NTTドコモが研究開発の取り組みを紹介する「DOCOMO Open House 2018 ~ビジネスを、世界を、5Gで革新する。~」が東京ビッグサイトにて開催中。会場では5Gの「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった特長を活かした200を超える技術が披露されています。本稿で、いくつかの展示ブースを紹介していきましょう。

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    DOCOMO Open House 2018が東京ビッグサイトにて開催中。開催期間は12月6日と7日の2日間で、時間は9時から18時まで。参加費無料(事前登録制)です

ロボットを遠隔操縦

遠く離れた場所に設置されたロボットを、リアルタイムで動かすことができたら? 建設現場や災害地、あるいは宇宙空間での危険な作業、また日常生活に身近なところでは介護作業なども、安全にかつストレスなく行えるようになるでしょう。トヨタ自動車が開発中のヒューマノイドロボット「T-HR3」も、そんな近未来の活躍が期待される人型ロボット。ドコモの5G通信を利用することで、より自由な遠隔操縦が可能になります。

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  • 二本足で自立できるT-HR3は、5G通信により遠隔操縦が可能に。デモでは、まるで人間の意思が乗り移ったかのような動きが披露されました

ブースでは、東京ソラマチ(墨田区)にスタンバイした操縦者が、ここ東京ビッグサイト(江東区)のT-HR3を5Gで動かすデモが行われました。T-HR3は指先の細かい動きが可能で、また操縦者は”重さ”も感じることができるそう。そこで、積み木を組み立て、分解し、箱に片付けて、といった細かい作業を行う様子が披露されました。

  • ヒトの関節が再現されているT-HR3の手。やさしく、しなやかに動きます

  • ディスプレイには、VRゴーグルを装着した操縦者の姿

現在の4G LTE通信では遅延が大きく、遠隔操縦で繊細な作業を行うことは不可能でした。5Gが商用化されることで、様々な業界に”ロボット作業員”が進出する近未来が実現します。

5Gで動く「T-HR3」のようす

過疎地にも先端医療を!

東京女子医科大学では、ドコモの5Gを活用した遠隔高度医療を目指しています。手術室内の医療機器のネットワーク化・可視化により、安全で高度な「スマート治療室SCOT」を実現したい考えです。

  • ドコモ×東京女子医科大の取り組み、スマート治療室SCOT

具体的には、どのような医療体制が整うのでしょうか? まず「モバイル診療車」と名付けられた移動する手術室が実現します。医療機器をネットワークに接続することで、そこで得られる膨大なデータが逐一可視化され、また遠隔地と共有される仕組み。

  • 高精細術野映像のイメージ。膨大なデータ量をリアルタイムで確認するには、やはり5Gが必要となります

手術の執刀医は車内にいて、遠隔地にいる経験豊富な医師「モバイル戦略デスク」と情報を共有します。経験豊富な医師は、(例え地方に出張中でも)5Gにより超高精細な映像をリアルタイムで確認し、適宜助言できるわけです。5Gの高速・大容量・低遅延の特長により、手術室の移動が可能となり、また経験豊富な医師の遠隔サポートが実現します。これにより過疎地でも高度な医療が可能となるでしょう。

5G電波を届ける工夫

5Gに用いられる周波数のひとつ、28GHz帯は直進性の高い電波です。このため建物に遮られると届きにくい、といった課題があります。とは言え、アンテナを増やし続けるのも問題。景観を損ねますし、費用も相応にかかります。何よりビルの屋上には、もうスペースが残されていないことも考えられます。ドコモでは5Gが商用化される2020年までに、柔軟な発想でこうした課題をクリアしていきたい考えです。

「メタマテリアル反射板」は、そのひとつ。反射板のサイズ / 入射角に依らず、反射波の伝搬方向 / ビーム幅を任意に操作できるのが特長です。

  • 5Gの電波を反射させる、メタマテリアル反射板

5Gお台場トライアルサイトでは、すでに実証実験が進んでいます。その結果を紹介しましょう。これまで5G基地局のアンテナが立つ建物直下におけるダウンロード速度は、下り16~60Mbpsでした。しかし、わずか1平方メートル程度のメタマテリアル反射板を設置しただけで下り300~560Mbpsまで向上したとのこと。これは目覚ましい効果です。

  • 実証実験では、ダウンロード速度が10倍も向上する結果が得られました

担当者は、金属の反射板より電波を拡散できるので、高さ方向にも有効であると説明していました。これなら、ビルの壁面に設置しても目立たないので景観も損ねず、また屋上のスペースの問題もクリアできそう。またランニングコストを含め、新たに基地局を設置するよりも大幅な費用の縮小が実現できるでしょう。

窓を基地局化する「ガラスアンテナ」に注目!

ドコモがAGCと共同開発を進めているのは、窓を基地局化するという概念の、その名も「ガラスアンテナ」。既存の窓ガラスに室内側から設置することで、屋外をエリア化します。やはり、景観に配慮した地域での活用が期待できそう。従来製品ではガラスを通過する際に電波の減衰と反射が生じていましたが、新開発のGlass Interface Layer(GIL)技術により課題をクリアしたとのことです。

  • 窓を基地局化するガラスアンテナ。サイズが小さくて透明なので、外観を損ねることもありません

ドコモでは、人の集まる高トラヒックエリアでスモールセル基地局の代わりに使用していきたい考えです。「既存の窓ガラスにも貼れます。ビルのオーナーさんとの交渉になるでしょう」と担当者。ひとつのアンテナで半径50~150mくらいのエリア化が可能ですが、電波干渉の問題もあるので、同じ周波数を重ねることがないよう慎重に運用していくそうです。

  • ガラスアンテナの設置イメージ

設置方法としては(建物の構造にもよりますが)小型の無線装置を天井裏に設置して、給電線でつないで運用すると説明。現在は、どんなガラスに適用できそうか検証を進めているとの話でした。


5G時代には、業種を超えた様々な企業がコラボすることで、まったく新しいサービスが生み出されていくことが予想されています。ドコモでも、かねてからパートナー企業との「協創」を掲げていますが、DOCOMO Open House 2018では、そうした方針がより一層鮮明に感じられました。