リコーが、360度カメラの定番「THETA」シリーズのハイエンドモデル「THETA Z1」を発表しました。シリーズで初めて1インチの大型センサーを搭載し、全天球写真の大幅な高画質化を図ったモデルです。Smart Vision事業本部長の大谷渉氏は「ユーザーからの要望が多かった点に応えるのが、今回の新製品の開発テーマ。それが画質の追求だ。リコーはカメラメーカーなので、それに応えるべく作り上げた」と自信を見せました。
1インチセンサー搭載も、肥大化は最小限に抑制
THETA Z1の外観は、従来のTHETAシリーズを継承。細長いボディーの表裏にレンズを2つ搭載し、一方にシャッターボタン、側面に操作ボタンを配置するスタイルも従来モデルと同じです。
TEATA Z1の特徴は、なんといっても1インチの大型センサーを搭載したことにあります。従来のTHETAは1/2.3インチセンサーだったため、格段に大型化されました。画素数は従来の1200万画素から2300万画素に高画素化しましたが、センサーを大型化したことで、1ピクセルあたりの面積は従来の3倍になったとしています。
その結果、S/N比が向上して感度が上がり、新たなアルゴリズムによってダイナミックレンジが拡大したとのことです。最高ISO感度はISO6400に高まりました。合わせて、高感度のノイズも低減し、従来比で1段分の低ノイズ化を図ったそう。THETA VのISO1600のノイズ感がTHETA Z1のISO800に相当するそうです。
1インチセンサーの搭載に合わせて光学モジュールが刷新され、レンズも従来より大型化されました。それにともなって、ボディーサイズもいくぶん大型化されましたが、気軽に持ち歩けるサイズはキープしています。
レンズユニットの構造に工夫が光る
THETA Z1の光学系は、センサーの大型化に合わせて新たに設計し直されました。1インチセンサーを搭載してもボディーの肥大化を抑えるために、プリズムを3カ所に配置し、レンズから入った光(光軸)を3回も折り曲げる「3回屈曲構造」を採用。これによって、1インチの大型センサー2つと新しい光学ユニット2つを搭載しながら、ボディーの厚さを24mmに抑えることに成功したそうです。プリズムで折り曲げることによって、多少のロスは発生するものの、このサイズに収めるために採用したとのこと。レンズには、THETA初となる絞り機構も設け、F2.1、F3.5、F5.6の3段階に変更可能になっています。
THETA Vと同様に、SoCにはSnapdragon、OSにはAndroidを採用。基本的に変更はないそうですが、この組み合わせによって特に動画撮影で高い性能を発揮してくれるそうです。ただ、動画は4K/30fpsと従来通りです。
本体下部に0.97インチの有機ELパネルを搭載し、バッテリー残量や撮影設定などが表示できるようになったのも改良点の1つといえます。
1インチセンサーを採用した最大の変化ともいえるのが、ボディー外装の材質の変更です。新たにマグネシウム製とし、本体の質感を高めるとともに放熱性能を向上させました。
もともと、THETAは熱を内部で処理する構造でしたが、1インチセンサーが2つになって熱の発生が大きくなったことから、金属ボディーを活用した放熱対策が必須になったようです。消費電力も大きくなり、動画撮影時のバッテリー駆動時間は約60分と、THETA Vの約80分からいくぶん減少しています。ただ、充電しながらでも利用できるように考慮されているそうです。
RAWで撮影すると精細感は明確に向上
新たに、RAW(DNG)形式での記録に対応したのも注目できます。RAWによって、パソコンでの高度な後処理が可能になりました。JPEG画像は、従来通りカメラ内でスティッチング(つなぎ合わせ)の処理をしますが、RAWの場合は撮影した写真がそのまま出力されるため、スティッチングはパソコン側で行う必要があります。そのため、同社ではAdobe Photoshop Lightroom Classic CC用のプラグイン「Ricoh THETA Sticher」を無償で提供する予定です。
カメラメーカーとしての意地を見せた1台
1インチの大型センサーによる解像感の向上、ダイナミックレンジの拡大、高感度ノイズの低減といったTHETA Z1のメリットは、特に写真好きには大きなポイントとなるでしょう。
本体の肥大化を防ぐための類を見ない3回屈曲構造など、「非常にアクロバティックなことをしている。カメラメーカーとしての誇りと遊び心を製品に込めて挑戦してきた」と大谷氏が胸を張れば、藤木氏も「カメラメーカーのプライドで開発した。創作意欲に応えられるTHETAに仕上がった」と強調します。
THETAが先駆者となった360度カメラは、ユニークな機能を搭載するライバルが続々と登場するなど、競争の激しいジャンルとなっています。カメラの基本となる「画質」で一歩先を行こうと開発されたのが、今回登場したTHETA Z1です。優れた動画機能も備えますが、「写真のために生まれたTHETA」といえるでしょう。