火星探査機、月サンプル・リターン探査機打ち上げへの道が開いた

今回の長征五号の復活により、中国は2020年に予定している3つの大規模な宇宙計画を、前へ進めることができるようになった。

現在中国は、2020年7月ごろに、火星探査機「火星一号(Huoxing-1)」の打ち上げを予定している。火星一号は火星周回衛星と着陸機、そして探査車からなる大規模なミッションで、質量も大きいことから、長征五号を使わなければ打ち上げられない。

なにより、地球と火星との位置関係の都合上、火星探査機の打ち上げに最適なタイミングは約2年2か月ごとにしか訪れない。そのため、もし長征五号の打ち上げ再開が遅れれば、2020年のタイミングを逃し、2022年以降へ延期となる可能性もあった。

そして2020年の後半には、月に着陸して石な砂などのサンプルを回収し、地球に持ち帰る(サンプル・リターン)探査機「嫦娥五号」の打ち上げも予定されている。嫦娥五号もまた探査機が大きいため、長征五号でなければ打ち上げられない。また、嫦娥五号はすでに完成していることから、関係者らは打ち上げ再開を首を長くして待っていた。

さらに2020年中には、大型の宇宙ステーション「天宮」の、最初のコア・モジュールである「天和」の打ち上げも予定されている。天和もまた大きな機体であるため、長征五号乙を使う必要がある。

こうしたことから、長征五号が早期に打ち上げ再開し、そして成功をもって運用に復帰できるかどうかが、これらの野心的なミッションの運命を握っていたといっても過言ではなかった。そして、無事に2019年中に打ち上げを再開したことで、当初の予定からは遅れたものの、それぞれ2020年中に実施できるめどがついたことになる。

くわえて、月探査も火星探査も、宇宙ステーション計画も、さらに次のステップへと進められるようになったばかりか、木星や土星の探査など、より大規模なミッションに挑むことができる可能性も出てきた。すでに中国科学院は、小惑星や木星、土星、さらには冥王星や太陽系外縁部などの探査構想を明らかにしており、長征五号の復活によって、その検討や実現に拍車がかかることになろう。

  • 長征五号

    試験中の火星一号。2020年7月ごろに長征五号での打ち上げが予定されている (C) CASC

進まぬ旧型ロケットからの世代交代と頻発する失敗

一方で、旧型の長征ロケットからの世代交代があまり進んでいないこと、そして旧型ロケットの打ち上げ失敗がたびたび起こっている点は懸念材料である。

長征二号、三号、四号などからの世代交代を目指して華々しくデビューした新型の長征ロケットだが、デビューから4年が経ったにもかかわらず、長征五号は前述のように3機打ち上げて1機が失敗、長征六号は2015年と17年、19年に1回ずつの計3機、長征七号は2016年と17年に1回ずつの計2機と、打ち上げ頻度はきわめて低い。対して旧型の長征ロケットは、いまなお年間約20機が打ち上げられ続けている。

新型長征ロケットは、タンクやエンジンを共通化するモジュール化を採用している以上、大量生産こそがコスト削減や打ち上げの高頻度化の鍵であり、その真価となるはずだが、まだその域に達しておらず、コスト削減などの効果も出ていないようである。

また、長征七号すらまともに打ち上げられていないにもかかわらず、その長征七号の液体ブースターを固体ブースターに換装し、打ち上げ能力がほとんど同じ「長征八号」という別のロケットの開発も進んでいるなど、開発や運用計画が迷走している気配すらある。

その一方で、旧型の長征ロケットの運用も順調とはいえない。旧型の長征ロケットは高い成功率と信頼性を誇っていることで知られるが、2016年には長征四号と長征二号が打ち上げに失敗し、2017年には長征三号が、2019年5月にはまた長征四号が失敗している。大前提として、年間約20機とかなりの数が打ち上げられていることを考慮する必要はあるが、それでも1年に約1機の頻度で失敗しているのは、生産や運用の現場でなんらかの問題が起きている可能性がある。

たとえば、次世代長征ロケットの開発や運用、切り替えに向けた準備などと並行して運用が続いていることから、現場にとって大きな負担がのしかかり、さまざまな作業を逼迫しているのかもしれない。また、それによって、あちらが立てばこちらが立たずな状態に陥っており、新型長征ロケットへの切り替えが進まない理由になっているとも考えられる。

はたして長征ロケットの今後はどうなるのか、これからの動向を注意深く見守る必要があろう。

  • 長征五号

    現在運用中の長征ロケットのひとつ、「長征三号乙」。1960年代の設計がベースになっており、今後、長征七号などへの世代交代が進む予定となっている (C) CALT

出典

http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758838/c6808545/content.html
http://www.calt.com/n689/c17004/content.html
http://www.calt.com/n482/n498/c4956/content.html
Chang Zheng-5 - SinoDefence
Successful Long March 5 launch paves way for new Chinese space missions - Spaceflight Now

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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Twitter: @Kosmograd_Info