情報通信研究機構(NICT)は12月26日、攻撃行動に加担する人に心と脳の働きを調査し、その結果、人が攻撃に加担する程度とその人の社会的不安傾向が相関することを見出したと発表した。
同成果は、NICT 脳情報通信融合研究センター(CiNet)の高見享佑 協力研究員(大阪府立西寝屋川高校教諭)、春野雅彦 研究マネージャーの研究グループによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Social Cognitive and Affective Neuroscience」に掲載された。
近年、SNSでの炎上や学校におけるいじめなど、攻撃行動が大きな社会問題になっている。こういった攻撃行動は、攻撃を主導する人のほかに、周りでこれに加担する人がいることで重大化すると考えられる。今回、研究グループではキャッチボール課題を考案し、脳の領域間結合を調べる安静時fMRIを用いて、攻撃に加担する人の心と脳の働きの一端を調査した。
キャッチボール課題は4人グループで行われた。8セッション(1セッションの総投球数は8球)からなり、ボタン操作によって投げる相手とボールの強さ(Normal ballとStrong ballの2種)を選ぶことができる。被験者以外の3名(P1、P3、P4)はコンピュータプログラムにより制御されている。なお、Strong ballは球速が速いだけでなく、投げられた相手には格闘ゲームのような不快音が与えられ、次の投球ではStrong ballを投げられない仕組みになっている。
P1とP3はセッション5まで、投球の偏りでP4に攻撃が向いていることを示すが、さらにセッション6と7では、「P4にもっとStrong ballを投げよう」または「P4にStrong ballを投げろ。そうしないと君に投げるよ」というメッセージを被験者に送ることで、攻撃行動していくようになっている。
この課題に対する被験者の行動から、恒常的な攻撃欲求、仕返し、他者への同調、脅しへの服従、慣れの5要因について解析したところ、攻撃行動(P4へのStrong ball)へ加担を増やす要因は、他者への同調のみであることが明らかになったという。また、同調の程度と性格指標の相関から、社会的不安傾向との相関が見出された一方で、従来のアンケート結果から重要視されてきた共感性との相関は確認できなかったとしている。
さらに、安静時fMRIで測定された脳の領域間結合強度と攻撃に加担する程度の相関について調べたところ、これと似た結果が得られたという。146個の脳領域について、これらの間の結合を検討したところ、扁桃体と側頭・頭頂接合部、前帯状皮質と後帯状皮質の2つの結合強度のみが相関を示したといい、扁桃体と前帯状皮質がともに不安に関係する脳部位とされることから、キャッチボール課題での行動解析で得られた結果とよく一致したとしている。
研究グループでは今後、加担を超えた攻撃行動に関する心と脳のメカニズムの解明も一層進め、いじめなどの攻撃行動を減らすための情報処理技術の開発や脳計測によるその効果の検証などへの発展が期待されるとしている。