ガレージキットシーンの最前線を体感できる「ワンダーフェスティバル2019[冬]が、2月10日、千葉県・幕張メッセにおいて開催された。

会場では、ガレージキットの展示・販売だけでなく、企業やクリエイターによる講演やイベントも数多く行われ、多くの来場者で賑わっていた。ここでは、「デジタル原型ステージ」で行われたZBrushの講演「ZBrush。その造形術の奥行き。~『楽しい』成長の近道~」の様子をお届けしよう。

  • ワコム

    ワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた、福井信明氏による講演「ZBrush。その造形術の奥行き。~『楽しい』成長の近道~」の様子

機能は豊富だが根っこはシンプルなZBrush

Pixologic社が開発する「ZBrush」は、粘土をこねるように3Dモデルを作成できる3DCGソフトウェア。そのとっつきやすさが注目を集め、ここ数年で急速にシェアを伸ばしている。2016年には廉価版の「ZBrushCore」も登場し、その人気をさらに押し上げた。

この日のステージには、グラフィックデザイン事務所HOPBOXの代表でPixologic公認インストラクターの福井信明氏が登壇し、「ZBrush。その造形術の奥行き。~『楽しい』成長の近道~」と題する講演を行なった。

初心者向けの著書『ZBrushCore超入門講座』シリーズでも知られ、美大や専門学校講師としても活躍している福井氏だけに、講演はかなりかみ砕いた分かりやすい内容。会場は立ち見も多く出るほどの盛況ぶりだった。

  • ワンフェス

    ZBrush習得のコツを説明する福井信明氏

福井氏によると、ZBrush(およびZBrushCore)にはほとんど無数とも言えるくらい多くの機能・手法があるが、根幹となるのは「ブラシさばき」、「面の密度を掴む」、「パーツの管理」、「空間の把握」の4つ。これらに習熟することが上達の近道になるという。

なかでも基本中の基本が「ブラシさばき」と「面の密度を掴む」。わかりやすく言えば、粘土をこねてフォルムを作り、大まかな凹凸をつけてディテールを整えていく工程だ。ZBrushの場合、ムーブというブラシがあり、粘土をこねるようにオブジェクトを変形してフォルムを作ることができる。また、クレイビルドアップブラシを使うと、粘土を盛ってフォルムを整えていくことが可能。こうしたブラシを使ってきれいなフォルムを作れるようになれば、ZBrushマスターへの第一歩を踏み出したも同然だとのこと。

  • ZBrushは「ブラシさばき」、「面の密度を掴む」、「パーツの管理」、「空間の把握」の4つのステップが基本となる

  • ムーブブラシなどで粘土をこねるようにフォルムを作っていく

  • クレイビルドアップブラシを使うと、粘土を盛ってフォルムを整えていくことができる

  • ぶち抜きキャプション

フォルムを作っていると表面のメッシュが荒くなることがあるが、ZBrushには面を貼り替えるダイナメッシュと呼ばれる機能がある。その機能を使って面の密度を増やしたら、再びムーブとクレイビルドアップでフォルムを作り、ディテールを彫り込んでいく。目的の形を作るには、ほかの機能を知らなくても、ただそれだけの作業でこと足りるという。

福井氏は「ここまでのステップだけでも、いろいろな形を作れるようになります。とにかくたくさんの作品を作って体に染み込ませてほしい。それが習得のコツ」と説明した。

  • 面の密度が荒くなったら、面を貼り替えて密度を上げることができる

造形のコツは「空間の把握」

基本となるブラシさばきのコツを掴んできたら、次のステップ「パーツの管理」に進む。靴や服などのパーツを分けて管理する工程だ。

パーツを分けると、そのパーツごとに集中して細かく作業することができる。ZBrushにはオブジェクトの一部をパーツとして切り出す機能があるため、それを使って足の底の部分を切り出したり、服やズボンを切り出したりする。そして、再び先ほどの「ブラシさばき」と「面の密度を掴む」に立ち返り、それぞれのパーツの形を整えていく。

こうすることで、よりリッチで複雑な形状を作れるようになる。講演ではここまでの工程で作成し、3Dプリンターで出力された成果物も紹介されたが、十分ワンフェスで販売できるような作品に仕上がっていた(実際、福井氏のブースで販売されていた)。

パーツの管理のコツも掴んできたら、今度は「空間の把握」に進む。ここで重要なのは「どのフォルムでどのボリュームのものが、どの場所にあるのか」という空間をしっかり掴むこと。たとえば床を作る場合、「空間においてキャラクターの下はどこになるのか」、「そこにどの程度の板が必要なのか」などを把握する。そして床を作ったあと、そこに机などを配置していけばミニジオラマ的な作品ができていく。

福井氏は「ZBrushには、この先に無数の機能が広がっていますが、ここまでのステップに習熟するだけでも本格的な作品を作ることができます」と説明した。

  • 靴や服などをパーツとして切り出し、細かく仕上げていくことができる

  • 「パーツの管理」までの作業でも、このような複雑な作品を作ることができる

  • 「空間の把握」まで習得すれば、ミニジオラマ的な作品も作ることができる

幾何学的な曲面を手軽に作成できる「ZModeler」

ZBrushの基本を習得したら、ほかにどんな機能があるのか気になってくるはず。そこで福井氏は、その一つとして数年前にZBrushに搭載された機能「ZModeler」の紹介も行なった。

  • ZBrushの機能「ZModeler」を使うと、機械やロボットなど、幾何学的な曲面が必要なものを手軽に作成できる

これは従来のZBrushが、こねたり描いたり、彫り込んだり、組み立てたりして形を作っていくのに対し、比較的大きな面(ポリゴン)を押し出したり、押し込んだり、切り分けたりして面を操って造形していく機能。機械や建物、ロボットなど、美しく幾何学的な曲面が必要なものを作るのに適している。この機能が搭載されることで、「ZBrushの死角が減り、作れないものがほとんどなくなった」と福井氏。

  • 講演では、ZModelerを使ったモデリングのデモも紹介された

  • ZModelerと、ZBrushの従来からあるブラシの両方を使ってより複雑な3Dモデルを作っていくこともできる

ちなみに、ZModelerは非常に軽いデータで3Dモデルを作れるようになっており、その成果物は「Sketchfab」のようなビュアーを使えばスマホのブラウザ上でもグルグル動かして楽しめるそうだ。Sketchfabには自作データを公開して共有できる機能もあり、福井氏の作品も「nobgame」で登録されているので、気になる人は検索してみてほしい。

  • 講演では、作成した3Dモデルをミマキエンジニアリングのフルカラー3Dプリンターで出力した作品も紹介された