レノボのデータセンターグループでは、一昨年度に「Transform 1.0」を打ち出し、昨年度は「Transform 2.0」を掲げました。2019年度は、これが「Transform 3.0」へと進化することになりますか?

スコーゲン氏: Transform 1.0では、サーバのポートフォリオを拡張し、Transform 2.0では、エントリーおよびミットレンジにおけるストレージのポートフォリオを広げてきました。次は、Transform 3.0ということになりますが、これは、2019年5月に、米オーランドで開催する年次イベント「Lenovo Accelerate 2019」で正式に発表することになります。

Transform 3.0は、どんな内容になりますか?

スコーゲン氏: Transform 3.0は、3つの「S」がポイントになります。ひとつめのSは、「スマートIoT」です。IoTおよび5G、NFVへの移行が進展しているなかで、新たなビジネスチャンスが訪れると考えています。レノボは、PC、タブレット、スマホといったデバイス全体の出荷において、世界で3番目に大きな会社です。いまは、人とマシンとがつながるといったことが中心ですが、これからはマシンとマシンがつながることが増えてきます。人とマシンがつながる世界では、約1億台のPCが接続されたり、POSやATM、KIOSK端末、スマホなどによって、数10億台のデバイスがつながっています。しかし、マシンとマシンがつながる時代では、これを大きく上回り、数100億台ものデバイスやセンサーがつながることになります。この時代において、レノボの強みは、ハイパフォーマンスで、セキュリティが高く、低コストで、デバイスやセンサーを提供できる点にあります。ARやVR、スマートスピーカー、スマートロックのほか、会議を自動化するスマートオフィスシステムなど、エンドポイントデバイスのポートフォリオを拡張し、コンシューマ領域でも、コマーシャル領域でも対応できるスマートIoTに取り組んでいくことになります。

2つめは、「スマートインフラストラクチャー」です。ここが、新たなデータセンタービジネスになります。現在、エッジでコンピューティング処理されているデータは10%以下です。これが、2025年には、ほとんどのデータがエッジでコンピューティング処理されると言われています。つまり、コンピュートする能力がデータの方に近づいていくことになります。レノボは、2019年2月に、スペイン・バルセロナで開催されたMWCにおいて、Think System SE350という、初のエッジサーバを発表しました。今年後半に市場投入することになりますが、耐震性のあるサーバであり、センサーが地震などによる振動を感知するとハードディスクへアクセスしないように制御して、データを保護するほか、ノートPCサイズを実現し、工場の壁面などに取り付けることができます。地震が多く、土地面積が限られた日本の企業にとって、最適な製品だといえます。Think System SE350は、6つのアンテナを搭載し、将来的には5Gとの接続も視野に入れています。MWCの期間中に、SE350の映像を公開したのですが、その期間だけで、65万件もの視聴がありました。エッジコンピュータへの関心が高まっていることを裏付けています。今後、SE350は、ソフトウェアなどを組み合わせることで、Think Agileブランドの製品としても進化することができるようになります。

「スマートインフラストラクチャー」とは、エッジコンピュータのことを指していますか?

スコーゲン氏: (図を書き始めながら)スマートインフラストラクチャーは、ハプリッククラウドプロバイダーや、企業のプライベートクラウド、ハイブリッドクラウドといったコアIT(ハイパークラウド)と、エッジコンピュータによるエッジITという2つの領域で構成されます。エッジで収集したデータのすべてをパブリッククラウドに送るのではなく、エッジで分析した結果だけをパブリッククラウドに送るといった仕組みが増えていくでしょう。

エッジITといえるこれらの用途は、すでに事例が出ています。

コロンビアのボゴタは、人口800万人の都市ですが、ここでは市内に3000台のカメラを設置して、自動車のカーナンバーの画像から盗難車を見つけるために、エッジコンピュータを活用しています。欧州のAholdという生鮮食料品チェーンは、3万3000店の小売店を欧州各国に展開しており、HCIによるエッジコンピューテイングの実現により、POSによる売上管理や顧客管理、セキュリティ強化、冷凍庫の温度管理や在庫管理を一括で行っています。こうしたエッジコンピュータの利用はすでに始まっており、今後、急速に拡大していくことになると予想しています。

そして、最後のSが、「スマートバーチカル」となります。

「スマートバーチカル」とはなんですか?

スコーゲン氏:レノボでは、ヘルスケア、建築、製造、小売、物流、交通、教育などの業種ごとに、エンド・トゥ・エンドのソリューションを用意し、ここに、レノボが提供するエッジカメラなどのエンドポイントデバイスのほか、POSやエッジサーバ、クラウドサーバやストレージなどを組み合わせることで、「スマートバーチカル」を実現することになります。オフィスにおいても、効率よく仕事をしたり、会議を進めたりするためのソリューションも、スマートバーチカルのなかに含まれます。

「スマートバーチカル」の提供において、日本で重視する業種はありますか?

スコーゲン氏:日本では、製造、小売といった領域が重要な市場だと考えています。ただ、新たな取り組みでもありますので、それぞれの国の状況を捉えながら進めていきたいと思っています。今回の来日も、日本の市場を理解することが目的のひとつです。

2019年度(2019年4月~2020年3月)は、レノボのデータセンターグループにとって、どんな1年になりますか?

スコーゲン氏:2018年度は、サーバがビジネス拡大の牽引役となりましたが、2019年度は、ストレージとサービスが牽引役になる1年にしたいですね。一方で、新たに打ち出す「Transform 3.0」への取り組みとともに、エンベデッドビジネスやテレコム分野への取り組みにも力を注ぎます。エンベデッドでは、他社の機器に、レノボのPCやサーバを組み込むといった提案になります。ここでは、3Dプリンティングの実現や、産業分野におけるロボティクスの活用、半導体の試験機などのほか、医療分野や製造分野における各種組み込み用途などが想定されます。これらは、長いライフサイクルを想定した機器への組み込み提案になります。

また、ネットワーク機能の仮想化など、新たなネットワークインフラを構築していくといった領域にも踏み込みます。ここでは、O-RAN(Open Radio Access Network)の動きにも注目しています。レノボはこうした新たな動きにおいて、これまでにも必ず重要なポジションを担ってきました。とくに、コストを下げるという点では、レノボが市場をリードしていくことになります。コストが下がらないと、マシンとマシンの結びつきによって生まれる、数100億単位でデバイスやセンサーがつながるという世界が訪れません。コストは重要な要素です。

日本では、レノボ・エンタープライズの新社長に、ロボトム氏が就任しました。新体制になった日本において、どんな成長戦略を打ち出しますか?

スコーゲン氏:日本市場においては、PCでは足場を固めていますが、データセンター事業では、まだまだ足場が固まっているとはいえません。HCIとソフトウェアデファインドの領域でも大きな成長を見込むことができますし、クラウドへの移行スピードが日本は遅いということや、そのなかで、プライベートクラウドへの関心が高まっているという点では、Think Agileによるビジネス拡大のチャンスがあるといえます。また、レノボが持つ水冷技術は、電気代が高い日本では大きなメリットを提供できると考えています。日本でのブランド認知がさらに高まれば、大手企業だけでなく、中堅・中小企業におけるビジネスチャンスが広がることになります。日本は、レノボにとって、極めて重要な市場です。これらも投資を続けていきます。