高画質コンパクトデジカメの代名詞として知られ、根強いファンを抱えるのがリコーの「GR」シリーズ。一時は歴史を終えたかに思われていたものの、2018年秋にサプライズで「GR III」の開発を発表して見事に復活。3月中旬の発売とともにGR IIIをいち早く購入した写真家の鹿野貴司氏に、新旧GRに対する思いを綴っていただきました。
GRがもっとも熱かった10年前
思えば、平成はカメラ史において大きな変革の時代だった。AF一眼レフが一気にスタンダードとなり、さらにデジタル化の波が押し寄せた。たった30年とちょっとでここまで変わろうとは。3月中旬、平成が残り1カ月ちょっとというタイミングで、リコーから「GR III」が発売された。GRシリーズも、また平成のカメラ史に燦然と輝く存在の1つといえる。
本当の意味での初代GRは、28mmの単焦点レンズを搭載したフィルムコンパクトカメラとして1996年に発売された「GR1」だ。ボディーはフィルムのパトローネ(缶)より薄く、それでいて写りは一眼レフを凌駕。これに多くの写真家が飛びついた。
そんなGRの血を受け継ぐデジタルカメラ「GR DIGITAL」が発売されたのは2005年。僕が初めてデジタル一眼レフを買ったのもそのころだ。他社製品ではあるが、フルサイズ一眼レフの革命児・キヤノン「EOS 5D」もほぼ同時期に登場している。フィルムがデジタルに置き換わることが、いよいよ決定的になった時期だ。
僕自身が初めて手にしたGR DIGITALは、2007年発売の2代目。続く2009年発売の3代目も使った。このあたりが、GR DIGITALがもっとも熱かったころだと思う。芸能人や文化人も使い始め、一般への知名度も上がった。一緒に仕事をする編集者やデザイナー、スタイリストがGR DIGITALを持っていることも珍しくなかった。
GR DIGITALのイメージセンサーは1/1.8型で、現代のもので比較するならばiPhone XSよりひと回り大きい程度。当時の技術では、ディテールの再現も大変だったと思うが、光のある場面では情感あふれる絵づくりをしてくれた。ブログを開設してユーザーと直接やりとりをしたり、アットホームなイベントを開催するといったリコーの姿勢も、GRが支持された理由だと思う。
フルサイズ化が待望されたけれど、センサーを大型化するともはやそれはGRではなくなる……とリコー自身が否定的だった記憶がある。しかしながら、1/1.8型のセンサーでは画質に限界もある。接写でない限りはパンフォーカス気味だし、何よりスマホのカメラが急激に高性能化したことで、GRの存在価値は少しずつ低下していった。
APS-CセンサーのGRには否定的だった僕
2013年、ひとまわり以上大きなAPS-C型のセンサーを搭載し、名称から「デジタル」を外したGRを発売する。センサーサイズの拡大は歓迎されるかと思ったが、ボディーの横幅が拡がったことはファンの間で賛否が分かれた。何を隠そう、僕自身が“否”だった。不自由や不便を感じるほどではないし、見た目を気にしてカメラを選ぶ性格でもないのだが、それでも“否”と感じてしまうほどGR DIGITALのかたちは美しかったのだ。機能・性能は十分魅力的だったが、どこか「GRなのにGRじゃない」感が引っかかって、GRもその次のGR IIも購入することなく時は過ぎた。
そして、リコーがペンタックスを吸収合併したことや、ブログが終了宣言をしたこともあり、GRは終わったと勝手に思い込んでいた。知り合いのリコー関係者からは「開発は続けていますよ」と聞いていたが、おいおいそんなわけないだろ……と疑っていた。けれど、2018年に突如ブログが復活。そして、フォトキナでの開発発表。疑ってゴメンナサイ。そして何より驚いたのは、ボディーが1/1.8型センサー時代とほぼ同じサイズに戻ったこと。なのに、ボディー内手ブレ補正まで内蔵しちゃったこと。
2018年末には写真家への内覧会が開かれたのだが、そこで初めて手にすると、愛用していたGR DIGITALII・IIIの記憶が蘇ってきた。別れた大昔の彼女と再会したら、大人のいい女になっていた……そんな気分である。その場で購入を決めたのはいうまでもない。(後編へ続く)
著者プロフィール
鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。日本大学芸術学部写真学科非常勤講師、埼玉県立芸術総合高等学校非常勤講師。