超小型ロケット開発の背景

エレクトロンのような超小型ロケットは、かねてより小型衛星ビジネスの世界から待ち望まれていた。

2000年ごろから、電子部品の小型化、高性能化を背景に、数十kg級の小型衛星、あるいはそれよりも小さな数kg級の超小型衛星の開発がブームになりつつあった。近年ではそれをビジネスに使おうという動きも出てきており、すでにいくつものベンチャー企業が誕生している。今回エレクトロンで打ち上げられた衛星の多くも、そうして生まれた企業のものである。

しかし、従来のロケットは、トン単位の衛星を打ち上げるための大型のものが大半で、数十kgや数kgといった衛星を打ち上げるには能力が過大すぎた。

そのためこれまでは、大型の衛星を大型のロケットで打ち上げる際に、余った打ち上げ能力やスペースに小型衛星を載せて「相乗り」で打ち上げたり、小型衛星を数機、数十機まとめて1機のロケットに搭載して打ち上げたり、あるいは国際宇宙ステーションまで無人補給船で運び、日本のモジュール「きぼう」から放出したりといった方法がとられてきた。

しかし、これらの方法はすべて、打ち上げ時期や軌道を自由に選ぶことができないという欠点がある。もちろん、打ち上げ時期や投入軌道にこだわりがなかったり、同じ軌道に複数の衛星を打ち上げる必要があったりする場合には問題にはならないが、衛星を1機、2機単位で、ある特定のミッションに適した軌道に打ち上げたり、サービス開始時期が決まっていたりする場合には都合が悪い。

そのため、小型衛星を使った新しいビジネスがなかなか広がらない要因のひとつにもなっていた。

そこで、小型・超小型衛星を1機から数機単位で打ち上げられる、エレクトロンのようなロケットが求められていたのである。

  • スパイヤーの超小型衛星「リマー2」

    エレクトロンが打ち上げた、スパイヤーの超小型衛星「リマー2」。こうした衛星を使ったビジネスが活発になっている (C) Spire Global

2019年にはプレイヤーが出揃うか

もちろん、このブルー・オーシャンを狙っているのはロケット・ラボだけではない。米国をはじめ、世界中でさまざまな企業が開発に挑んでいる。

その中でも、ロケット・ラボに続いて打ち上げに近づいているのが、カリフォルニア州に本拠地を置く「ヴァージン・オービット(Virgin orbit)」である。同社が開発している「ローンチャーワン(LauncherOne)」は、ボーイング747を親機として空中発射するロケットで、低軌道に300~500kgの打ち上げ能力をもつ。現在はロケット・エンジンの試験などが続いており、2019年にも試験打ち上げを行うとしている。

  • ヴァージン・オービットが開発中の「ローンチャーワン」

    ヴァージン・オービットが開発中の「ローンチャーワン」 (C) Virgin Orbit

またアリゾナ州にある「ヴェクター・スペース・システムズ(Vector Space Systems)」、テキサス州の「ファイアフライ・エアロスペース(Firefly Aerospace)」といった企業も、それぞれ小型衛星専用のロケットの開発を目指し、エンジンの燃焼試験などを続けており、数年のうちに打ち上げを行うとしている。

欧州では、欧州宇宙機関(ESA)が技術支援をする形で、スペインの「PLDスペース」、フランスの「アリアンスペース」、ドイツの「MTエアロスペース」、イタリアの「ELV」といった企業が超小型ロケットの開発を計画している。

このうちPLDスペースは、今年6月にスペイン国内の企業やベンチャー・キャピタルなどから900万ユーロ(約11.5億円)の資金を調達。これまでの投資と合わせ、シリーズAラウンドにて総額1700万ユーロ(約21.8億円)の調達に成功し、現在は2019年後半の打ち上げを目指し、高度100kmの宇宙空間に到達できる観測ロケットの開発を進めており、さらに超小型ロケット「アリオン2」の開発計画も明らかにしている。

  • スペインのPLDスペースが開発中の「アリオン2」ロケットの想像図

    スペインのPLDスペースが開発中の「アリオン2」ロケットの想像図 (C) PLD Space

中国でも、わかっているだけでも10社近くのロケット・ベンチャーが立ち上がっている。たとえば「ランドスペース(Landspace)」は今年10月に、超小型ロケット「朱雀一号」の打ち上げ試験を実施。軌道には到達できなかったものの、成功まであと一歩というところにまで迫った。

さらに「ワンスペース(OneSpace)」、「アイスペース(i-Space)」といった企業は、高度100kmまで到達できるロケットの打ち上げに成功しており、衛星を打ち上げられるロケットの開発も進めている。このうちワンスペースは、早ければ今年末にも打ち上げに挑むとされる。

また、「リンクスペース(LinkSpace)」という会社は、イーロン・マスク氏率いる米国の宇宙企業スペースXの「ファルコン9」ロケットのように、垂直離着陸して再使用できるロケットの開発を進めており、すでにホバリング飛行試験も行っている。

  • 中国のランドスペースが今年10月に打ち上げた「朱雀一号」

    中国のランドスペースが今年10月に打ち上げた「朱雀一号」。軌道には到達できなかったものの、成功まであと一歩というところにまで迫った (C) Landspace

そしてオーストラリアや英国など、これまでロケットとはあまり深い関わりをもっていなかった国でも、ベンチャーが参入する動きがある。

日本でも、北海道に拠点を置く「インターステラテクノロジズ(IST)」が、こうしたロケットの開発を行っている。同社は現在、高度100kmの届く性能をもった観測ロケット「MOMO」を開発しており、2度の失敗を経て、現在は3回目の挑戦に向け、試験や製造を続けている。同時に、超小型衛星を打ち上げられる能力をもったロケット「ZERO」の開発も並行して行っている。

また2017年8月には、キヤノン電子とIHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行が共に、超小型ロケットの開発、運用を手がける「スペースワン」という会社を立ち上げている。ロケットの詳細はまだ明らかにされていないが、打ち上げ能力は200kg前後で、2021年度中の初打ち上げと事業化、また2020年代半ばには年間20機の打ち上げを目指すという。

この他にもじつに多くの企業が開発に挑んでおり、その数は100社にも及ぶ。まさに百花繚乱の様相を呈してきた超小型ロケットの開発だが、そのすべてが生き残れるわけではないだろう。

エレクトロンの成功によって、小型衛星を使ったビジネスを行う企業にとって待望の、自律的かつ自由に打ち上げができる手段が生まれた。これにより、小型衛星ビジネスは新たな局面を迎えることになる。

そして、エレクトロンに続けと他のロケット・ベンチャーも活発で、これから数年のうちに、超小型ロケットが続々と生まれ、プレイヤーが出揃い、競争が激化するだろう。小型衛星の市場にとって、こうした競争は、価格の低減や技術開発の促進などにつながるため歓迎されるだろうが、当のロケット会社側にとっては、生き残りをかけた激しい戦いが始まろうとしている。

出典

Rocket Lab reaches orbit again, deploys more satellites | Rocket Lab
'IT's business time' press Kit NOVEMBER 2018
Rocket Lab announces $140 million in new funding | Rocket Lab
Rocket Lab | Electron - satellite launch vehicle | Rocket Lab
Rocket Lab delivers seven payloads to orbit, plans next launch in December - Spaceflight Now

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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