人気のMaaS

SaaS(software as a service)から始まり、様々なものをサービスとして提供する動きが一般的になりつつあります。Microsoftも「Windows as a service」を掲げていますね。一方で、ICTを活用して交通をクラウド化し、複数の交通手段による移動を1つのサービスとして捉えるのがMaaS(Mobility as a Service)です。

CEATECでの目玉企画の1つが、無人運転による公道走行実験でした。「1回に8名×1日に6回×CEATEC会期の4日=192人」(最終日のみ7回だったのでトータル200人)しか乗れず、非常に狭き門。1日に3回、体験者を募集していたので、最終日に3回とも並んでみましたが乗れませんでした。

  • CEATEC 2019

    無人自動運転カーの公道走行実験

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    1回15分の走行を1日6回。定員はわずか8名

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    1日3回の抽選会場はこのように長蛇の列。筆者が並んだときは「今回は102名から(8名を)選びます」といわれたので、倍率は12倍以上。結局乗れませんでした

別のMaaS企画もありました。日本では珍しい「乗り合いタクシー」です。午後2時半から公式アプリ経由で予約することで、1人1,800円で千葉県の西船橋駅まで行けるというもの。幕張メッセ(CEATEC会場)の最寄り駅は海浜幕張駅ですが、イベント終了後は大変混雑するため、幕張本郷駅までバスで行くという人もいます。

西船橋駅は、JR東日本の総武本線・武蔵野線・京葉線、東京メトロの東西線、東葉高速鉄道の東葉高速線と、多くの乗り入れがある駅。交通の便が良いというメリットがあります。ただ、幕張メッセでこのイベントに気づいてのぞいてみたところ、閑散とした様子。係員に聞いてみると、知名度が少ないのかあまり利用客がいない(CEATECの2日目)ということでした。

  • CEATEC 2019

    日本では珍しい「乗り合いタクシー」。普通にタクシーで行くと4,000円以上かかる距離が、1,800円で済みます

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    話題性や知名度が足らなかったのか、「2日目に告知ボードを増やしたのですが、利用は想定以下です」とのこと

話題の量子コンピュータも

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構のブースでは、量子コンピュータの展示がありました。現在「真の量子コンピュータ」とされる量子ゲートを利用したものは研究段階にあり、日本の企業はその前段階で実用化しやすい量子アニーリングマシンと呼ばれているものをおもに開発しています。

量子アニーリングマシンは「組み合わせ最適化問題」しか解けないのですが、多数のパラメータを組み合わせた最適化問題を従来のコンピュータで解くのは時間がかかるので、実用的な意義があります。

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    名刺サイズのCMOSアニーリングマシン(日立製)は、IoTにも利用できるといわれています

富士通と日立が作っている量子コンピュータは、現在のLSIで使われているCMOS半導体を利用するもので、ブースには日立のチップを使った小型ボードが動いていました。通常のCMOS半導体ゆえに、室温で使えるというのが魅力。日立の小型ボードはIoTにも利用可能な小ささも特徴です。

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    画像処理への応用デモ。ノイズ交じりの画像からノイズを高速に除去しています

一方、超電導素子を使う量子コンピュータは、非常に低い温度でないと動作しません。NECの超電導パラメトロン素子を使用したものが展示してありましたが、この素子を動作させる温度は10mk。「℃」でいうと、-273.14℃以下に冷やさないとノイズが多くて使えないのです。

おそらく、模型のほとんどは配線と冷却機構に費やされていて、計算を行う超電導パラメトロン素子は数ミリ角のもの。将来、量子コンピュータが実用化されても、このような大がかりな装置が必要になるのでしょう。

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    NECの超電導アニーリングマシン(おそらく模型)。1mぐらいの高さがありますが、見える部分のほとんどは配線と冷却装置の一部です

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    超電導パラメトロン素子は、下に見えるホルダーに入っています

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    素子そのものは中央の四角いもの。超冷却状態でないと動作しないため、量子コンピュータが実用化されても、当分このような大がかりな装置が必要でしょう

小型スピーカーやヘッドフォンの音質向上のために

個人的にとても興味深かったのは、ソシオネクストのブースにあった技術展示。低音が出にくい小型ヘッドフォンやスピーカーの信号に倍音成分を入れることで、低音が出ているように聞こえる……つまり高音質を実現する技術です。ソシオネクストは動画のエンコード・デコードに関する事業を長年手がけており、当然ながら音響のデコード技術にも長けています。

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    Bluetoothオーディオやスピーカーを高音質にするための技術展示。Bluetoothチップ内に収まるような、負荷の軽い処理で済む点が魅力です

実際に小型スピーカーのデモを聞く限り、この技術のオンとオフで明らかに音質の改善を感じました。加えて、少ない演算負荷で実現できるのもポイント。最近は完全ワイヤレスイヤホンが人気ですが、このような技術が採用されることで、リーズナブルで高音質の製品が増えるのではないでしょうか。

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    低域が苦手なスピーカーに対して、倍音(元の周波数のn倍となる周波数の音)を付加することで、人間には低域が強調されて聞こえるという基本原理です

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    実際にこの技術を組み込んだLSIが、中国のBeken Corporationから販売されるようです