2019年3月の半ば、オンラインストレージサービス「Dropbox」が、無料プランで同期可能なデバイス数を3台に制限したことが明らかになった。
ビジネス上の判断に口を挟む余地はないが、もともとDropboxは、無料プラン(2GB)と有料プラン(1TB)とで容量に大きな開きがあり、他社によくある500GB前後の中規模のプランがないため、TB単位の容量が必要でないユーザにとっては、なかなか有料契約に踏み切りにくいのも事実だ。
一方このような問題とはまったく別に、最近はオンラインサービスを一社に集約するのではなく、適度に分散させることでデータ漏洩やアカウントBAN(アカウントが強制的に停止されること)のリスクを回避しようとする風潮ができつつある。
特にDropboxの競合に当たるオンラインストレージサービスは、幅広い分野でサービスを展開している企業の一サービスであることが多く、万一別サービスで利用停止などの措置を食らうと、巻き添えで使えなくなる危険が高い。身に覚えがあれば自業自得だが、最近は誤認によるアカウント凍結も少なくないのが厄介だ。それゆえDropboxからそれらにスイッチするという選択肢も、少々ためらうところがある。
上記のような事情を踏まえ、仮にDropboxを除いた独立系のオンラインストレージサービスで、無料プランに台数制限がないという条件ならば、どんなサービスが候補に挙げられるだろうか。今回は、実際にサービスをある程度使い込んだ上で、検討に値すると筆者が判断した3つのオンラインストレージサービスを紹介する。
MEGA - Dropboxライクな使い勝手、無料で15GB
個人用途を前提とするならば、候補の筆頭に上がるのは「MEGA」だろう。無料プランでは15GBの容量が利用できるほか、ユーティリティを用いたデバイス間の同期や、フォルダ単位の共有、さらにはスマホアプリを用いての写真の自動アップロードなど、個人ユーザを対象とした主要機能はDropboxと酷似している。
セキュリティにも注力している。エンドツーエンドの暗号化に対応するほか、二段階認証にも新たに対応。スマホアプリはパスコードも登録できるので、ローカルでデータを覗き見られる心配も低い。iOSデバイスであれば、Face IDやTouch IDを紐付けることも可能だ。
アプリやユーティリティは日本語化されているが、翻訳が少々怪しいことに加えて、日本ではあまり見かけないアイコンが使われており、慣れるまで直感的な操作がしづらい場合がある。もっとも、後述のpCloudなど競合の海外サービスは日本語表示に非対応のケースが多いので、それに比べるとハードルは低い。またアプリ自体の使い勝手も極めて良好だ。
本サービスで気をつけたいのは、無料プランは3カ月アクセスがないと、データはおろかアカウントまで削除の可能性ありとしていること。厳密に適用されるわけではなく、試した限りでは警告メールが届くまで半年弱の猶予があったが、それゆえ重要なファイルをつねにクラウドにスタンバイさせ、必要な時に取り出す使い方には不向きだ。不慮の事故を防ぐには、毎日利用するフローを構築するか、有料プラン(200GBで600円/月)を契約したほうがよい。
ちなみにこのサービス、母体となったのはかつて米司法省に閉鎖させられたファイル交換サービスで、ブランド以外は別物となった現在も、当時を知る人からするとアングラな印象は少なからずある(あくまでも主観である)。ユーザ同士のチャット機能や、ストレージ容量以外に転送容量制限があるのは、それらの名残といえる。
それゆえ業務で使うには少々はばかられるのだが(ビジネス利用ならばビジネスプランを契約する手もある)、長年にわたってヘビーユーザに鍛えられてきただけに、機能や使い勝手が洗練されているのはある意味で強みだ。個人利用を中心にがっつりと使いこなすのが前提であれば、有力な候補になることは間違いない。
pCloud - 音楽・写真保存向き、他サービスのバックアップも
前述の「MEGA」とコンセプトが非常によく似た、個人利用向けのオンラインストレージサービスが「pCloud」だ。音楽用のフォルダと、写真用のフォルダがデフォルトで用意されていることからも、どのようなユーザをターゲットとしているのかが伺い知れる。ちなみにMEGAと違って日本語化されておらず、英語で利用する。
