休まない人にはしっかり指導するのが企業の義務

現場では、企業側としてはきちんと休ませたいのに労働者が休んでくれないという場合もあるだろう。確実に有給休暇を消化させるには、どうしたらよいのだろうか。

「4月に付与したら12月までは自由に取得させ、翌年の1月から取得できてない人をチェックして3月いっぱいまでに取得するよう指導するという方法をとる企業が多いです。また、有給休暇の取得推奨日を設けて実質的に強制で取得させる方法や、部署やチームの中で交代休みを取るよう指導するという方法もあります。毎月や2カ月ごとに1日というような目標を定めて消化するのもいいでしょう」と、大槻氏は企業が実際に採用している手法を紹介してくれた。

「休んでもやることがない」「仕事をしているのが楽しい」など、さまざまな理由で休暇を取りたがらない労働者は存在するが、そうした人にもしっかりと指導して有給休暇を取得させなければならないのが、企業にとっては難しいところだろう。

「有給休暇の取得日数が足りていない人に取得を促すのはもちろんですが、有給休暇を申請・取得したことにしておいて、実際は出勤しているとったケースにも注意してください。監査や臨検が入れば、大きな問題として取り上げられます。有給休暇の管理簿やタイムカードだけでなく、PCの利用ログを見るなどの管理も必要です。おかしな対応があるなら指導をするなど、企業側も厳しい対処を検討しなければなりません」と、大槻氏は表面的なごまかしを認めないことをポイントとして挙げた。

企業・労働者ともにルールと法律を理解して対応しよう

一方で、できる限り休ませたくないという要望を持つ企業もあるだろう。「有給休暇の申請を面倒にして、出しづらくするようなケースはあるかもしれません。例えば、使用目的を事細かに申請させたり、申請先を直属の上司ではなく、労働者が申請しづらいように、さらに上の階層の上司にしたりといったことです。また、『風邪をひいて休んだ日を労働者の許可もなく自動的に有給休暇として処理をしてしまう』といった悪質なケースも想定されます。しかし実際は、有給休暇を取りやすくなる人が増えるのではないでしょうか」と、大槻氏は語る。

有給休暇を5日取得させることは企業側の義務なので、罰則覚悟での悪質なケースを除けば5日間は確実に休めるようになるはずだ。しかし、休む人と休まない人がいたら、全員を休ませるために従来多めに休んでいた人が休みづらくなる可能性はあるのかもしれない。労働者としては、与えられている権利やルールを把握した上での立ち回りが必要になりそうだ。

「有給休暇の買い取りも、元々退職などで権利が消失する時だけ可能な手法ですが、この5日分を買い取って済ませようとしてはいけません。こうしたルールをしっかり理解してほしいですね」と大槻氏。

さらに、休暇と休日の違いについても十分理解しておきたい。

「休日と休暇の違いをご存じでしょうか。休日とは『労働者が労働義務を負わない日』をいい、原則として休日に労働者は働く義務がなく、会社は労働者を働かせることはできません。対する休暇とは『労働する義務がある日に仕事を免除されて休む日』を指します。つまり、休日など元々働く義務のない日については有給休暇を申請することはできないのです。夏季休暇についても、年間休日に指定されているならば所定休日ということになり、その日を有給休暇とすることはできないのです」(大槻氏)

「仕事をしない日」をすべて「休暇」ととらえていると、おかしな抜け道や裏技を考えてしまいそうだが、きちんと理解していればそういう行動は起きないはずだ。

「働き方改革関連法」で求められている対応はもちろん、企業と労働者の間に存在する基本的なルールや就業規則などをしっかり双方が理解した上での対応がポイントとなるだろう。この機会にあらためて、就業規則の確認などをしてみてほしい。