とはいえ、大手のモール型ECサイトに依存せず自社サイトだけで顧客を獲得していくことは、決して簡単なことではない。具体的にどのようにしてビジネスを拡大していったのだろうか。伊藤氏によると、同社では検索キーワード広告などのネット広告を活用する一方で、まずは「オシャレの教科書」のコンテンツ拡充に徹底的に取り組んでいったのだという。

「最初の1年間は売上への影響がなくてもコンテンツを作り続けた」と伊藤氏は振り返る。このコンテンツでは、“商品を紹介して売る”ことではなく、純粋に“おしゃれが苦手な男性”にとって役に立つ情報を追求し、コンテンツとしての面白さにこだわったという。

ターゲットユーザーの悩みに応えるコンテンツを企画して形にしていくと、その悩みを持ったターゲットユーザーの検索キーワードに対してSEO効果が効くようになってくる。コンテンツを作り続けたことで、潜在顧客の自然流入が期待できるSEO施策が出来上がっていったのだ。

「ターゲットとなる男性生活者の声を聞いたことで、潜在顧客の気持ちがわかるようになり、その声に寄り添いコンテンツを作り続ければコンテンツとニーズの合致性も合ってくる。結果的に、ターゲットユーザーとサイトが出会う必然性を生み出すことができた」(伊藤氏)

  • 「売上に結びつかなくても、最初はコンテンツ作りに注力した」と伊藤氏

潜在顧客の立場に立ったコンテンツ作りは、商品の見せ方にも表現されているという。

「Dcollection」では、陳列する商品の点数を100点ほどに絞る代わりに、ひとつの商品を様々な体型の人が試着して写真を掲載し、“自分が着た場合の見え方”をイメージしやすくしているという。ECサイトの宣材写真にありがちなイメージモデルは不在で、あくまで着る人に寄り添った商品の見せ方をしているのだ。「商品点数を絞る分、新商品は毎日掲載して新鮮さを生み出すようにしている」(伊藤氏)

また、このターゲットユーザーの悩みに寄り添いたいという考えは、新たなユーザー体験を生み出した。それが「LINE接客」という方法だ。ECサイトにチャットを導入してチャットボットなどでユーザーサポートやお勧め商品の紹介などをするビジネスは増えているが、「Dcollection」ではチャットボットを導入せずスタッフが直接ユーザーからLINEを通じて寄せられる相談に答えているのだという。現在では約6万人のユーザーがLINEで繋がっているのだそうだ。

「導入当初は社員全員で応対していた。チャットボットを導入していた時期もあるが、コンバージョンが上がった一方で対応が機械的になってしまった。ユーザー個人の話に寄り添った対応をする必要性を感じ、現在では再び対応チームを作って個別に接客している」(伊藤氏)

お客様が喜んでくれなければ、売上は生まれない

こうした顧客に寄り添うビジネスを生み出した背景には、ドラフトの組織作りにおけるフィロソフィーがあるという。

伊藤氏は、「売上の数字は大事。しかし、お客様が喜んでくれなければ数字は生まれない。お客様を喜ばせるためには、どんなチャレンジでもできる」と語る。

商品を販売するECビジネスの場合、ビジネスのKGI(経営目標達成指標)は当然コンバージョンになり、そのコンバージョンに顧客をいかに効率的に導くかがマーケターの関心事になる。だからこそ、価格優位性で競合と競い合ったり、ターゲティング広告などを駆使してターゲットにリーチし続けたり、様々なアドテクノロジーを活用してコンバージョンを獲得する努力をしている。しかし、ドラフトはターゲットとなる生活者のインサイトに着目してそこに寄り添い、有益なコンテンツによって潜在的な生活者の課題に応えることを、コンバージョンを生み出すことよりも優先させた。その結果、強いエンゲージメントを生み出しビジネスを拡大することができたのだ。

伊藤氏によると、今後はこのスキームで年齢層を拡大し、同じファッションの悩みを抱える男性を対象にビジネスを展開していきたいという。“ファッションが苦手な男性”というこれまでのアパレル市場が見落としてきたブルーオーシャンを発見した同社が、どこまでビジネスを拡大していくのか。今後の動向に注目したい。

  • 「ファッションの悩みを抱える男性を対象にビジネスを拡大したい」と語る伊藤氏