課題を多く残した「温泉×eスポーツDAY」

イベントには、大阪や岩手など県外からも多くの人が訪れた。当日の参加者は200人を越え、会場はまさに宴会のような盛り上がり。鳥取県eスポーツ協会初のイベントとしては一定の成果を出せたといえるだろう。

「そうですね、目指している形はまだまだ遠いですが、ステップ1としてはひとまず成功したと言えるでしょう。狙い通り、みなさん畳のうえでリラックスしながらゲームを楽しんでくださったのも伝わりました。ストVでは、ゲストにプロゲーマーを招いて、当日のトーナメント優勝者とエキシビジョンマッチをやってもらったのですが、そのときの会場の熱気はすごかったですね。ただ、初めての取り組みということもあって、正直、反省点も多かったと思います。できるだけ鳥取の特色を押し出すイベントにしたかったのですが、協賛の獲得がうまくいきませんでした」

  • ストV部門では、島根県のYHC-餅選手が優勝した。実は、日本人初のプロゲーマーであるウメハラ選手に、かつて「オンライン対戦でどうしても勝ち越せない相手」と言わせたほどの人物である

手ごたえはあったが、反省点も多かった。特に渡部氏が残念がっていたのが「地元企業の協賛」の数だ。今回「温泉×eスポーツDAY」に協賛したのは、鳥取県民のソウルドリンク「白バラ牛乳」を提供する「大山乳業」や、山陰の情報を発信するWEBマガジン「山陰ペディア」、幅広い事業を展開する鳥取の企業「エヌ・シー」、油そば専門店「笑麺亭」、定食屋「米蔵」、レストラン「バロンジャヤ」の6社。県外から訪れた人に、鳥取の魅力をあますことなく伝えるには、もっと多くの企業に協力してもらいたかったと渡部氏は話す。

「eスポーツが浸透していないことや、当日何人来るのか数字を提示できないことで、断られてしまったケースがほとんどですね。今回の実績を次回以降の説得材料に使いたいと思います。協賛いただいた企業の方からは、おもしろいと評価していただけました」

また、協賛の獲得が思うように伸びなかった理由には、eスポーツへの認知度だけでなく、鳥取の県民性も関係していると渡部氏は分析する。

「鳥取県は東西に長い県です。これはイメージですが、西部はわりと積極的に新しいものを取り入れていく性格であるのに対して、東部は比較的保守的。実際、会場の東光園さんは西部に位置していて、新しいものをどんどん取り入れていきたいという考えがありました。企画室の方が柔軟に対応してくださったこともあって、スムーズにイベントを実現できたと思います」

東西でタイプの異なる鳥取の県民性。傾向として、断られたのは東に位置する企業が多かったという。東部エリアにも鳥取らしい特色ある企業は多いはず。今後の課題は鳥取全土を巻き込んでいくことかもしれない。

目指すは最先端情報が学べる“寺子屋”

ステップ1は成功と話していた渡部氏。目指している形とはいったいどのようなものなのか。この先のビジョンを聞いた。

「そうですね、将来的には最新の技術や情報を手に入れられる“寺子屋”のようなものを作りたいと考えています。AIやIoT、プログラミング言語など、さまざまな知識が集まる場所にしたいんです。eスポーツはあくまできっかけにすぎません。広い世界を鳥取の人に見せてあげたい。そして、鳥取に住んでいる人が世界に挑戦できる環境を整えたいと考えています」

AIやIoT……。eスポーツとは直接的には縁がなさそうな言葉が出てきた。いったいどういうことなのか。

「鳥取県にいると新しい情報が手に入りづらいと嘆いている人が多くいます。おそらく情報の手に入れ方を知らないだけだと思いますが、鳥取県の若い世代の人たちがもっと世界の最新情報に触れられるようなコミュニティとして発展させていきたいのです。これから伸びる産業への嗅覚、ビジネスをするために必要な知識やスキルなどを身につけられるようにしたいですね」

  • 鳥取県eスポーツ協会の渡部裕介氏

    渡部氏は協会の目指すビジョンを語る

オープンイノベーション空間やアクセラレーション拠点のようなものだろうか。それとも「CEDEC」や「E3」のような展示会のイメージだろうか。どちらにせよ、すぐに実現するのは難しいだろうが、渡部氏のなかにはきっとそこまでのロードマップが描かれているのだろう。

eスポーツイベントのその先。いつしか鳥取県が「最先端の情報が集まる場所」ランキングの上位を獲得する日も訪れるのかもしれない。