無料プランの容量は7GB、有料プランは500GBで3.99ドル/月からと比較的安価で、ほかにビジネス向けのプランもある。PC用のユーティリティを用いてローカルとクラウドのデータを同期したり、スマホアプリを用いて写真を自動アップロードしたりといった機能はもちろん、スクリーンショットをクラウドに自動保存する機能など、Dropboxに細部まで酷似している。
その一方、実際に使ってみると、細かな違いも散見される。例えばPC用のユーティリティをインストールすると作成される同期フォルダは、任意フォルダを指定できず、強制的に仮想ドライブとして割り当てられる。EドライブならEドライブ、GドライブならGドライブといった具合にインストール時点でドライブレターが決定されるのだが、ユーザ側で変更できないのでやや戸惑う。
また、スマホアプリから自動アップロードした写真は、アップロード元のスマホごとに個別にフォルダが作られるので、分類は容易な反面、同一階層でまとめることができない。このほうが使いやすいという人もいるだろうが、前述のドライブレターも含め、カスタマイズがNGというケースが多いのはやや気になる。
一方、動きはかなり軽快だ。例えばAndroidスマホで写真を撮影したあと、アプリがそれを検知して自動アップロードが実行されるまでの待ち時間は、前述のMEGAよりもこちらのほうが短く、高速だ。MEGAも決して遅いわけではないのだが、本サービスのほうが全体的に飾り気がないぶん、軽快に動作する印象が強い。
面白い機能としては、DropboxやOneDrive、Google Driveのデータをバックアップできる機能が挙げられる。引越し時のデータコピーにも重宝するが、特定のフォルダだけを選ぶことはできず、説明なしでまるごとコピーしようとするので、あっという間に容量を消費し尽くしてしまう。便利だが要注意の機能でもある。
また本サービスは、エンドツーエンドの暗号化がオプションで用意されている(月額550円から)。専用フォルダに保存したファイルのみが対象なので、高速にプレビューしたいファイルはこのフォルダに入れないなどの対応が可能なのだが、そのぶん管理はひと手間かかる。無条件に全領域を暗号化したければ、本サービスにこだわるよりも、SpiderOakやSync.comなど、エンドツーエンドの暗号化を売りとするサービスを使ったほうがよいかもしれない。
BOX - 堅実できめ細やかな機能、日本語UIもほぼ完璧
BOXは、法人向けのオンラインストレージとしては世界的な大手で、近年は日本法人も開設され、国内でも本格的な展開を始めている。今回紹介する顔ぶれの中ではやや大手すぎる印象があるが、独立系のオンラインストレージで、かつ法人利用を中心にDropboxと遜色ない機能を求めるのであれば、候補の最右翼に挙げられるサービスだ。
オンラインストレージとしての仕様は、まさに「堅実」の一言で、Dropboxと同等かそれ以上の、きめ細かなファイル共有機能が用意されている。PC用のユーティリティやモバイルアプリも充実しているほか、サイトおよびUIの日本語化も(有料契約のための機能比較ページなどを除けば)完璧だ。ただし無料版ではバージョン管理機能が利用できないので、Dropboxの使い勝手そのままに移行したいと考えている場合は注意が必要だ。
無料のIndividualプランは10GBが利用できる。Dropboxよりは潤沢な容量だが、ファイルサイズが最大250MBまでという制限があり、動画データのようなサイズの大きいファイルをやりとりするのは実質不可能だ。ただしこの制限が、ストレージとしての品質の高さに結びついていると考えられるだけに、単純にマイナスというわけでもないだろう。
有料プランは、個人向けのPersonal Proプランが100GBで1,200円/月と、コストだけを見ればDropboxなど他サービスよりむしろ割高だ。ただストレージとしての信頼性が高いことに加え、また3名から契約可能なチーム向けのStarterプラン(550円/月)では、バージョン履歴機能や、グループワークに役立つ管理コンソールも使えることから、SOHO事業者がクライアントとやりとりする用途にも対応できる。Dropbox Businessからの移行には最適だろう。
一方、個人ユーザ向けの機能はあまり強くない。例えばスマホからの写真自動アップロード機能がそれで、機能自体が用意されていない。もちろん手動でのアップロードは可能だが、ファイル名が撮影日時に自動変換されずオリジナルのファイル名のままでアップされるなど、機能自体が写真に最適化されていない。こうした用途をメインに考えているならば、他のサービスを選んだほうがよいだろう。