2018年版の「働きがいのある会社」ランキングで1位となったコンカー。今回、同社 代表取締役社長の三村真宗氏にインタビューの機会を得たので、日本の働き方改革への思いと同社の展望について話を聞いてみた。
三村真宗(みむら まさむね)
1969年8月15日生まれ。東京都出身。1993年、慶應義塾大学法学部卒業、同年に日本法人の創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。以降、13年間にわたり、ビジネス・インテリジェンス事業本部長、社長室長、CRM事業本部長、製品マーケティング本部長、戦略製品事業バイスプレジデントなどを歴任。
2006年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、金融、通信、ハイテク企業などの戦略プロジェクトに従事し、IT戦略・ITビジョンの策定、ソフトウェア事業のBPRなどを担当。2009年にベタープレイス・ジャパン株式会社のシニア・バイスプレジデントを務める。2011年10月から現職。
著書に「新・顧客創造」(ダイヤモンド社刊、2004年)、「展望次世代自動車:実用化と普及拡大に向けて」(化学工業日報刊・共著、2011年)、「最高の働きがいの創り方」(技術評論社刊、2018年)がある。
--2018年の働き方改革を振り返ってみていかがでしょうか?
三村氏:われわれにとって働き方改革は追い風だと感じています。これまで、経費精算や間接業務の改革に取り組む背景は、どちらかと言うと不正防止などに意識が向き、生産性改善の観点としてプライオリティが高くなかったという状況がありました。
数年前まではコンカーを利用することで、経費精算など業務の中で無意味に感じる時間が削減でき、生産性の向上が見込めるという話をしたとしても、取り組まない企業が多かったのが実情です。
近年、働き方改革というキーワードが普及するにつれ、生産性が向上すれば残業の削減や休暇の取得、人員のシフトが可能なのではないのかという風潮になり、明らかに企業の反応が変わりました。
実際にビジネスの現場レベルでは人手不足が顕在化しています。そのような状況に対して、われわれは具体的な打ち手として歓迎されていると感じました。現在の働き方改革は、会議の手法や休暇の取得、朝会などの話がメインになってしまっています。本来あるべき姿は無駄な業務を削減することにあるため、削減せずに業務時間だけ変えても、どこかしらにシワ寄せが及ぶことから、そのような意味で歓迎されているのだと思います。
--働き方改革は包括的に取り組むべきですが、コンカーの場合だとツールの活用という側面で支援できます。どのようにお考えですか?
三村氏:近年では企業の声として、デジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタル変革が挙げられています。そのような意味では、働き方を変える“How”の文脈でデジタル化は避けては通れないと感じています。
間接業務のデジタル化は多くの領域で存在しますが、従来からのペーパレスに加え、ここ1~2年ではキャッシュレス化があります。経費をはじめとした間接業務は自社独自の取り組みが難しいため、われわれは間接業務のデジタル変革をお客さまに啓蒙しています。
ペーパレスの場合、多くの企業が取り組んでいます。ペーパレス化が進んでいる企業は会議で紙の資料は配布していない一方で、経費処理では原本や請求書などが必要となっています。これらに関しては従来、法律の要請として保管が義務付けられていました。そこで、政府に2年間働きかけた結果、2017年1月からスマートフォン画像の証憑化が認められました。
現在、われわれの契約企業数は840社に達し、そのうち468社で領収書の電子化の取り組みを開始しています。468社のうち、55社に関しては実運用がスタートしています。この55社に関しては領収書を原本保管することなく、画像保管に移行しています。この状況は、明らかに遅れていた日本企業の間接業務のオペレーションが欧米に近づきつつある証左とも言えます。
55社以外の企業についても、今春までに実運用の開始を予定しています。これらの企業は日本を代表する企業のため、領収書・請求書の電子化の運用がスタートすれば、従来は諦めに近い感覚があったペーパレス化が一気に加速するのではないでしょうか。ペーパレス化が進めば、業務の生産性向上が見込めるため、働き方改革の文脈の1つとして捉えられている状況です。
一方、キャッシュレスに関しては、日本は非常に遅れています。韓国や中国などの近隣諸国では電子化が進んでいるため、現金を持たない社会が急速に拡がっていますが、日本は現金に対する信仰があつく、OECDでは最低レベルの水準です。
このような状況に対し、経済産業省を中心に「キャッシュレス・ビジョン」を推進していますが、時間がかかるため社用の経費だけでもキャッシュレス化するべきだと考えています。
社用の経費をキャッシュレス化すれば、トラッキングが容易となり、不正利用の防止が図れます。「いつ、どこで使われたのか」という情報は改ざんが不可能であるとともに、デジタルデータであれば経費精算の打ち込み作業などを削減できるため、キャッシュレス化の取り組みを行う企業も増加しています。
われわれでは、D2D(Digital to Digital)というビジョンを掲げています。現状では、多くの企業が紙の領収書で経費処理しているA2A(Analog to Analog)の段階です。領収書の電子化が普及するにつれ、A2D(Analog to Digital)に進化し、究極的にはすべての経費データを電子化することで、人手を介さないD2Dとなります。われわれは、D2Dの実現が可能なインフラは備えています。
--D2Dとは具体的にどのようなことでしょうか?
三村氏:例えば、業務で使う経費を法人カードを利用して支払えば、カード会社から「いつ、どこで、どの程度の金額を利用したか」というデジタルデータが送られてくるため、自動的に経費処理が完了します。これがD2Dの世界です。
しかしながら、日本の現行法ではカード会社が発行した情報は税の証憑と認められていないため、不正が介在する可能性は低いにもかかわらず、紙の領収書の添付が求められています。
これを変えていくために、経済産業省と財務省、政府に対して規制緩和を求める活動を実施しています。実際、手応えもあり、緩和されれば日々の業務が変革できるため、諦めずに取り組んでいきたいと考えています。
--D2Dの世界を実現する場合、エコシステムの構築が重要になりますが、どのようにお考えですか?
三村氏:以前はコンカー内でD2Dを実現させるために閉じた世界で取り組もうとしていました。しかし、4年前に方向性を大転換し、コンカーをクローズドなものからオープンなものにしました。主要機能にAPIを張り巡らせたことで、外部からのデータを取得することが可能になっています。
一例として、全国タクシーとはアプリのON/OFFで連携の可否を選択することできます。ONの状態であれば経費精算を自動的に行い、決済した瞬間に電子レシートが発行され、コンカーと連携します。また、一昨年からJR東日本のICカード「Suica」の利用履歴データを「Concur Expense」と直接連携させ、経費精算を自動化する開発を進めてます。
このようにAPIを通じたエコシステムを拡大し、現在では20社程度と連携しています。ビジネスパーソンが動く中で経費が発生する、あらゆるシーンをD2D化することに取り組んでいます。