3月25日に開かれたスペシャルイベントでAppleが4つのサービスを発表し、雑誌のサブスクリプション「Apple News+」をすぐに開始した。「2019年夏」とアナウンスされていたのが、Apple初の金融サービスとなるクレジットカード「Apple Card」だ。

米Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)とパートナーを組んで発行するこのクレジットカードは、8月に入って一部のユーザーへの招待が始まったが、8月20日、すべての米国のユーザーが登録できるようになった。

  • 米国で提供が始まった「Apple Card」。日本での開始次期は未定となっており、まだ申し込むことはできない

Apple Cardの申し込み手続きは非常に簡単だ。

  • Walletアプリを開き、左上にある「+」ボタンを押す
  • 追加するカードのタイプから「Apple Card」を選択
  • 利用規約に同意する
  • 社会保障番号(SSN)の下4ケタと生年月日を入力
  • 写真付き身分証明書の表裏を撮影
  • 限度額と利率、手数料(無料)が表示され、発行を受諾
  • デフォルトのカードに設定するかを選択
  • iPhoneのWalletアプリにカードが追加される

ここまでの作業でApple Cardが有効化され、Apple Payが利用できる店舗やアプリ、ウェブで先に提示された限度額までの決済が行える状態になる。実に、ものの1分程度でクレジットカードが使える状態になるのだ。さらに、利用したその日のうちにキャッシュバックが受けられる「Daily Cash」の存在も紹介される。

  • 「Daily Cash」は、支払いと同時にキャッシュバックが受けられる魅力的なサービスだ

加えて、チタン製のカードを発行するかどうか尋ねられる。多くの人はカードを発行したいと思うだろうが、発行しないという選択もできるようだ。ただ、カードを発行しない場合、Apple Pay対応店舗以外では決済ができなくなるため、通常のクレジットカードとして利用するためにはカードを発行しておくべきだ。

プロダクトデザインとしてのクレジットカード

Apple Cardがユニークな点は、年会費や手数料などを一切排除しているにもかかわらず、そうしたカードでは珍しく充実したキャッシュバックとチタン製のカードを用意している点だ。

従来のクレジットカードは、年会費の高さに応じてリワードやサービス、あるいはステイタス性を付与してきた。例えば、米国や日本で金属製のカードを発行しているブランドに「Luxury Card」(ラグジュアリーカード)がある。チタン、ブラック、ゴールドの金属製カードが発行され、1~2%のキャッシュバックが受けられるが、チタンカードの年会費は米国で195ドル、日本では5万円と高額だ。

もちろん、コンシェルジュサービスや映画無料優待などさまざまな特典が付いているが、心して使いこなさなければ特典で年会費分の元を取ることは難しく、あとは金属カードを持っているという点を満足できるかどうかになる。

クレジットカードの金属カードにはステイタス性があり、AppleとGoldman Sachsがこれを利用したことは明らかだ。もっとも、Apple製品の外装はすでにアルミニウムとガラスに統一されており、そのイメージに沿う金属としてチタンが採用されたと考えられる。

チタンカードの発送は、Apple Cardを申し込んでから24時間程度で完了し、iPhoneのWalletアプリを通じて発送された旨が通知される。Apple Cardが入ったFedExは、ロサンゼルス近郊のコンプトンから発送されていた。

不正利用に対するセキュリティも確保

チタン製カードを採用した理由は、確かに金属カードという珍しさで顧客を誘うこともあったかもしれない。しかし一方で、Apple Cardが併せ持つ「機能」の象徴ともいえる。

カードの表には、クレジットカードにあるはずの16桁の数字が刻まれていない。カード表面の要素はAppleロゴ、EMVチップ、自分の名前、そしてマスターカードのロゴだけだ。クレジットカードにあるべきカード番号や有効期限の記載はない。そこには、Appleが仕込んだ問題解決、すなわち物理的なカードに対するもっとも強いセキュリティ対策を施しているのだ。

  • 希望する人に提供されるApple Cardのチタンカード。カード番号や有効期限の記載はなく、きわめてスッキリとしたデザインに仕上がっている

Appleによると、Apple Cardでは動的にカード番号を作り出し、オンラインなどではサービスごとに異なる番号を設定できるという。カード番号とセキュリティコードの組み合わせがWalletアプリから提供される仕組みだ。もし、あるオンラインサービスで不正利用があった場合、その番号を止めればよく、Apple Cardの利用停止やカード番号変更に伴う再発行の必要はない。

この手法自体はApple Cardが初めてではなく、米国ではBank of Americaなどでも同様のセキュリティを施したカードを発行している。しかし、Appleは同様の技術をすでにApple Payの実装で行っており、これをApple Cardにも適用した形だ。

Apple Cardにカード番号の刻印がないのは、物理的なセキュリティ対策であると同時に、不正利用時の再発行などの手続きが利用者だけでなくカードを発行する側にも必要ない、という点が挙げられる。一度発行したら、基本的には長く使い続ける前提であることを考えると、プラスチックではなくチタンなどの金属が最適、ということだ。(続く)

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。