国際科学技術財団は1月16日、2019年(第35回)の日本国際賞を、特定の形の分子を選びだす方法の基礎を築き、医薬品の改良などに貢献した名古屋大学特別招へい教授の岡本佳男(おかもと よしお)氏(78)と、土地の耕作方法の研究で食糧生産の安定と地球環境の保護を両立させた米オハイオ州立大学特別栄誉教授のラタン・ラル氏(74)に贈ると発表した。授賞式は4月8日に都内で行われる。
岡本氏の授賞理由は「らせん高分子の精密合成と医薬品等の実用的光学分割材料の開発への先駆的貢献」。物質を形作る分子のなかには、右手と左手のように、作りは同じだが鏡に映した像のように形が対称な2種類をもつものがある。この二つを「鏡像異性体」という。グルタミン酸ナトリウムでうま味を感じるのは、その一方の形だけだし、サリドマイドのように、片方が薬になっても、もう片方が重い副作用を及ぼすこともある。したがって、片方だけを選択的に合成、分離することが、鏡像異性体の利用には欠かせない。岡本氏は、「らせん高分子」とよばれる鏡像異性体で片方の形だけを作る方法を開発。これを筒に詰めて片方の端から鏡像異性体を流し込むと、一つの種類だけが「らせん高分子」にひっかかって流れにくくなることを確認。これが、鏡像異性体を高速に精度よく分離する現在の「高速液体クロマトグラフィー」の基礎になった。医薬品の開発などに広く使われている。
岡本氏は、「『らせん高分子』の存在を示したいというだけの、きわめて基礎的な研究から始まった。基礎研究をしている若い人の励みになるのではないか。研究上で重要なことが起きたとき見落としがないように、若い人は、いろいろなことに関心を持ち、知識を蓄えてほしい」と話した。
ラル氏の授賞理由は「食糧安全保障強化と気候変動緩和のための持続的土壌管理手法の確立」。土壌に含まれる栄養分としての有機物が耕作で流れ出すのを防ぐため、土を耕さないで農作物を育てる「不耕起栽培法」を確立し、世界に普及させた。有機物の多くは、植物が大気中の二酸化炭素から「光合成」で作り出したものなので、土壌中に有機物をとどめることは、大気中の二酸化炭素を土壌中に取り込んで固定することにもなる。そのため、二酸化炭素の増加による地球温暖化の進行を、いくらかでも遅らすことができる。食糧の増産と地球環境の保護という両立しにくい事柄に解決の道を開いた点が評価された。
ラル氏は、「土壌の科学の重要性を示すものだ。50年の研究のキャリアが認められてうれしい」と話した。
日本国際賞は、日本政府の構想に現パナソニックの創業者、松下幸之助氏が寄付でこたえ、1985年に初回の授賞式を行った。これまでの受賞者は、今回を含めて13か国の96人。毎年、二つの分野を選んで授賞者を選考する。今回の授賞が決まった岡本氏は「物質・材料、生産」分野、ラル氏は「生物生産、生態・環境」分野。受賞者には分野ごとに賞金5000万円が贈られる。
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