日本でのスマートホーム市場がイマイチ盛り上がらない。

ソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンク C&S) 上席執行役員 コンシューマ事業本部長 瀧進太郎氏は、同社が開催した記者会見にて「スマートスピーカーの所有率は、ほかの先進国に比べてはるかに低い」と現状を嘆き、それを打破するための攻めの一手を発表した。

「国内トップクラスのディストリビュータ企業として、中国・Tuya Globalとパートナーシップを結ぶことで、日本におけるIoT製品の普及を促進させ、スマートホーム市場を拡大させていく」(瀧氏)

Tuya Global VP of Strategy and InvestmentのMengda Zhao氏(左)、ソフトバンク C&S 上席執行役員コンシューマ事業本部長の瀧進太郎氏(中)、プラススタイル 取締役社長の近藤正充氏(右)

Amazonが日本向けにスマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズの最新モデルを発表するなど、米国を中心に、日本におけるスマートホーム市場の開拓を狙う企業が増えている中で、ソフトバンク C&Sは、国内から市場の成長促進を目指す。

パートナーは元アリババのやり手起業家

ソフトバンク C&Sの記者発表会の要旨は以下の2点。

・ソフトバンク C&Sは、中国Tuya Globalとパートナー契約を締結。Tuya Globalが手掛ける”製品のIoT化ソリューション”「Tuya Smart」の国内販売を開始する

・Tuya Smartを用いたIoT製品の先行事例として、ソフトバンクのIoT製品販売プラットフォーム「+Style」から、オリジナルのスマート家電3製品を発売する

「Tuya Global」とは聞き慣れない企業だが、CEOの王学集氏は、かつてIT巨人・アリババで事業責任者を務めた人物。2014年に設立されたTuya Globalは、わずか数年ですでに中国、米国にオフィスを、中国、米国、ドイツにデータセンタを構え、200以上の国へとその販売網を伸ばしている。また2018年7月にはオーストラリアのベンチャーキャピタルなどから約2億ドルを調達するなど、現在急成長を遂げている企業だ。

IoT製品開発コストを削減する「Tuya Smart」

ではソフトバンク C&Sが目を付けたTuya Smartとはいったい何なのか。

Tuya Smartは、製品のIoT化に必要な通信モジュール、およびクラウド環境の構築、スマホアプリの開発をワンストップで提供するソリューション。これにより、Tuya Smartの導入企業はIoT化にかかる開発期間を最短15日まで短縮できるほか、開発コストの削減も実現できるという。

「日本のメーカーは、スマート家電に興味こそ持っているものの、『売れるかわからない』という理由で、イマイチ開発に力を入れられていない現状にある。また、ユーザーは『すでに今の家電が便利だから、スマート家電への魅力を感じない』という状況にあるようで、なかなか市場が活性化しない。この状況を打破するのがTuya Smartだと確信している」(瀧氏)

「Tuya Smart」モジュール

具体的に、Tuya Smartを導入する企業については説明できないとのことだったが、現在は住宅メーカーや家電メーカーなどとの話し合いを進めている状況だという。

「Tuya Smart」で供給を、「+Style」で需要をつくる

またソフトバンク C&Sは、Tuya Smartを利用した先行事例として、「+Style」から、オリジナルのスマート家電「スマートロボット掃除機」「スマート加湿器」「スマートアロマミストポッド」の3製品を発売。+StyleとAmazon、Yahoo JAPANショッピングにて予約を開始した。

左から「スマートロボット掃除機」(18,800円)、「スマート加湿器」(5,800円)、「スマートアロマミストポッド」(4,500円)

これら製品の特徴の1つは、価格だ。どの製品もインターネットにつながることを前提にしたスマート家電にありがちな「割高」な価格設定ではなく、比較的買い求めやすい値段となっている。そこにはソフトバンク C&S、+Styleの狙いがある。

「まず製品が出回らないことには、ユーザーからのフィードバックを得ることができない。多くのユーザーに使ってもらえれば、メーカーは多くのデータを得ることができ、『どのボタンが多く使われているか』『どのくらいの頻度で使われているか』ということがわかる。その後、ディープラーニングを用いてその原因を突き止めることも可能だ」(瀧氏)

続けて+Style取締役社長の近藤正充氏もコメント。

「これまで当社では、100を超えるIoT製品を販売してきた。しかし、まだまだITリテラシーの高い人にしか広まっていないのが現状。そこで『これ、IoT商品ですよ』と売るのではなく、買ってみて『あ、これIoT商品なんだ』と思ってもらえるような製品を作ろうと考えた」(近藤氏)

つまり、今回発表された3製品は、今までよりも多くのユーザーにスマート家電を手にしてもらうことを目的として販売するもの。ITリテラシーの高い「アーリーアダプター」ではなく、その先のマジョリティ層を狙う考えだ。比較的安価な価格設定も、まずは製品を手に取るユーザーを増やすことが目的だろう。

なお、今年中にスマート家電をさらに15製品以上発売する予定であるといい、徹底的に新たな客層を狙おうという同社の考えが窺える。

+StyleでIoT商品を売ることで市場を成長させ、Tuya Smartというソリューションをメーカーに訴求する。この2つの相乗効果によって、日本におけるスマート家電市場を成長させていくというわけだ。

IoT先進国への遅れを取り戻せるか

「日本におけるIoTの流行りはほかの先進国と比べて、3~4年遅れているのが現状」(瀧氏)

スマート家電やスマートスピーカーの認知こそあるものの、普及が遅れているのは、日本人のニーズに合った家電がまだまだ少ないことが原因だ。しかし、この状況が進まないままでは、他国に市場を荒らされてしまうのは目に見えている。

現にAmazonはすでに、スマートホームの中枢を担う「Alexa」の普及を図るために、同社のクラウドとの接続に必要な部品をモジュール化し、容易に組み込めるキットとして売り出し始めている。これは、家電メーカーに「早くAlexaに対応した家電を作ってくれ」という圧力とも考えられ、今後Alexaに対応したスマート家電が大量に登場することを予測させる。

残念ながら、日本企業からは世界に打って出れるようなスマートスピーカーは誕生していない。これからの成長が見込まれるスマートホーム市場の波に上手に乗るためには、メーカー各社が少しでも早くスマート家電の開発に力を入れることが求められることだろう。

日本でのスマートホーム市場の盛り上がりを測る上で、「Tuya Smartの導入企業がどれだけ増えていくか」は1つの判断材料となりそうだ。

今回発表された3製品はCEATEC JAPAN 2018でも展示された

(田中省伍)