これまで見てきたAppleのキーノートの中で特に記憶に残っているものを聞かれたら、私は初代iPhoneを発表した2007年のMacworld、そして第3世代のMacBook Airを発表した2010年の10月イベントを挙げる。どちらも、何かが変わりそうな雰囲気に満ちあふれたキーノートだった。

10月30日に米Appleがニューヨークでスペシャルイベントを開催し、MacBook AirとMac mini、iPad Proの新製品を発表したが、その内容は2010年の10月イベントを彷彿させるものだった。ただし、ワクワク感を思い出させたのは、8年ぶりに刷新されたMacBook Airではなく、iPad Proだった。

  • 今回はビッグアップル (正確にはブルックリン)でAppleがスペシャルイベント

今年の新製品に触れる前に、まずは時計の針を8年前に巻き戻そう。

第3世代MacBook Airは、2010年代のモバイルノートのトレンドセッターになる傑作だった。アルミニウムのユニボディを使った鋭い薄型軽量デザイン、高速なフラッシュドライブの活用など、大ヒットにつながったポイントは様々だが、一言で説明するなら「MacBook meets iPad」である。

  • 「MacBook meets iPad」。MacBook Air以前にコンパクトなモバイルPCは数多く存在していたが、モバイルデバイスとしてiPadの長所をとり込んでポストPC時代のモバイルPCへと進化したことで、MacBook Airは特別な存在になった

2010年はAppleがMac OS XとMacにiOSデバイスの長所を取り入れ始めた年で、10月イベントは「Back to the Macイベント」と呼ばれた。当時のPCは、OSの起動に十数秒は待たされ、作業中に読み書きが起こり、スリープ中にもバッテリー残量が減っていくからしばらく使わない時は電源を落とす。そんなPCに、使いたい時に使えて、レスポンス良く動作するスマートフォンやタブレットの使用体験を取り入れた。具体的には、iPadの「インスタントオン」「高速なストレージ(SSD)と快適な動作」「必要十分なバッテリー駆動時間」「長いスタンドバイ時間」などをMacに取り入れた。それが2010年のMacBook Airだった。裏蓋を開けると、大きなバッテリー、様々なパーツが統合されたコンパクトなロジックボードが並ぶ。構造は、PCよりもiPhoneやiPadに近かった。

iPadのロケットスタートに食われてPC市場が減速し始める中、Appleは第3世代MacBook Airで自らポストPC時代のPCを示した。イベントの最後に、当時CEOだったSteve Jobs氏は「我々はこれをMacBookシリーズの次世代と位置付けている。そして、いつかはすべてのノートパソコンがこのようになるだろう」と述べた。それは、ほどなく現実になる。PC市場が減速・縮小期に入る中で、ポストPC向けにデザインされたMacBook Airはよく売れた。

30日のイベントに話を戻そう。「MacBook meets iPad」から8年、MacBook AirとiPad Proのリニューアルを同じタイミングで発表したのは偶然ではないだろう。

オープニングで、Tim Cook氏 (CEO)はMacのアクティブ端末がインストールベースで1億台に到達したことを報告した。そして、どこにでも持って行けて幅広いニーズに応えられるMac、そしてMac史上で最もユーザーから「愛されたMac」がMacBook Airであると紹介。8年ぶりのリニューアルを発表した。

  • 今でもMac購入者の51%が「初めてのMac購入」、Macユーザーは着実に増加しており、アクティブ端末数のインストールベースで1億台突破

ディスプレイが待望のRetinaになり、インターフェイスがThunderbolt 3 (USB-C)×2とヘッドフォンジャックにまとめられた。T2チップを搭載し、Touch IDをサポート。バタフライ構造のキーボード、大型の感圧タッチトラックパッドなど、最新のMacBook ProやMacBookに採用された機能や技術を揃えて、最新のモバイルノートに生まれ変わった。幅広いユーザーのニーズに応えられる隙のないアップデートだ。

  • MacBook AirがついにRetinaディスプレイを搭載、Retina搭載モデルを出すなら2015年に欲しかったという声も……

ただ、2010年のMacBook Airのような驚きはない。噂情報に基づいてイベント前から話題になっていたが、このスペックや機能、性能なら「MacBook」の13インチモデルと呼んでも違和感がない。MacBook Airを冠するMacBookのリニューアルは、2010年のMacBook Airのような挑戦的な進化であるべき、そう考える人たちも少なくない。

だが、10年を超える歴史を積み上げてきて、MacBook Airは革新的なモバイルノートから、ユーザーに最も愛されたMacになった。軽量スリムで、色んなことに挑戦するのに十分な機能と拡張性、性能を備える。そんなバランスに優れたMacが、今日多くのMacユーザーがMacBook Airに抱くイメージだ。だから13インチの新しい軽量薄型Macに「MacBook Air」という製品ブランドを与えたのだろう。それは2015年発売の12インチMacBook、2016年以降のMacBook Proで取り組んできたMacBookシリーズの進化が、広く一般に広がる時期を迎えたことを示す。

  • 「MacBook Air」という名前は、携帯性、バッテリー動作時間、性能・機能のバランスに優れていることの証