2018年末に発売された新しい「iPad Pro」は、外部機器接続用ポートが従来のLightningから「USB-C」に変更され、利用できる周辺機器が大きく変更されました。ということは、これまで利用してきたオーディオ機器が使えなくなる……いえ、そうとは限りません。本稿では、第3世代iPad Proを「オーディオ再生」という側面から検証します。

新iPad Proの「USB-C」は最大10Gbps

新iPad Pro(11/12.9インチ)の外部機器接続/充電用ポートとして採用された「USB-C」は、表記こそ違えど、MacやWindowsパソコン、Androidスマートフォンで既に広く利用されている「USB Type-C」そのものです。USB Type-Cはコネクタの形状に関する規格ですから、そこを流れるデータおよびケーブル自体の規格はUSB 2.0もあればUSB 3.1もあり、単純化はできません。

AppleのWEBサイトに掲載されているiPad Proのスペックには、iPad Proの「USB-C」がUSB 2.0なのか3.1なのか明記されていませんが、プレスリリースには「USB 3.1 Gen 2」とハッキリ記載されています(リンク)。つまり、帯域幅は最大10Gbpsであり、USB 3.1 Gen 1(最大5Gbps)やUSB 2.0(最大480Mbps)を上回る最新・最速のUSB規格に対応するということです。

充電機能は、従来のLightningポート搭載モデルに比べ大幅に向上しています。USB PDに対応したUSB-CケーブルとUSB PD規格に対応した電源アダプタ(18W)が同梱され、前代のiPad Pro(付属のアダプタは12W)と比べ単純計算で1.5倍の速度で充電できるようになりました。USB-Cポートは給電にも対応するため、Apple USB-C-Lightningケーブルを用意すればiPhoneの充電が可能です。

  • 新iPad Pro(11/12.9インチ)の外部機器接続/充電用ポートには「USB-C」が採用されています

  • 両端がUSB-Cのケーブルも増えてきました

USB接続のオーディオ機器を利用できる?

iPad Proでいうところの「USB-C」は、充電はもちろんのこと外部ディスプレイやUSBカードリーダ、USBキーボードなど、いろいろな機器を接続できます。オーディオ機器の場合も、USB Audio Device Classに準拠した製品であれば、iPad Proにつなぐだけで動作します。

正確にいうと、USBオーディオ機器を接続した場合、端子はUSB-Cであっても通信方式はUSB 2.0で、流れる信号はUSB Audio Device Classそのものです。これがUSB Type-Cの規格で定義されている「USB Type-C Digital Audio(TCDA)」で、"端子形状がUSB-Cに変更されただけのUSB Audio Device Class"という表現のほうがしっくりきます。

そうなると、「実際に既存のUSBオーディオ製品がiPad Proで使えるのか」という素朴な疑問が湧いてきます。そこで、ハイレゾ音源に対応するオーディオ再生アプリ「ONKYO HF Player」を利用し、手もとにあるUSBオーディオ製品がiPad Proで動作するかどうか試すことにしました。

TEAC HA-P5

PCM 192kHz/24bit、DSD 5.6MHzに対応したバッテリー内蔵のUSB DAC/ヘッドホンアンプです。入力用にはUSB2.0準拠のUSB A端子およびMicro-B端子の2系統を用意しており、いわゆる"USBポタアン"としてはオーソドックスな作りです。

iPad ProとはUSB-C - Aケーブルで接続すれば、外付けのUSB DACとして認識されます。システム側では何も行う必要がなく(そもそも「設定」アプリにはUSBに関する項目がありません)、アプリ側の設定変更もなしにただ接続すればオーディオ出力先として認識されます。

  • USB-C - Aケーブルで接続したところ、DSDも含め問題なくハイレゾ音源を再生できました

SHURE RMCE-USB

USB-C端子部分に小型のDAC/ヘッドホンアンプを内蔵したイヤホンケーブル(USBリケーブル)です。ユニット側の端子にはMMCXを採用、SHURE SE215などMMCX端子を採用したイヤホンをつなぎ楽しむことができます。ハイレゾ再生はPCM 96kHz/24bitが上限となるものの、バッテリーの残量管理が必要なく、ただ差し込むだけで音楽を聞けることは、3.5mmイヤホンジャックを持たないiPad Proにとっては大きなメリットです。

こちらの製品も、iPad ProのUSB-Cポートに差し込むだけで認識され、何事もなくONKYO HF Playerで再生できました。サンプリングレートが96kHzを超える楽曲を再生すると、自動的に96kHz以下にダウンサンプリングされますが、Lightning端子(最大48kHz/24bit)よりは有利です。

  • USBリケーブル「SHURE RMCE-USB」(イヤホン部分は別売)も動作しました

Shanling M0

ハイレゾ再生にも対応するこの小型DAPは、充電およびPCとのデータ転送用にType-C端子を1基搭載しています。SHURE RMCE-USBなどのUSB-Cイヤホンを利用できるほか、USB DACとしての機能も備えており、設定画面でスイッチを切り替えるとUSB-C端子からデータ入力が可能になります。

ということは、iPad ProやAndroid端末と同様、M0は給電側(ソース)と受電側(シンク)どちらの役も果たせる「DRP(Dual Role Power)」に対応したデバイスと理解できます。前掲のSHURE RMCE-USBは受電のみ対応するデバイス(シンクオンリー)ですが、DRPデバイスは設定次第でソースにもシンクにもなります。

問題は、iPad Proと接続しUSB DACとして機能するかどうかですが、残念ながらM0をソース/シンクどちらに設定してもiPad Proがシンクとなってしまい、動作しませんでした。iPad Proにはソース/シンクを切り替えるソフトウェアスイッチがないこともあり、現状では解決策がないものと考えられます。

  • 残念ながら「Shanling M0」はソース/シンクの切り替えが不可で動作せず……

このように、iPad Proをオーディオプレイヤーとして活用しようとすると、USB-C - Aケーブルで接続する(従来型の)USB DAC/ヘッドホンアンプは従来どおり、USB-Cイヤホン/リケーブルも支障なく動作することを確認できました。問題はUSB-C端子搭載のUSB DACで、ソース/シンクの役割を固定できないかぎりかんたんには使えないようです。