛んでいる感じで、視野の周辺が通常のVRグラスのようにぼやけないため、足元の風景が本物の視界のようにリアルな説得力を持っており、ずっと見ていると高所恐怖症になりそうだった。

今回は試作機のレンズ側(前方)に重量があって手で支えなければならなかったが、装着時や外すときに髪が乱れたり、バンドをひっぱって頭に固定するといったひと手間がかからないのは嬉しい。

VRグラスの小型軽量化は、この眼鏡型VRグラスの開発の狙いのひとつとして上がっていたもの。パナソニック アプライアンス社技術本部 デジタルトランスフォーメーション戦略室 室長の小塚雅之氏は、「現状のVR HMDは重さが1kg~500g程度もあって重い。特に、髪形を気にする女性には受け入れがたい」と話しており、今回は150g以下という軽さを実現した。

既存のハイエンドHMDが両手に余るほど大きなサイズであることを考えると、パナソニックのVRグラス試作機が普通の眼鏡よりもひとまわり程度大きい程度のサイズで済んでいるという事実は驚くべきものだ。

また、小塚氏はVR体験の画質について、「AVメーカーから見た場合、既存のVR端末はTVに例えればSDやHD(フルHDではない)レベルに留まっており、4K/HDRの大型有機EL TVユーザーからみれば、十分とは言えないレベル」と指摘。「特にハイエンドのデザイン等のビジネス用途に使うことを考えると、現実に近い画質で表現できることが重要。“本物と間違うようなVR体験”を提供したい」としている。

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    眼鏡型VRグラスの概要

「今どきVR機器は珍しくないのでは?」と思う人もいるかもしれない。しかし、これまで様々なVRグラスを体験してきた筆者にとって、テレビをはじめとする本格的なAV機器の開発技術を有するパナソニックが手がけた眼鏡型VRグラスは、従来のHMD製品とは一線を画す機器に仕上がっていると感じた。

見た目は普通のメガネ風でスマートに装着でき、HMDみたいにゴツくはなく(かけている姿はレトロフューチャーっぽいが)、それでいて映像のクオリティは非常に高い。実力を引き出すには、映像と音質のクオリティを高めたVRコンテンツが必要だが、それらを十分に楽しめるのはそう遠い未来のことではないだろう。

パナソニックの眼鏡型VRグラスは、発売時期や価格などは未定だが、当初はB to B向けの展開を考えており、5G商用サービスの本格化に向けてさまざまな用途に応用できるよう開発を進めていくとのこと。今回のデモの中で、説明員が「2021年のCESでブラッシュアップした眼鏡型VRグラスを出展したい」と話しており、今後の動向に注目だ。