日本マイクロソフトは11月29日、6~15歳下の子供たちを対象にしたプログラミングコンテスト「Minecraftカップ2019全国大会」の開催を発表するとともに、15歳~44歳を対象にした就労支援「若者TECH」プロジェクトを開始すると発表した。
日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏は、これらの取り組みについて、「未来の創り手となる子供たち、若者に対して、コンピュータサイエンス教育を提供する。必要なスキルを習得し、活躍できる場所と機会を提供するものになる」と説明した。
日本マイクロソフトは、これまでにも3万人の教員を対象にしたICT教員研修や、日本でも1万人の生徒が参加してコーディングを学習した「Hour of Code」、障害を持つ子供たちが参加できるプログラミング学習の「Programing for all」などを実施。
加えて、5万人の無業の若者が参加し、ITスキルを身につけ、45%が就労した実績を持つ若者UPプロジェクトを実施してきた。若者UPプロジェクトは、7年間の実績を持ち、先ごろ、厚生労働省の地域若者サポートステーション事業に引き継がれ、政策との連動へとつながっている。
今回の2つの新たな取り組みは、こうした実績をもとに実施するものになる。
あらゆる子供の参加を支援する「Minecraftカップ2019全国大会」
Minecraftカップ2019全国大会は、日本でも2016年11月から教育現場向けに提供している「Minecraft:Education Edition」を利用する。6歳~15歳の子供たちが3人以上でチームを構成し、創造性を発揮しながら、「子供たちが創る、スポーツでみんなが暮らす街」をテーマにプログラミングを行って競う。
日本マイクロソフトが製品および技術提供を、ユニバーサル支援センターが困難を抱える子供たちへの参加支援を、ICT CONNECT 21が教育委員会や学校への参加支援をそれぞれ行う。大会実行委員長は、東京大学教授兼慶應義塾大学教授の鈴木寛氏が務める。
応募期間は2019年3月10日~6月30日。7月に審査を行って受賞者を決定し、8月に授賞式を行う。全国大会では、学校単位での参加だけでなく、学ぶ環境が限られている子供たちに対しても、NPOとの連携を通じて、コンテストに参加できるようにしている点が特徴だ。
ユニバーサル志縁センターの池本修悟専務理事は、「困難を抱えていたり、ITが届きにくかったりする子供たちの大会参加を支援したいと考えている。病院内での学習支援を受けている子供や障害のある子供たち、外国にルーツを持つ子供たち、被災地の子供たちなどが参加できるように支援をしていく。3人のチームで参加できない場合も、対応を考えていきたい」と語った。
日本マイクロソフトは、Minecraft:Education Editionが利用できない環境にある子供たちに対し、大会期間中だけで利用できるMinecraftのライセンスを特別に用意するという。
また、子供たちの大会参加を支援する教員のために、ICT CONNECT 21が「プログラミング教育導入ハンドブック 2019」と「Minecraftカップ2019全国大会ハンドブック」(仮称)を3万部発行し、都道府県教育委員会教育センター、市町村教育委員会ほか、全国の小中学校に無償で配布する。
ICT CONNECT 21会長である赤堀侃司氏は、「Minecraftカップ2019全国大会は、子供たちの創造性を育み、論理的思考を育てることを目的とした教育活動の1つに位置づけたい」と語った。
応募方法は、オンラインフォームに、3分動画やワールドデータなどを通じて、どれほど多様な人々が充実した暮らしができるかを示す一方、共同作業の利点が生かせていること、プログラミングやレッドストーンが活用されていることがわかる内容を示す。完成したワールドに関する情報だけでなく、開発中の課程がわかる内容を含む必要がある。
実行委員長を務める鈴木氏は、「日本の教育の課題は、学力は高いが学びのモチベーションが低いという点にある。プログラミング学習では、英語学習の失敗を繰り返したくない。プログラミングをやらないと職を失うといったことではなく、子供たちが内発的に楽しみながらはまっていく環境を作り、結果としてプログラミング能力を高めることにつなげたい。私自身も、子供と一緒にMinecraftを使っている。プログラミング嫌いという子供たちを作らないためにも、Minecraftを活用したい。コミュニケーションやコラボレーション、チームワークを育むといった点でも効果があるだろう」と語った。
「若者TECH」プロジェクト - 1万人の若者に機会の提供を
一方、「若者TECH」プロジェクトは、ICT学習を通じて若者の成長と雇用の可能性を最大化することを目的にしている。
今回、「若者UP」プロジェクトで協業したNPO法人育て上げネットと連携する。プログラミング思考、コンピュータサイエンスの要素を生かした就労支援プロジェクトとして推進するとともに、若者支援現場で活用できるICT学習のカリキュラムの開発、検証を行いに、これを広く普及させる取り組みも行う。
すでにトライアルを開始しており、2019年1月からは本格展開するという。ICTに詳しい4つのNPO法人でプログラミング、クラウド、IoTなどを活用したカリキュラムを作成。2019年度には20カ所以上への展開を見込み、1万人の若者に機会の提供を目指すという。
育て上げネットの工藤啓理事長は、「社会の変化が、新たな働き方と必要なスキルの変化を生んでいる。そうしたなかで、日本中の若者がICTを学び、学習を通じて成長する機会が得られる社会をつくりたい。それに向けて、民間がしっかりとして成果を上げ、最終的には官と連携した仕組みへと展開したい」と述べた。
日本マイクロソフトの平野社長は、「若者UPプロジェクトは、NPOとの連携による成功例として米国本社からも注目を集めるものになった。その実績を生かし、IT利活用による就職支援の可能性の拡大を目指す。また、AI、IoT、ビッグデータ、プログラミングといったインテリジェントテクノロジーを活用したコンピュータサイエンスに特化したコンテンツを開発することになる」と説明した。
2020年度からの小学校でのプログラミング教育の必修化、2024年度以降の大学入試における基礎科目として情報科目が追加されることが検討されるなど、コンピュータサイエンス教育への注目が高まっている。だが、その一方で、不登校や院内教育などによって、義務教育のなかでITに触れる機会が限られていた若者世代へのコンピュータサイエンス教育の必要性も指摘されている。
全世帯の子供の大学進学率は73.2%となっているが、生活保護世帯では33.4%に留まり、児童養護施設の子供の高校卒業後進学率は23.3%に留まっているという実態もある。
平野社長は「貧困家庭の問題や、健康の問題などにより、テクノロジーに触れられないといったことが起こり、教育機会の不平等化が顕著になっている。こうした社会課題の解決にもつなげたい」と語った。