さらなる謎と、今後の展望

観測史上最遠方の原始銀河団の発見に成功した一方で、新たな謎も浮上した。

このz66ODには、すばる望遠鏡が2009年に発見した巨大ガス雲天体(巨大銀河)の「ヒミコ」が含まれている。これはもともと、ヒミコのある天域は天の川銀河から垂直方向にあるため、暗くて遠く(古い)宇宙を観測しやすいという背景があったためである。

このヒミコは普通の銀河の100倍くらいもあり、発見されている中でもトップクラスに巨大な銀河である。これほどの巨大銀河は、通常であれば、銀河団の中心にいるはずである。しかし、なぜかヒミコは、z66ODの中心から5000万光年離れた位置にあったという。

なぜ、これほど外れた位置にあるのか? それは、銀河団と巨大銀河の関係を理解する上で重要な手がかりになると考えてられている。

研究チームは、ひとつの可能性として、中心部分にはヒミコよりもさらに大きな超巨大銀河が存在するのではと考えている。今回の観測ではそのような超巨大銀河は見つかっていないが、これは地球から見て手前側に塵があって隠されているため、光学望遠鏡のすばる望遠鏡では見られないからと考えられるという。

そこで研究チームでは、次なる展望として、チリのアタカマ砂漠にある電波望遠鏡の「アルマ」を使って、塵の向こうにあるかもしれない超巨大銀河を探す計画を立てている。

また、ハワイで建設が予定されている「30m望遠鏡(TMT)」を使った観測でも、さらに多くのことがわかる可能性が期待されている。

宇宙誕生直後、宇宙で最も多い元素である水素は、陽子と電子に分かれた電離状態にあった。その後、宇宙が膨張とともに冷えたことで、宇宙誕生から約40万年後には、電子が陽子に捕えられて水素原子ができ、宇宙は電気的に中性になった。ところが、10億年後になるまでに再び電離(再電離)し、そして現在もその状態を保っているとされる。

その再電離の要因として、このころ誕生した初代星、初代銀河の紫外放射が考えられている。まず、光源の天体のまわりに泡状に電離水素領域が分布し、次第にその電離泡同士が拡大・結合し最終的に、宇宙は電離水素で満たされた現在の姿になったという仮説である。

実際、原始銀河団のまわりには電離泡があるという予測もあるとし、今回、宇宙再電離が起こったとされる130億年前の時代の宇宙に、原始銀河団が見つかったことは大きな成果だという。

TMTは、「すばる」よりもさらに集光力が強いため、水素以外に、炭素の輝線が見えるかもしれないと期待されている。そして炭素と水素の違いを見ることで、どれくらい電離されているのかがわかり、宇宙再電離の時代の解明に役立つ可能性があるという。

「興奮があって、驚きがあった」

今回の発見について、播金氏は「発見したときには、まず興奮があって、そしてすぐに『なぜヒミコが中心にないんだ』という驚きがありました」と語る。

そして「銀河団というのは宇宙の大黒柱。これがいつの時代からあったのかが大きな謎ですが、今回の発見で、ビッグバンから8億年にはすでに存在していたというのがわかりました。これは非常に大きなことです。これから、さらなる観測で、130億光年より遠くにある原始銀河団を探し、記録を更新していきたいと思います」と、今後への抱負を語った。

  • すばる望遠鏡

    会見する播金優一氏(国立天文台 アルマプロジェクト 日本学術振興会特別研究員)

また、研究チームのメンバーである大内正己氏(国立天文台・東京大学宇宙線研究所教授)は、「研究が始まったころは手探りでした。経緯だけ聞くとポッと見つかったように思えますが、じつはそうではありませんでした」と振り返る。

「『すばる』のHSCによって、原始銀河団らしき天体が見つかったのは2017年5月のことでした。そこに至るまでも、まず初代のシュプリーム・カムができたのが2005年、ヒミコが発見されたのが2009年、そしてその後、次世代のHSCが開発され、ようやく見つかったのです。

原始銀河団らしき天体が見つかった直後、位置を図るためにジェミニ望遠鏡に観測提案を出しました。通常は事前に申請をしなければなりませんが、すぐに観測してくれる制度があるのです。そしてそれが認められたものの、天候に恵まれず、観測できませんでした。その後、研究チームの小野宜昭氏(東京大学 宇宙線研究所 助教)ががんばってくれて、再度観測できることになりましたが、それでも十分なデータが得られませんでした。

さらにその後、2018年夏くらいにケック望遠鏡を使ってさらに位置測定を行う機会があり、ようやく特定に至りました。つまり、足掛け14年にわたって、紆余曲折の末に築き上げられた成果と言えます」。

大内氏はまた、「これまで、130億年前の宇宙を見ることを続けてきました。そして、宇宙の屋台骨、宇宙を統べる大規模構造がわかってきました。これからアルマ、TMTによる観測で、もやもやしてよく見えなかったものが、さらによく見えるようになるかもしれません」と期待を語った。

  • すばる望遠鏡

    今回の発表者。右から、播金優一氏、大内正己(国立天文台 科学研究部/東京大学 宇宙線研究所 教授)、小野宜昭氏(東京大学 宇宙線研究所 助教)

出典

観測成果 - すばる望遠鏡、130 億光年かなたの宇宙に銀河団を発見 - すばる望遠鏡
観測成果 - 古代宇宙で巨大天体を発見 - 謎のガス雲ヒミコ - すばる望遠鏡
ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam: HSC) | Kavli IPMU-カブリ数物連携宇宙研究機構
エポックⅢ:宇宙の再電離
HSCが拓いた遠方銀河の統計天文学 - 日本天文学会

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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