超小型ロケットの分野で最大手の、米ロケット・ラボ(Rocket Lab)は2019年8月6日、これまで使い捨てていた「エレクトロン(Electron)」ロケットの1段目機体を、回収・再使用する計画を明らかにした。

1段目をパラフォイルで降下させ、ヘリコプターを使って空中で捕まえて回収して再使用するという計画で、打ち上げコストの低減ではなく、打ち上げ頻度を向上させることを目指す。早ければ2020年にも回収に挑戦するという。

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    回収に向けて、パラフォイルで降下するエレクトロンの1段目機体の想像図。このあと、ヘリコプターで捕まえる (C) Rocket Lab

エレクトロン

ロケット・ラボは米国に本拠地を置く宇宙企業で、ニュージーランドにロケットの生産施設や射場を構え、エレクトロンというロケットを打ち上げている。

エレクトロンは全長17m、直径1.2mの小さなロケットで、2段式を基本とし、また追加で3段目のキック・ステージを搭載し、衛星を目的の軌道に正確に投入することもできる。

打ち上げ能力は、地球低軌道に約225kg、高度500kmの太陽同期軌道(地球観測衛星などがよく打ち上げられる軌道)に約150kg。近年世界的にブームになっている小型・超小型衛星(質量100kgから数kg級の衛星)を打ち上げることに特化した、超小型ロケット(micro launcher)に分類される。

エレクトロンは2017年に1号機が打ち上げられるも失敗。2018年1月21日の2号機の打ち上げで初成功し、今年8月16日までの時点でこれまでに6機の連続成功を続けている。

エレクトロンは、ロケット・エンジンを動かす仕組みに電動ポンプを使ったり、製造に3Dプリンターを使ったりと、機体を手軽に製造できるようにし、さらに大量生産することで、低コスト化を図っている。

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    エレクトロン・ロケットの打ち上げ(2019年6月29日撮影) (C) Rocket Lab

一方で、スペースXの「ファルコン9」ロケットに代表されるような、機体の再使用について、同社はこれまで否定的で、事実エレクトロンは打ち上げのたびに機体を新造し、そして使い捨てていた。その理由について、同社のペーター・ベック(Peter Beck)CEOは「ロケットを再使用するには、回収するためのシステムを組み込む必要があります。しかし、小さなロケットではそのための余裕がありません」と語っている。

ファルコン9のように1段目機体を回収する場合、ロケットには着陸脚や小型の制御翼といった装備や、さらに着陸時などにエンジンを噴射するための追加の推進剤などが必要になる。つまりその分、打ち上げ能力が犠牲になり、大型ロケットならまだしも、打ち上げ能力が数百kg級の超小型ロケットにとっては損失の割合が大きく、たとえ数十kgの損失でも死活問題となる。そのためベック氏は長年、「エレクトロンを再使用することは念頭にない」と発言していた。

しかし一方で、超小型衛星の需要が高まるとともに、エレクトロンを毎回新造していたのでは時間がかかり、供給が間に合わないという課題が発生。そこでロケット・ラボは、打ち上げコストの低減ではなく、あくまで打ち上げ頻度を向上させることを目的として、エレクトロンの1段目を回収、再使用することを決定したという。

ベック氏は「この再使用化により、エレクトロンを毎回ゼロから生産する場合に比べ、打ち上げまでの時間を短縮でき、打ち上げ頻度をさらに高めることができます」と語っている。

エレクトロンの回収システム

今回発表された計画では、エレクトロンの1段目機体はまず分離後、そのまま降下。このとき、ファルコン9のように機体を反転させたり、エンジンを噴射したりはせず、また制御翼などもなく、文字どおりそのまま自由落下する。なお、大気圏への再突入時にはエンジン側を下にして降下するが、エンジンの付け根部分にはもともと、エンジンの熱から機体を守るための耐熱シールドが装備されているため、大きな改修は必要ないという。

やがて、ある程度降下したところで、バリュートと呼ばれる風船状の減速装置を展開。亜音速まで減速したあと、パラフォイル(翼の形をしたパラシュート)を展開する。また、前述のバリュートはつながったまま、パラフォイルからテザー(紐)を伸ばし続ける役割を果たす。

そして、ヘリコプターがフックを使い、そのテザーを引っ掛けて捕獲。そのまま機体を吊り下げながら運び、船の上に降ろして回収する。

ヘリコプターで回収するというのは奇抜なアイディアに思えるが、米国では前例がある。かつて偵察衛星がまだフィルム・カメラを使っていた時代、撮影したフィルムを収めたカプセルを衛星から投下し、それをヘリコプターを使って空中で捕まえるということがおこなわれていた。

また、米国の大手ロケット・メーカーのユナイテッド・ローンチ・アライアンスは、開発中の「ヴァルカン」ロケットで、1段目のエンジン部分だけを回収する方法として、同じようにヘリコプターを使って空中で捕まえるというコンセプトを発表している。

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    パラフォイルで降下するエレクトロンの1段目機体をヘリコプターで捕まえる様子の想像図 (C) Rocket Lab

ロケット・ラボはすでに、今年5月に打ち上げた6号機と、6月に打ち上げた7号機において、1段目に「ブルータス(Brutus)」と名付けたデータ収集装置を取り付け、離昇から分離、再突入、降下、そして着水までの、1段目の挙動や状態、環境に関するデータを集めたという。この8月に打ち上げ予定の8号機でも実施する。

また、今後の10号機では、1段目機体を改良し、打ち上げ能力を向上させた機体を投入。これにより、パラフォイルなど回収のための装備を搭載する余裕をつくり、打ち上げ能力が落ちないようにするという。

同社は来年以降、まずは試験的に、1段目を海に着水させて回収し、海水の洗浄やメンテナンスをおこなったのちに再使用することを計画している。そしてゆくゆくは、ヘリコプターを使った空中での回収をおこない、洗浄などの手間をかけることなく、簡単に再使用できるようにしたいとしている。

ベック氏は「ロケット・ラボの創設以来、その使命は、小型衛星を頻繁に、そして確実に軌道へ送り届ける手段を提供することにありました。こんにちでは、ほぼ毎月エレクトロンを打ち上げることを実現しました。そしてこれからは、この再使用化により、さらに頻度を増やしていきたいと思います」と述べる。

なお、再使用があくまで打ち上げ頻度の向上を目的としたものでも、副次的に打ち上げコストの低減が図れる可能性もある。一方で、新たにパラフォイルを搭載したりヘリコプターを運用したり、そしてメンテナンスをしたりと追加コストがかかるため、その度合いは小さいか、ほぼ相殺されることになるかもしれない。今回の発表では、打ち上げコストへの影響については明らかにされなかった。

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    大気圏に再突入するエレクトロンの1段目機体の想像図 (C) Rocket Lab

出典

Rocket Lab Announces Reusability Plans For Electron Rocket | Rocket Lab
Rocket Lab Unveils Plans For Reusability - YouTube
Rocket Lab | Electron - satellite launch vehicle | Rocket Lab
Rocket Lab scrubs Electron flight 8. Rocket to make major step towards first stage recovery - NASASpaceFlight.com
Rocket Lab | FAQs | Rocket Lab

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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