スタートアップの成長をサポートするAWS

Amazon Web Services(AWS)はEC2をはじめソフトウェアの開発および運用に必要となるさまざまなサービスを提供している。このため、プロジェクトの初期段階でハードウェアやデータセンターへの投資が難しいスタートアップではAWSのようなクラウドサービスを活用することも多い。

AWSの魅力はプロジェクトや事業が成功して成長路線に乗ったとしても、簡単にスケールアップできる点にある。提供しているサービスも多く、事業が拡大してきたら必要に応じて新しいサービスによって対処でき、利用するサービスが増えてきたらそれらを管理するサービスを利用できるなど、成長とともに活用を広げる道が用意されている。

Azureとの違いは「情報量の差」

今回、AWSが米国で開催した年次イベント「re:Invent 2018」において、AWSを利用するスタートアップの担当者にインタビューする機会を得た。

BtoBに特化した営業・マーケティング支援事業を手がけるイノベーションは、IT利用を始めた時からプラットフォームとしてAWSを活用している。当初は開発を外注していたため、プラットフォームとして扱いやすいAWSを利用していたという。

Microsoftと共同マーケティングの話が持ち上がった時、マーケティングオートメーションツール「List Finder」のプラットフォームをAWSからMicrosoft Azureへ移行する取り組みを行ったものの、AWSにサービスを戻している。実際に運用してみてAWSのほうがうまくいったというのがその理由だが、「情報量の差もあった」とイノベーション技術開発ユニットユニット長の小笹佑京氏は説明する。

  • イノベーション技術開発ユニット ユニット長 / アンチパタン代表取締役 小笹佑京氏

    イノベーション 技術開発ユニット ユニット長 / アンチパタン代表取締役 小笹佑京氏

AWSが提供するサービスはインターネット経由で入手可能な情報が多いほか、書籍などからも情報を得ることができる。また、AWSは自社のサービスに関する専門知識の習得を目的とした認定プログラムを提供しており、AWSを用いた開発や運用に関わる人材を育成しやすいということも、小笹氏はAWSを選んだ理由として挙げる。

Sansanのシステムの9割以上がAWS

また、名刺管理サービスを提供しているSansanは事業の早い段階からAWSを採用するとともに、オンプレミスで提供していたサービスをAWSへ移行させて現在に至っている。

SansanでCTOを務める藤倉成太氏は「オンプレミスで開発していたサービスをクラウドに移行するにあたっては抵抗があったが、今後の展開を考えるとクラウドに移行すべきと判断した」と話す。なお、クラウドプラットフォームとしてAWSを選んだのは、今後最も成長が見込めるサービスだったからだそうだ。

ただし、すべてのサービスがAWSで提供されているというわけではなく、適材適所でMicrosoft AzureやGoogle Cloud Platformも利用している。「基本的に、1つのクラウドサービスに決めているわけではなく、適材適所でサービスを選ぶという考え方だが、それでも9割以上がAWSになっている」と藤倉氏は説明する。

  • Sansan CTO 藤倉成太氏

    Sansan CTO 藤倉成太氏

Sansanではリソースを使い尽くすという方針の下で開発を行っており、利用しているインスタンスの性能を最大限に発揮するようにシステムを最適化している。それでも、システムのパワーが不足してきたら横展開してインスタンスの数を増やし、より強力なインスタンスが登場したら再びサービスを1つのインスタンスへ集約するといった取り組みを行っているという。こうすることで、常に新しい機能を使うとともに、メンテナンス性を高めつつ、スケールアップも実現できることになる。

また、提供しているサービスごとに要求される性能が大きく異なるため、サービスによっては利用しているインスタンスの性能が大きく異なるというのも特徴だ。今後、機械学習をサービスで活用していくことを研究しており、社内R&D部門から開発者へ知識のフィードバックなどに取り組んでいるという。

サービスの多様さとスケーラビリティの高さが魅力

スタートアップが求めるリソースは事業内容によって千差万別だ。AWSはサービスやインスタンスはバラエティに富んでいるため、さまざまなスタートアップの要望に応じたプラットフォームを提供できる。

また、スケールアップが簡単に実施できるほか、随時新しいインスタンスやサービスが提供されるため、アップグレードやスケールアップも柔軟に行える。事業が軌道に乗ってくれば、処理するデータやクライアントが増えることになる。こうしたケースでもAWSであれば容易に対応できる。

開発しているシステムそのものをスケールさせるのはユーザーの仕事ではあるが、プラットフォームとしてさまざまな選択肢が提供されていれば、大きなサポートとなる。