キッコーマンと言えば「しょうゆ」が頭に浮かぶ人が多いだろう。日本を代表する調味料メーカーである同社だが、2018年11月にレストラン「KIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYO(キッコーマン ライブキッチン東京)」を東京・有楽町にオープンした。
このレストラン、タダモノではない。ジャンルが異なる2名の著名なシェフが開発したコース料理を月替わりで実演とともに味わうことができるのだ。外国人の利用も見据え、実演のトーク内容は同時翻訳した内容が英語でタブレット端末に表示される。
今回、同社の広報部に所属しながらレストランの店長を務める石塚直之氏に、「KIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYO」で挑む同社の取り組みについて聞いた。
「テリヤキ」を開発したのはキッコーマン
海外でキッコーマンのしょうゆが販売されているのをよく見かけるが、キッコーマングループ全体の海外の売上比率は6割、営業利益の比率は7割に及ぶ。本格的な海外進出は、1957年に米国サンフランシスコに販売会社を設立したことに端を発する。その後、1961年に米国でテリヤキソースの販売を開始した。
モスバーガーなどのハンバーガーチェーン店が「テリヤキバーガー」を販売するなど、テリヤキという言葉は国内でも定着しているが、実は、米国から逆輸入されたものなのだ。
石塚氏は「海外でのしょうゆの販売においては、日本食を背負っていません。現地の一般家庭の食事にしょうゆを使っていただくことを目指しています。米国の家庭ではバーベキューがよく行われていることをヒントに、肉にしょうゆを合わせたらいいのではないかと考え、テリヤキソースが生まれました」と語る。ちなみに、「Teriyaki」は米国の辞書に掲載されているそうだ。
現地の食材や嗜好に合わせることを重視しているため、1973年には米国ウィスコンシン州にしょうゆの製造拠点を構えた。例えば、欧州ではライスにしょうゆをかけて食べることから、ライス専用のしょうゆを開発したところヒットしたそうだ。
世界の食の融合で、食文化の国際交流を
このように海外進出を進める中、キッコーマンは東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナーに決定し、「しょうゆが彩る豊かな食の提案で、こころとからだの健康を応援します。」というステートメントを策定した。
社内では、東京オリンピックがきっかけで「しょうゆが日本文化を体現しているモノとして、世界の人々に知ってもらおう」「東京からキッコーマンの海外展開を発信しよう」という機運が高まった。
その具体策の1つとして実現したのが「KIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYO」となる。同レストランにおいて世界の食を融合することで、同社の経営理念「食文化の国際交流」の実現を目指す。
同レストランでは、融合をテーマにしたコース料理が月替わりで提供される。メニューは異なるジャンルのシェフ2~3人が、和食やフレンチ・イタリアン・中国料理といった世界の料理を組み合わせて開発する。さらに、毎月、コース料理に用いる食材のテーマの都道府県が決まっている。例えば、5月は高知県、6月は長崎県、7月は熊本県となっている。
メニューの開発を担当するシェフが名だたる人ばかりであるのも特徴の1つだ。京都の料亭・菊乃井の主人の村田吉弘氏、フレンチレストランのオテル・ドゥ・ミクニのオーナーシェフの三國清三氏、クイーン・アリスのオーナーシェフの石鍋裕氏、分とく山の総料理長の野崎洋光氏などがメニューの開発に携わってきた。
著名なシェフがコラボレーションすること自体、そうそうあることではない。つまり、同レストランで提供されるメニューは、二度と食べることができないものと言っても過言ではないのだ。
実際、飲食業の関係者からは「こんな貴重な料理はKIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYOでしか食べられない。なんて贅沢な企画なんだ」と言われたそうだ。
「世界の食の融合」を掲げているが、日本の食材も忘れていない。全国の自治体とタイアップすることで、各地の特産品を月替わりで提供する。ご存じのとおり、海と山を抱える日本の食材は豊かであり、日本人であるわれわれも知らない食材がたくさんあり、外国人のみならず、日本人にとっても自国の食を見直すよい機会となりそうである。