2月10日、千葉県・幕張メッセにおいてガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル2019[冬]」が開催された。会場では企業やクリエイターによってさまざまな講演やイベントが行われていたが、ここでは、そのうちデジタル造形を軸に活動しているアーティスト集団「ウルトラモデラーズ」による講演「ウルトラモデラーズ 八方睨み鳳凰図を立体化したあの方が登場?」の模様を紹介しよう。

  • ワンフェス

    ワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた、ウルトラモデラーズによる講演「ウルトラモデラーズ 八方睨み鳳凰図を立体化したあの方が登場?」の様子

大阪開催のフルカラー3Dプリント展が盛況

昨年の「ワンダーフェスティバル2018[夏]」の講演でも、デジタル造形や3Dプリンター出力への取り組みを紹介して注目を集めていたウルトラモデラーズ。今回のステージは、その壇上で告知していた「ウルトラモデラーズ フルカラー3Dプリント展 IN 大阪」の開催報告からスタートした。

同展は、ミマキエンジニアリングのフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」の表現力や、それを使ったデジタル造形の可能性を追求することを目的として企画された展示会。ウルトラモデラーズ発起人のワクイアキラ氏によると、クラウドファンディングで目標額を上回る支援を得て、2018年11月、成功裏に終えることができたという。

展示会では、ワクイ氏やZBrush公認インストラクターの和田真一氏、造形師・デザイナーの吉本大輝氏ら、ウルトラモデラーズのメンバーの作品が展示されたほか、各種セミナーなども実施された。

その展示会の成功を受けて、来たる3月15日には東京・五反田のミマキエンジニアリングショールームにおいて、第2回フルカラー3Dプリント展を開催することも発表された。

  • ウルトラモデラーズ

    ステージには、ウルトラモデラーズ発起人のワクイアキラ氏、ZBrush公認インストラクターの和田真一氏、造形師・デザイナーの吉本大輝氏の3名が登壇した

  • ミマキエンジニアリングのフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」。1000万色以上出せる

  • 2018年11月に開催された「ウルトラモデラーズ フルカラー3Dプリント展 IN 大阪」の様子

  • 展示会に出展されたワクイアキラ氏の「シンギュラリティ」

  • ウルトラモデラーズの一員、小林武人氏の作品。「3DUJ-553」は、この作品のように樹脂の表面だけでなく、透明樹脂の内側に色をつけることもできる

  • 和田真一氏の作品「密林の追跡者」。CGレンダリング画像と寸分違わぬ色やディテールで出力されているそうだ

葛飾北斎の「八方睨み鳳凰図」を立体化

続いて、大阪の展示会にも出展された造形師・デザイナーの吉本大輝氏の「八方睨み鳳凰図」立体化作品のメイキングが解説された。

  • 長野県小布施町の岩松院の画「八方睨み鳳凰図」

「八方睨み鳳凰図」は、長野県小布施町の岩松院の天井に描かれている葛飾北斎晩年の肉筆画。およそ21畳に及ぶ大作だが、どこから見ても画の中の鳳凰に睨まれているように感じるのが大きな特徴になっている。

吉本氏によると、鳳凰図の立体モデルの作成にあたってはZBrushをメインに使用したとのこと。まず画にパーツを重ねて配置し、全体をイメージしながら構図を固めていく。続いて、ローポリゴンでラフ造形を行なう。その際、作成したモデルに鳳凰図を投影して、羽根の位置や形などがおかしくないかチェックしながら少しずつ進めていったという。

  • 板状のポリゴンでパーツを置いて構図を確認しているところ

  • 作成したモデルに鳳凰図を投影して形を確かめながら少しずつ作業が進められた

そこで苦労したのが、平面と立体の表現のギャップだ。たとえば、鳳凰図では飾り羽根がそれぞれ重ならないように描かれているが、立体化するとどうしても重なってしまう。そこで、板状のポリゴンでいったんパーツを配置したあと、トライ&エラーを繰り返しながら重なり部分などを調整していったという。

  • 左右で長さが異なる羽根は、手前の羽根を折り曲げて整合性を図った

ちなみに、ZBrushには色を塗る方法として、ポリペイントを使う方法と、テクスチャを使う方法の2通りあるが、「3DUJ-553」が便利なのはどちらのデータを入れてもきちんと出力できてしまうところ。この作品では、羽根や鱗はテクスチャで、毛羽立っている赤い部分のようにUV展開が面倒な部分はポリペイントで色をつけているそうだ。

このほかにも、画としては成立していても立体にしたときに矛盾が生じる部分をどう解決するかに頭を悩ませたとのこと。たとえば、鳳凰図では左右の羽根の長さが異なるが、そのまま立体にすると違和感が出てしまう。そこで手前の羽根を折り曲げて、長さと見た目の整合性を図るようにしたそうだ。また、画では見えていない鳳凰の足や、どの位置から見ても鳳凰と目が合うように表現するのも大変だったという。

  • 画では隠れて見えていない足は、資料などを参考にしながら形を作っていったという

  • どこから見ても鳳凰と目が合うように工夫されている

ちなみに、3月15日に東京で開催される展示会では、同作品ほか、昨年の大阪での展示会に出展された作品の多くが展示される予定。また、ZBrushのセミナーなども用意されるとのことなので、興味のある人は足を運んでみてはいかがだろうか。

  • 実際に3Dプリンタで出力されたもの