「DJIが重量200g未満の軽量ドローンをリリースする」――。そういうウワサを耳にした私ですが、正直まったく期待は持っていませんでした。

というのも、私自身いくつかのトイドローンを所有していましたが、そのすべてが200g以上の本格的なドローンに比べるとフライト時の挙動が安定というレベルからほど遠かったからになりません。特に、ホバリングの安定性のなさは顕著で、機体がフラフラと動いてしまい、高度も含め同じ位置を維持することがとても困難でした。

撮影機能についても、満足できるものはありませんでした。スマホカメラにも及ばないお粗末なカメラが機体に直付けされ、映像や写真を積極的に撮ろうとは思えないクオリティだったからです。GPSやポジショニング機能なども当然なく、トイドローンはまさに“オモチャ”そのものでした。

それもあって、10月31日に開かれた「Mavic Mini」の記者発表会で、プレゼン終了後にまず向かったのが、会場内に設けられたフライト体験コーナーでした。もちろん、機体の安定性などを自分の目で確かめるためです。Mavic Miniのフライトを実際に試してみた私は、これまでの思い込みが大きく覆されることになったのです。

  • DJIが満を持して投入する小型軽量ドローン「Mavic Mini」。価格は、付属品を最小限に抑えたスタンダード版が税込み46,200円、プロペラガードや予備バッテリーなどのアクセサリーが付属するFly Moreコンボが税込み59,400円。販売開始は11月中旬の予定

200g未満のドローンの常識を覆す安定したフライト

まず驚かされたのが、フライトがとにかく安定していること。高度3mほどで、コントロールスティックから意図的に指を離してホバリングさせてみましたが、止まった位置から意図せず動くことがありませんでした。もちろん、風のない室内でのフライトということもありましたが、従来のトイドローンなら前述のとおり高度も含めて安定させるのが難しかったので、この重量の軽量ドローンとしては画期的です。理由のひとつとしては、下方向のビジョンセンサーを備えていることが大きいといえます。この安定感は、動画および静止画撮影では威力を発揮することでしょう。

  • 発表会では室内でのフライトに限られたが、とても安定していた

ちなみに、Mavic MiniにはGPSも搭載されていますので、屋外でも安定したフライトができるのはもちろんのこと、RTH(リターントゥホーム)などGPSを使った機能も上位クラスのドローンと同様に搭載しています。DJIの担当者によると、風速8mまでの状況ならば安全な飛行が可能とのこと。フライトモードは、通常の「Pモード」に加え、パワーのある「スポーツモード」と、ゆっくり動く「シネスムーズモード」(従来のトライポッドモード)の3つを搭載しています。

Mavic Miniですが、前述のとおり下方向のビジョンセンサーは搭載しているものの、前後左右および上方向のセンサーは備えていません。同社のドローンでもっとも人気のある「Mavic 2」シリーズはすべての方向にセンサーを備えており、これまでもっとも軽かった「Spark」(機体重量300g)は前方と下方向にセンサーを備えていますので、この点はちょっと心細く感じてしまいます。もちろん、重量を考えての設計だと思いますが、飛行の際は十分注意する必要があるでしょう。

  • 底面に2つのビジョンセンサーを搭載。機体の前後や左右、上方向にはセンサーを搭載していない

壁などにぶつかっても機体の破損を防げる別売の「360度プロペラガード」は必ず装着したいところです(Fly Moreコンボには付属)。プロペラガードを装着すると、機体の総重量は200gを超えてしまいますが、バッテリーを含む機体自体の重量が199g以下であれば、プロペラガードを装着して重量が増えても航空法の適用対象外のままとなり、トイドローンとしての扱いに変わりはありません。

  • フライトにあたっては、プロペラを360度保護する360度プロペラガード(税込み1,870円、Fly Moreコンボには付属)が必須となるだろう

異例の3軸ジンバルをおごるカメラ

ドローンのカメラ機能で外せないのが、ジンバルの存在です。ドローン用では2軸ジンバルと3軸ジンバルがあり、より効果が高いのは後者となりますが、可動部の機構が増えるので重量が増し、コストもかかります。Mavic Miniは、このクラスの軽量ドローンとしては異例の3軸ジンバルがおごられているのが特筆できます。上位モデルの「Spark」は2軸ジンバルなので、Mavic Miniのほうがより撮影を意識したドローンに仕上げられているといってもよいかもしれません。先のフライト体験コーナーでは、搭載したカメラで動画を撮影しながらフライトしましたが、意図的にちょっと激しく機体を動かしても画面は安定し、3軸ジンバルの効果をしっかり確認できました。

  • 3軸ジンバルに搭載されたカメラ。センサーは12メガピクセルの1/2.3型CMOSセンサーで、動画は2.7K(2720×1530ドット)までの対応となる

カメラ機能に関して、動画の最高画質は2.7K/30fpsとなります。4Kが撮れない点に不満を感じるかもしれませんが、趣味で楽しむには十分といえるでしょう。むしろ、4Kで撮影できても最終的にはフルHDに落とすことが多々あるので、4Kでないことに失望する必要はありません。

Mavic Miniで撮影した動画。とても安定しているのが分かる

写真は1200万画素相当で撮影できます。こちらも、現在の尺度から言えば少なく感じますが、イメージセンサーが1/2.3インチであることを考えると十分なものです。なお、カメラには絞り機構が備わっていません。晴天時などに滑らかな動きの動画を撮る場合、光量を落とすNDフィルターは必須となりますが、現在のところDJI自身が製品を販売する予定はないようです。サードパーティからのリリースに期待しましょう。

ドローンを再びブームに導けるか

Mavic Miniですが、実はグローバルモデルと日本仕様があります。違うのが機体重量で、日本仕様は前述のとおり199gですが、グローバルモデルは249gとしています。日本仕様が50gも軽量化できたのは、バッテリー容量を抑えたから。グローバルモデルの最大飛行時間は30分であるのに対し、日本仕様は18分と少なくなっています。実際は、日本仕様だと12~15分ほどの飛行時間となりそうですが、これでも不満は感じないでしょう。むしろ、航空法の適用を受けない機体重量によく仕様変更できたものだと感心させられました。

  • 本体側面に刻まれた「199g」の文字が誇らしげだ

ちなみに、グローバルモデルのバッテリーを日本仕様のMavic Miniに装着すると警告の表示がでますが、飛行は可能とのことです。ただし、航空法に引っかかる重量となるため、メーカーでは利用を推奨しないとのことでした。バッテリー自体も、日本では日本仕様のものしか販売しないそうです。

航空法の適用除外となるMavic Miniですが、航空機の飛行に影響を及ぼす行為は禁止されているほか、航空法以外での規制(小型無人機等飛行禁止法、道路交通法、条例など)については200g以上のドローンと同様に規制が及びます。航空法による規制についても、ドイローンでも遵守したほうが好ましいもの(イベント上空の飛行の禁止など)もあります。そのため、航空法をはじめとする法令や飛行のルール、マナーを十分理解しておくことが必要でしょう。

まさかの重量199gで登場したMavic Mini。これまでのトイドローンとは一線を画し、初心者からドローングラファーと呼ばれるようなベテランまで納得できる機能と性能を誇る仕上がりになっています。価格もそこそこ手ごろですので、ドローンに興味はあるけれど手が出せなかったという人に注目してほしいモデルといえます。

  • ドローンには興味があるものの所有をあきらめていた人を再び引き寄せる意欲作となりそうだ