東京都多摩市は今年の3月、時間外勤務の削減など、職員の働き方改革と市民サービスの向上を目指し、UiPath、インテックをパートナーに、AI-OCR、RPA導入に向けた実証実験を行うと発表した。実証実験の期間は、2019年3月~7月の5カ月間。

そこで、実証実験を終えた8月、多摩市の担当者に、RPA導入の狙いと実証実験の結果を聞いた。

  • 多摩市 市庁舎

「昨年の9月ごろ、UiPathさんの茨城県の事例を知り、RPA導入の検討を開始しました。その後、10月にUiPathさんにお声掛けし、今年の1月に協定を結んで今回の実証実験を開始しました」と、多摩市 企画政策部 行政管理課 公民連携係長 田中宜久氏は、今回の実証実験に至った経緯を説明する。

  • 多摩市 企画政策部 行政管理課 公民連携係長 田中宜久氏

田中氏が所属する行政管理課は、行財政改革を進めていく部署。昨年の4月に発足したのが公民連携係で、行政課題、地域課題の解決を民間と連携しながらスピーディにやっていく部門だという。

同氏は、「行政管理課では、これまでBPR(Business Process Re-engineering)の手法を取り入れて業務改善できないか検討してきましたが、新しい技術やICTを導入していかないとできない領域もあり、その流れの中でRPA導入を検討しました。多摩市には市民との対話をつくり、それを市政に活かしていきたいという思いがあり、市民とのワークショップを数多く開いてきました。過去からの定型業務だけを行うのは職員のあるべき姿ではなく、今後はより市民との対話に職員の時間を充てていきたいという狙いもあります」と、RPA導入の背景を語る。

3つの業務で実証実験

今回の実証実験では、住民税関連業務、児童手当関連業務、保育園入所申請書入力業務の3つでRPA化の実証実験を行った。これらは、特定の時期に作業が集中する業務だ。

「ピークがある業務には、それにあわせて人員配置が行われていますので、そのピークをならしていくことで、適正な人員配置が行えます。多様化複雑化する行政ニーズに柔軟に対応するためには、この点に取り組んでいかなければならないと思います」(田中氏)

また、行政管理課の職員が過去に在籍したことがある部署で、業務がある程度わかっているという点も対象業務に選んだ理由だという。

住民税関連業務では、法人設立届出書の入力業務(発生件数は年間150件)をRPA化した。この業務では、作業の軽減というよりは、AI-OCRの項目認識精度の確認が主目的。法人設立届出書は、書かれている項目は一緒だが、事業所ごとにフォーマットや項目名が異なるため、インテックの項目認識AI-OCRを活用し、項目名や位置が異なっていても、統一フォーマットのCSVに変換できるかを確認したという。結果はOCRの精度は9割程度で、想定どおりだったが、項目認識AIの精度の高さには驚いたという。

  • 法人設立届出書の入力業務のRPA化

  • 項目認識AI-OCR

読み取りがうまくいかなった部分としては、○で選択した部分や項目名が縦書きになっている部分だという。

児童手当の所得異動入力業務(発生件数は年間1,320件)では、OCRによってCSVファイルに記述された内容にしたがって基幹システムへの自動入力が行えるかを検証。結果、約22.5時間の削減ができ、入力作業を自動化できたことによる工数削減効果が顕著に現れたという。

  • 児童手当の所得異動入力業務のRPA化

そして、保育園入所申請書入力関連業務(発生件数は年間1,240件)では、手書き文字の認識、Excelデータの基幹システムへの自動入力が行えるかを検証。結果は、年間約237時間(約29人日)の削減効果があったという。保育園入所申請書入力は、1件あたりの作業時間が多く、削減効果が大きかったという。

なお、保育園入所申請書入力関連業務では、OCRの精度を上げるため、氏名、児童氏名などを自由枠ではなく梯子枠に変更したほか、文字枠を広げ、一文字ずつ文字を読み取れるように工夫した。また、希望保育施設を名称ではなくコードで表記することで認識率の向上を図ったという。

  • 児童手当の所得異動入力業務のRPA化

田中氏は今回の実証実験の結果について、「期待通りの結果で、概ね満足しています」と評価する。

一方課題については、「基幹システム同士を直接接続し、データのやり取りを行えば効率化できますが、市のセキュリティ上、メディアを介したやりとりになり、大きな時間削減にはなっていません。どうセキュリティを担保しながらシステム連携を図っていくかは、今後の課題だと思います」と述べた。

また、インターネットに接続されていないシステムにおける各ツールのアップデートや、夜間バッチ処理を行う場合の、動作PCのセキュリティ(夜間保管)なども、今後本格運用を行う上では課題になるという。

これらの結果を受け、多摩市では本格導入に向け、今後予算化を図っていく予定だ。

今後のRPA化の体制

今回の実証実験では、インテックがすべてのRPAシナリオの作成を行ったが、今後の本格導入においては誰がシナリオを作成するかが問題となる。

一般的には、情報システム部門が行うと、短期間で効率よくRPA化が行えるが、制度変更などによるシナリオのメンテナンスを継続的に行わないと作業実態との乖離が生まれ、徐々に利用されなくなるという課題があり、業務部門が行うと業務の見直しなどが行われず、現状の作業がそのままRPA化されてしまうという点や、管理されていない野良ロボットの出現、裏で勝手にファイルが書き換えられてしまうといったセキュリティ面での懸念がある。

多摩市では、ベンター作成と内製を業務によって使い分けながらRPA化を行うという。

「保育園の入所手続きは関わっている職員も多く、市の中では大きめの業務になります。こういったものは、職員がRPAのシナリオを作っていくのは難しいと思っています。こういった業務はインテックさんのようなベンダーに入っていただき、シナリオ作成の支援やBPRによる業務の組み換えを行っていただくことで、大きな費用対効果が得られると思っています。そのほかの部分は、職員の内製化で進めていきたいと思っています」(田中氏)

具体的には、導入効果の高いことが見込まれる上位20%の業務はベンダーに依頼し、その他の業務は内製でシナリオ作成を行っていくという。

また、内製化した場合のロボットの監視に関しては、「UiPath Orchestrator」の導入も検討するという。

内製化に向けた職員のスキルアップについて田中氏は、「内製化に向け、エバンジェリストの養成を行っていきたいと思っています。各課で1-2名RPAに精通した人材を育成し、その後、人事異動によってその職員が他部署を移動することによって市全体に広がっていく、そういった仕組みを作っていきたいと思っています。そのため、今年度の下期には、UiPathさんが提供しているEラーニングやオンサイトトレーニングなどを活用しながらエバンジェリストの養成に力を入れていきたいと思います」と語った。

共通フォーマットによる効率化への取り組み

各市町村が行っている業務は共通する部分があり、用紙のフォーマットを共通化していけば、他の市町村が作ったシナリオを流用していくことも可能だが、この点について田中氏は、「市民の方に書いていただく用紙に関しては、市ごとに要件が異なる部分があり、独自のフォーマットが多いですが、事業所に提出いただく書類については、県をまたいだ統一化も進んで来ていますので、OCR精度向上に向け、さらに進展させていきたいと思います。また、業務の標準化などにもあわせて取り組んでいきたいと思います」と語った。