当日は自動運転のデモも
日本車輌製造のML運搬台車プロジェクト長である角田保氏によれば、実際の製造では「とにかく軽量化が必要だった」という。H3ロケット用の新型台車では各部の強度アップが必要だったものの、既存設備の制約のため、サイズや重量はあまり変えられない。そのため、「FEM解析によるフレーム設計を行い、徹底的に軽量化を図った」とのこと。
また前述の冗長性については、故障モードをFMEA(故障の影響解析)やFTA(故障の木解析)などの手法で検討。その結果として、ディーゼル発電機を4台、油圧ポンプを2台搭載した(どちらも1台故障しても走行の継続が可能)。また2台の台車にはそれぞれ運転席があり、どちらからでも制御が可能な構成になっている。
走行機能をテストするため、衣浦製作所の敷地内にS字ルートの走行路を再現。敷地の制約上、直線部分が短く、コースの長さは150mほどしかないものの(実際の吉信射点は約500m)、これまで模擬MLを使った搬送試験を実施してきた。
今回の公開では、VABの場所から模擬MLを運び、射点の場所に設置してから、またVABの方に戻る様子が披露された。このデモにおいて、台車は直線で時速0.3km、S字カーブで時速1.0kmの走行をしていたが、これは直線が短いためで、実際の射点では直線で時速2.0kmになるとのこと。
なお、模擬MLを置いた後の走行では、LT4のみ運転されていたが、これは、マグネットの誘導路がLT4側にしか用意されていないため。搬送時は移動発射台内部の配線を介して2台を同時にコントロールできるが、移動発射台から離れた単独運転になると、LT3は手動で運転するしかないということだ。
H3ロケットの開発状況
前述のように、H3ロケットは既存の設備をできる限り流用して、開発コストを抑える方針。現在、吉信射点には2つの射点(LP1/LP2)と2つの組立室(VAB1/VAB2)があり、LP1/VAB1をH-IIAが、LP2/VAB2をH-IIBが使用しているが、H3ロケットはH-IIB用のLP2/VAB2を改修して利用する計画だ。
移動発射台は、H3用に新製する。従来は移動発射台の上面にロケットを乗せていたが、それだと大型化した機体がVABに入らなくなるため、H3では移動発射台にめり込むような形式になる。開口部を大きくし、噴煙で焼損する部分を最小化することで、整備期間の短縮も狙う考えだ。
すでに工場での製造が終わり、11月末までにすべての部品が種子島に到着。現地での工事が始まったところだ。完成した移動発射台を新型台車に乗せた状態で行う走行試験は、2019年5月に実施する予定だという。
また、これまではVABの隣にあった発射管制棟(LCC)は、制限区域外の竹崎地区に移設。各種点検機器を打ち上げ制御システムに統合することで、運用人員や装置を削減する計画だ。これは今年3月に建屋が完成しており、現在、機材の据え付けや配線などを行っているところだ。2019年夏には完了する予定。
ロケット本体については、現在、第1段エンジン「LE-9」、固体ロケットブースタ「SRB-3」の地上燃焼試験が行われているところ。今後、模擬タンクとエンジンを組み合わせるBFT(厚肉タンクステージ燃焼試験)を2018年度、実機相当のタンクとエンジンを組み合わせるCFT(実機型タンクステージ燃焼試験)を2019年度に行う予定だ。
なおロケットの形態は当初、4種類が提案されていたが、11月29日に開催された宇宙開発利用部会において、3種類に統合されたことが明らかになっている。
H3ロケットは、LE-9の基数とSRB-3の本数を変えることで、打ち上げ能力を柔軟に変更できる。これまでは、SRB-3無しのH3-30形態とSRB-3が4本のH3-24形態の間に、SRB-3が2本のH3-22形態(LE-9×2基)とH3-32形態(LE-9×3基)があったが、H3-32を廃してH3-22に統合する。これにより、生産計画が簡素になる利点が大きいという。