アジアを中心に格闘技イベントを展開する「One チャンピオンシップ」。10月13日には通算100回目の「ONE:CENTURY 世紀」が開催されました。それに先立ち、10月5日、6日の2日間には、格闘技とeスポーツの祭典「ONE マーシャルアーツ・ファンフェス」を実施。ファンフェスの会場で、ONE チャンピオンシップの子会社「ONE eスポーツ」CEOのカルロス氏に話を聞く機会を得たので、なぜ、格闘技イベントを主催するONEがeスポーツ事業を展開するのかなど、疑問をぶつけてみました。

選手の物語を伝えることでeスポーツのイメージを変える

――まずは、今回のeスポーツイベントを主催する「ONE eスポーツ」がどんな団体なのか教えてください。

カルロス・アリムラン(以下、カルロス):ONE eスポーツは、ONE チャンピオンシップの子会社で、日本の広告代理店「電通」から20%の出資をいただいている会社です。ONE チャンピオンシップでは格闘技を興行としていますが、ONE eスポーツではeスポーツの興行を行っていきます。日本eスポーツ連合(JeSU)ともつながりがあり、今後は日本での活動を強めていきたいと思っています。

  • ONE eスポーツ CEOのカルロス氏

――マーシャルアーツを中心とした格闘技イベントを開催するONEが、eスポーツイベントを行う理由は何でしょうか。

カルロス:格闘技とeスポーツは相容れないと感じるかもしれませんが、実はかなり親和性が高いものだと思っています。我々の調査で、ONE チャンピオンシップを観戦している人たちの約7割がeスポーツに興味があり、楽しんでいることがわかりました。

また、プロゲーマーは格闘家と同じような努力をしています。トップに立つこともリアル格闘技と同じくらい難しいでしょう。ですが、そのあたりはまだ多くの人に知られていません。つまり、eスポーツの業界では“ストーリーテリング”ができていないのです。

実は、格闘技も欧米では“血なまぐさい”印象を持たれていました。それに対して、ONEが日本の「武道の精神」を伝えていくことで、コンテンツのイメージをガラッと変えることに成功したのです。eスポーツも同じで、しっかりとストーリーテリングを行い、「どのような練習をしてきたか」「どのような努力をしてきたか」などパーソナルなストーリーを伝えていけば、マイナスのイメージを払拭し、多くの人に興味を持ってもらえるはず。それを実現したいと考え、eスポーツイベントを開催することに決めました。

  • 格闘技とeスポーツの熱気が混ざり合うイベント会場

リアルスポーツのアスリートと同等の待遇を目指して

――ONEのeスポーツイベントについて教えてください。

カルロス:まず、世界最高峰の選手を招待し、ハイレベルな試合を魅せる。これはマーシャルアーツと変わりません。それに加えて、コミュニティでプロを目指して努力している人にスポットライトを当てていきたいと考えています。そのために、まず開催するトーナメント予選は、誰でも参加できるオープン大会。この予選でニューカマー、次世代のヒーロー候補を探していきます。

初のeスポーツイベントである今回は、格闘技と親和性の高い『鉄拳7』と『ストリートファイターVAE』をピックアップ。IPホルダーのバンダイナムコエンターテインメントとカプコンに大会をサポートしていただきました。両社とも自社タイトルのコミュニティを大きくしたいと考えているでしょうし、ONEはコンテンツをお借りしたいと考えているので、継続的に良好な関係性を築いていきたいですね。

  • 『鉄拳7』の大会の様子。ゲーム画面だけでなく、大きなディスプレイには選手の表情が映し出されます

  • 『ストリートファイターVAE』の大会で優勝を決めた瞬間のボンちゃんチーム

――初のeスポーツイベントの開催地に、本拠地であるシンガポールではなく、日本を選んだ理由はなんでしょうか。

カルロス:日本を選んだのは、やはりゲーミングに強い国だからです。さまざまなゲームを生み出した日本で、最初のeスポーツイベントを開催できることを光栄に思います。

ファンフェスの開催を通じて、JeSUや電通ともつながりができました。日本でもまだまだ発展していくジャンルだと思うので、彼らと一緒にeスポーツイベントを大きくしていきたいと考えています。

――eスポーツについては、今後どのような展開を考えているのでしょうか。

カルロス:今後はグローバルに展開していく予定です。日本の選手はもちろん各国の選手が世界を舞台に活躍してほしいですね。もちろん、世界だけでなく日本での開催も考えています。

また、今回のファンフェスで採用した『鉄拳7』と『ストリートファイターVAE』以外のeスポーツタイトルも検討しています。現時点では、シンガポールとジャカルタで、ストラテジーゲーム『DOTA2』の大会が決まっています。

格闘技団体であるONEが行うeスポーツイベントなので、対戦格闘ゲーム中心と思われるかもしれませんが、タイトルは限定せず、eスポーツ全般を取り扱う興行として確立させていきたいですね。イベント以外では、ヒーローが誕生する場の創出、選手の全面的なバックアップを行う予定です。

  • イベントでは、『ストリートファイター』のプロ Xian選手のパーソナリティを伝えるムービーが流れていました

――選手へのサポートは具体的にどのようなものを考えていますか?

カルロス:選手には海外での大会に出場するための渡航費や滞在費などの支援をはじめ、ONEの格闘家、ひいては世界各国のリアルスポーツのアスリートと同等の待遇を目指していきます。

もちろん、選手にはそれに見合うパフォーマンスを求めます。ファンに対しては、いままで経験したことないワンダー(驚き)を与えていかなければなりませんし、スポンサーなどのビジネスパートナーに対しては、支援に対する責務を果たさないといけません。

そのためにも、しっかりとしたエコシステムを構築し、1回2回で終わるようなイベントではなく、ONE チャンピオンシップのように100回を超える「持続可能な形」を目指していきたいですね。

――ありがとうございました!