リコーが、360度カメラの定番「THETA」シリーズのハイエンドモデル「THETA Z1」を発表しました。シリーズで初めて1インチの大型センサーを搭載し、全天球写真の大幅な高画質化を図ったモデルです。Smart Vision事業本部長の大谷渉氏は「ユーザーからの要望が多かった点に応えるのが、今回の新製品の開発テーマ。それが画質の追求だ。リコーはカメラメーカーなので、それに応えるべく作り上げた」と自信を見せました。

  • リコーの新しい360度カメラ「RICOH THETA Z1」

    リコーの360度カメラの新製品「RICOH THETA Z1」。予想実売価格は税別117,500円前後で、発売は3月下旬の予定

1インチセンサー搭載も、肥大化は最小限に抑制

THETA Z1の外観は、従来のTHETAシリーズを継承。細長いボディーの表裏にレンズを2つ搭載し、一方にシャッターボタン、側面に操作ボタンを配置するスタイルも従来モデルと同じです。

  • シャッターボタンの反対側

  • こちらはシャッターボタン側のスケルトンモデル

  • 側面。底面にはストラップホールが新設されました

  • 反対側の側面にはマイクを搭載しています

  • 上部と底部。上部のマイクは位置が変わりました

  • 底面の三脚穴は金属化し、耐久性を向上させたそうです。接続端子はUSB Type-Cになりました

  • 右が新モデルの「THETA Z1」で、左は旧モデル「THETA V」。THETAの特徴的な基本デザインを踏襲していることが分かります。THETA Z1はレンズが大型化されたこと、ボタン位置が変わったこと、下部に有機ELパネルが新設されたことが大きな違いです

  • 側面のボタン位置も多少の変更があり、Fnボタンが新設されました。これは、表示パネルのオンオフやセルフタイマーの切り替えなどに利用します

TEATA Z1の特徴は、なんといっても1インチの大型センサーを搭載したことにあります。従来のTHETAは1/2.3インチセンサーだったため、格段に大型化されました。画素数は従来の1200万画素から2300万画素に高画素化しましたが、センサーを大型化したことで、1ピクセルあたりの面積は従来の3倍になったとしています。

  • THETA Z1が搭載した1インチセンサー(左)と1/2.3インチセンサー(右)の大きさの違い

その結果、S/N比が向上して感度が上がり、新たなアルゴリズムによってダイナミックレンジが拡大したとのことです。最高ISO感度はISO6400に高まりました。合わせて、高感度のノイズも低減し、従来比で1段分の低ノイズ化を図ったそう。THETA VのISO1600のノイズ感がTHETA Z1のISO800に相当するそうです。

  • 写真家・谷角靖氏が撮影したウユニ塩湖でのTHETA Z1の作例。ISO3200の高感度で撮影した写真ですが、天の川がはっきりと撮影でき、水面の星も撮影できていた点をアピールしていました

1インチセンサーの搭載に合わせて光学モジュールが刷新され、レンズも従来より大型化されました。それにともなって、ボディーサイズもいくぶん大型化されましたが、気軽に持ち歩けるサイズはキープしています。

  • センサーサイズの大型化にともない、レンズも大きくなりました。THETA Z1のボディーはマグネシウム製ですが、上部には無線LANなどのアンテナがあるため、この部分だけ樹脂製になっています。マイクは上部から側面に移動していますが、従来通り4chの収録に対応します

レンズユニットの構造に工夫が光る

THETA Z1の光学系は、センサーの大型化に合わせて新たに設計し直されました。1インチセンサーを搭載してもボディーの肥大化を抑えるために、プリズムを3カ所に配置し、レンズから入った光(光軸)を3回も折り曲げる「3回屈曲構造」を採用。これによって、1インチの大型センサー2つと新しい光学ユニット2つを搭載しながら、ボディーの厚さを24mmに抑えることに成功したそうです。プリズムで折り曲げることによって、多少のロスは発生するものの、このサイズに収めるために採用したとのこと。レンズには、THETA初となる絞り機構も設け、F2.1、F3.5、F5.6の3段階に変更可能になっています。

  • レンズユニットは、薄型ボディーに収めるために光軸を3カ所で曲げる3回屈曲構造を採用しました

THETA Vと同様に、SoCにはSnapdragon、OSにはAndroidを採用。基本的に変更はないそうですが、この組み合わせによって特に動画撮影で高い性能を発揮してくれるそうです。ただ、動画は4K/30fpsと従来通りです。

本体下部に0.97インチの有機ELパネルを搭載し、バッテリー残量や撮影設定などが表示できるようになったのも改良点の1つといえます。

  • 有機ELパネルには撮影情報などが表示されます

1インチセンサーを採用した最大の変化ともいえるのが、ボディー外装の材質の変更です。新たにマグネシウム製とし、本体の質感を高めるとともに放熱性能を向上させました。

  • スケルトンボディーやレンズユニット、マグネシウムボディ

もともと、THETAは熱を内部で処理する構造でしたが、1インチセンサーが2つになって熱の発生が大きくなったことから、金属ボディーを活用した放熱対策が必須になったようです。消費電力も大きくなり、動画撮影時のバッテリー駆動時間は約60分と、THETA Vの約80分からいくぶん減少しています。ただ、充電しながらでも利用できるように考慮されているそうです。

RAWで撮影すると精細感は明確に向上

新たに、RAW(DNG)形式での記録に対応したのも注目できます。RAWによって、パソコンでの高度な後処理が可能になりました。JPEG画像は、従来通りカメラ内でスティッチング(つなぎ合わせ)の処理をしますが、RAWの場合は撮影した写真がそのまま出力されるため、スティッチングはパソコン側で行う必要があります。そのため、同社ではAdobe Photoshop Lightroom Classic CC用のプラグイン「Ricoh THETA Sticher」を無償で提供する予定です。

  • まずは、RAW(DNG)形式の画像をLightroom Classic CCに読み込みます。この時点ではスティッチングされていないのが分かります。この状態で通常の画像補正を行います

  • 写真の書き出し機能から「Ricoh THETA Sticher」を立ち上げます

  • 基本的に、THETA本体のスティッチングと同じアルゴリズムによるつなぎ合わせが行われます。天頂補正や距離指定などの設定も可能です

  • 見事にスティッチングされました

  • JPEG画像(左)とRAW画像(右)の比較。ディスプレイを撮影したものなので分かりづらいですが、RAWで撮影したほうが解像感が高く、ダイナミックレンジも広くなっているように見受けられました

カメラメーカーとしての意地を見せた1台

1インチの大型センサーによる解像感の向上、ダイナミックレンジの拡大、高感度ノイズの低減といったTHETA Z1のメリットは、特に写真好きには大きなポイントとなるでしょう。

本体の肥大化を防ぐための類を見ない3回屈曲構造など、「非常にアクロバティックなことをしている。カメラメーカーとしての誇りと遊び心を製品に込めて挑戦してきた」と大谷氏が胸を張れば、藤木氏も「カメラメーカーのプライドで開発した。創作意欲に応えられるTHETAに仕上がった」と強調します。

  • Smart Vision事業本部長の大谷渉氏

  • 同事業部THETA事業部長の藤木仁氏

THETAが先駆者となった360度カメラは、ユニークな機能を搭載するライバルが続々と登場するなど、競争の激しいジャンルとなっています。カメラの基本となる「画質」で一歩先を行こうと開発されたのが、今回登場したTHETA Z1です。優れた動画機能も備えますが、「写真のために生まれたTHETA」といえるでしょう。