2月12日~14日に米国サンフランシスコでIBMが開催した年次イベント「IBM Think 2019」。現状では、組織の19%しかAIが必須であると考えていないが、成功した組織は模範的なアプローチでAIを適用させているという。本稿では、2日目に行われた基調講演「Journey to AI」をレポートする。

まず、IBM Cloud and Cognitive Software SVPのArvind Krishna氏は「デジタルトランスフォーメーションの旅路において、AI(人工知能)は目的地に到達させてくれるものです。しかし、効果を発揮できるように、適切な情報インフラを整備しなければなりません。データとオープンソースを活用するとともに、立証済みの手法を使う必要があります」との認識を示す。

  • IBM Cloud and Cognitive Software SVPのArvind Krishna氏

    IBM Cloud and Cognitive Software SVPのArvind Krishna氏

これまで同社では10年にわたり、AIのイノベーションだけでなく、AIを製品化し、立証済みの手法によるサービスを提供することで、企業のニーズを満たしてきたという。

「AIは魔法のようなものだと考えられがちですが、それは違います。AIは新しい電力のようなものであるのです。世界に大きなインパクトを与えており、PwCでは2030年までにGDPにAIが影響を及ぼす総額が16兆ドルに達すると予測しています。テック業界でこれほどまでの効果を発揮するものはAI以外には過去存在しません」と話すのはIBM Analytics GMのRob Thomas氏だ。

  • IBM Analytics GMのRob Thomas氏

    IBM Analytics GMのRob Thomas氏

AIは企業における新しい収入源の確保や事業モデルの転換、コスト低減だけではなく、3つの重要なポイントがあり、それは“予測”し“自動化”した上で“最適化”することだと同氏は語る。

また、AIは階段のようなものであり、初日の基調講演でロメッティ氏も指摘していたIA(Infomation Architecture:情報を分かりやすく伝え、受け手が情報を探しやすくする表現技術。情報アーキテクチャ)なしにはあり得ないという。

Thomas氏は「AIの階段を一歩ずつ着実に踏みしめつつ上らなければなりません。それは、データを収集した上で統合し、解析を行い、組織に浸透させてIAを構築していくことがポイントになるのです」と、強調する。

そして、同氏の説明を裏付けるものとして、インドにおける事例についてIBM Senior UX DesignerのReena Ganga氏が紹介した。

  • IBM Senior UX DesignerのReena Ganga氏

    IBM Senior UX DesignerのReena Ganga氏

同国では、心臓血管腫瘍で年間200万人が命を落としており、初期段階で診断されたとしても診療医の不足が深刻になっているという。Ganga氏は「そこで、このギャップを埋めるためにウェアラブルと機械学習を活用し、心臓に疾病を抱える人々を助ける活動を行っている」と、話す。

このプロジェクトでは、データサイエンス、データエンジニアリングおよびアプリケーション構築機能を備えたAI向けのIA「IBM Cloud Private for Data」(ICP for Data)を用いており、単一のダッシュボード上で患者の心臓に関するリスクモデルを可視化し、問題があればバイアスが検出される。

検出されたバイアスの原因となる患者のトレーニングデータや、ヘルスケア、保険、金融、小売など各業界固有のプロセス、ルール、データオブジェクトを含むコード資産の「Industry Accelerators」が有する、データセットなどを活用することで、ワークフローの構築を容易にしており、これまで多くの時間をかけていた患者のリスク分析が大幅に削減できたという。

Thomas氏は「データを仮想化した上で、1つのコンソールから表示し、データセットを結合することは、これまでのテック業界ではなかったものです。マルチクラウドであれば複数のクラウドにまたがる形でデータやAIを活用しなければなりませんが、その際にICP for Dataは非常に有効な手段となり得るのです」と、語気を強める。

また、Watsonをオンプレミス環境やプライベートクラウド、パブリッククラウド、他社のクラウドでも動かせることができるWatson Anywhereにより、どこの環境でもデータの活用を可能としており、AIへのアクセスを“民主化”するという。

AIを業務プロセスマネジメントに組み込めば、仕事のやり方を大きく変えることを可能とするほか、社内にAI活用に伴う必要なスキルがない場合でも認定プログラムとして「AI Learning & certification Program」を提供している。

IBM Research DirectorのDr. Dario Gil氏は「IBM Reseachでは、情報技術の最前線を拡大しようとしています。昨年だけでも600を超えるAIについての論文が発表されていることに加え、1600の特許が出願されました。われわれはAIが信頼されること、大規模に展開していくことが重要になると考えています。そして、テクノロジーを製品化し、事業化させることを担っているのです」と、述べていた。

  • IBM Research DirectorのDr. Dario Gil氏

    IBM Research DirectorのDr. Dario Gil氏