三菱重工業は2019年9月21日、24日に予定していた、宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機を搭載したH-IIBロケット8号機の打ち上げを、25日に延期すると発表した。

24日に打ち上げると、打ち上げ後のロケットの2段目機体が、翌日に打ち上げられるロシアの「ソユーズMS-15」宇宙船に接近する可能性があるためだという。

ロケットは当初、9月11日に打ち上げる予定だったが、打ち上げ準備中に移動発射台(ML)で火災が発生したために中止。原因究明や対策を行ったうえで、24日の打ち上げを目指していた。

新しい打ち上げ日時は、9月25日(水)の1時05分ごろ(正確な時刻は国際宇宙ステーションの軌道によって決定)、打ち上げ予備期間は9月26日(木)~10月31日(木)となっている。

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    「こうのとり」8号機を搭載したH-IIBロケット8号機 (C) 三菱重工業

COLA解析と制御落下

三菱重工によると、延期の理由は「最新の国際宇宙ステーションおよびソユーズ宇宙船の軌道に基づく解析結果により、『こうのとり』分離後のロケット2段機体がソユーズ宇宙船に接近する可能性があることがわかったため」としている。

この解析は「COLA解析」と呼び、COLlision Avoidance(衝突回避)の略であることからもわかるように、ロケットの打ち上げ後に、ロケット機体やロケットからの分離物と、軌道上の有人宇宙システム(宇宙ステーションなど)が衝突しないことを確認するために行うものである。たとえ接近するだけでも回避するため軌道変更が必要になるばかりか、もし万が一衝突すれば大惨事になる。そのため、ロケット打ち上げ時には毎回この解析が行われ、安全であることを確認したうえで打ち上げたり、接近する可能性がある場合は今回のように延期したりといった判断が下される。

今回、接近する可能性があるソユーズ宇宙船というのは、H-IIBロケット8号機の打ち上げから約1日後の、9月25日22時57分(日本時間)に打ち上げ予定の、ロシアの「ソユーズMS-15」宇宙船である。

三菱重工によると、「これまでのH-IIBロケットによるHTVの打ち上げでは、軌道投入後の高度200~300kmより高い軌道を対象に解析していたが、今回はソユーズMS-15の打ち上げがあることから、高度150kmあたりの低い軌道も含めて解析したところ、制約に引っかかった」と説明している。

なお、H-IIBロケット8号機は、打ち上げ後に2段目機体の「制御落下」を行うため、本来ならソユーズMS-15の打ち上げ前に、すでに軌道から離脱している。ただ、万が一トラブルなどで制御落下ができなかった場合を考え、延期を決定したという。

制御落下とは、打ち上げ後に2段目機体が軌道に残り、国際宇宙ステーション(ISS)をはじめとする他の宇宙機にとって脅威にならないよう、自発的に軌道から離脱させ、大気圏に再突入させて処分する運用のことである。H-IIBでは2号機以降、制御落下を継続して行っており、全号機、計画した南太平洋上の水域への落下に成功している。

この制御落下を行うにはいくつかのハードルがある。まず、H-IIBの2段目機体が「こうのとり」を分離したあと、機体の健全性を確認したのち、問題がなければガス・ジェットを噴射して機体を反転させる。そして軌道を約1周し、種子島のアンテナから見える範囲(可視域)に戻ってきた際に、再度、機体の健全性と落下推定点を確認。そこで問題がなければ、許可コマンドを送信し、それに受け、2段目機体はエンジンを再着火し、逆噴射して軌道から離脱する。

したがって、問題があった場合は制御落下が行えないため、そのまま軌道に残り続ける。ソユーズMS-15と接近する可能性があるのは、その場合においてのみであり、可能性は低いものの、「安全を第一に考えて延期を決めた」(三菱重工)としている。

  • H-IIB

    打ち上げ準備中のH-IIBロケット8号機 (C) 三菱重工業

H-IIBロケット8号機/「こうのとり8号機」

H-IIBロケット8号機は、「こうのとり」8号機(HTV-8)を所定の軌道に投入することをミッションとしている。三菱重工の打ち上げ輸送サービスで5機目のH-IIBの打ち上げであり、7号機からは約1年ぶりの打ち上げとなる。また、2018年11月に「宇宙活動法」が施行されてから、三菱重工にとって初のロケット打ち上げであり、同社が主導的な役割、及び責任を担っている。

「こうのとり」8号機には、宇宙飛行士の生活用品や食料品、実験装置、ISS用の新型バッテリーなど、約5.3tの物資を搭載している。

また、「こうのとり」7号機までは、姿勢決定のために地球のエッジ(縁)を検出する「地球センサー」を用いていたが、今回の8号機からは星の配置をもとに制御する「スタートラッカー(恒星センサー)」に変更。このスタートラッカーは、現在運用中の多くの人工衛星で一般的に使用されている姿勢決定用センサーで、地球センサーに比べて高精度な姿勢決定が可能になる。

さらに、スタートラッカーは地球ではなく恒星のデータを使用するため、地球から離れたところでの飛行においても姿勢制御が可能となることから、現在開発中の新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」にも使用されることになっている。

打ち上げ計画、飛行経路などは、7号機などこれまでのミッションと基本的に同じ。打ち上げ後、ロケットは南東方向に飛びながら、SRB-Aやフェアリング、第1段機体を分離。離昇から約15分後に「こうのとり」8号機を分離する。その後、「こうのとり」8号機は単独で飛行し、ISSとランデヴー。打ち上げから約4日後にISSと結合する。

  • H-IIB

    宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)。画像は2012年に飛行した「こうのとり」3号機のもの (C) NASA

出典

H-IIBロケット8号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機(HTV8)の打上げ延期について|三菱重工
プレスキット : 宇宙ステーション補給機(HTV) - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - JAXA
MHI Launch Services(@MHI_LS)さん | Twitter」
H-IIB | ロケット | JAXA 第一宇宙技術部門 ロケットナビゲーター
JAXA|H-IIBロケットの概要

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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Twitter: @Kosmograd_Info