シャープは10月3日、Androidスマートフォンの新製品「AQUOS zero」を発表した。最大の特徴は画面に自社製”国産”の有機ELパネル(OLED)を採用した点だ。
iPhoneを含め、最近のハイエンドスマホでは有機ELの採用が相次いでいる。だが、これらの有機ELの供給は韓国メーカーがほぼ独占しているという状況だ。シャープの自社製有機ELにより、業界の勢力図はどう変わっていくのか。
採用が相次ぐ「有機EL」、韓国勢が猛威
スマホ市場ではハイエンド機種を中心に有機ELの採用が相次いでいる。スマホ向け有機ELで先行してきたサムスンのGalaxyシリーズに続き、アップルは「iPhone X/XS」、ファーウェイは「P20 Pro」、ソニーモバイルは「Xperia XZ3」と、各社が最上位モデルで有機ELを採用した。
有機ELパネルの製造は、スマホ向けにサムスン、テレビ向けにLGと、韓国勢が猛威を振るっている。日本ではソニーとパナソニックの開発部門を統合したJOLEDが開発試作を進めているが、量産は2020年から。海外勢に対して国内勢は出遅れている形だ。
その一方でシャープは、今回の「AQUOS zero」から、同社堺工場・三重工場で製造した有機ELパネルを搭載した。同機は年内に発売予定となっている。
有機ELは液晶と比べてコントラストや彩度が高く、写真や映像は液晶よりも鮮やかに映る。画面が焼き付きやすいデメリットはあるものの、バックライトが不要なため薄型軽量化にも向いている。
シャープは有機ELのこの特徴を活かし、さらにスマホ本体の側面にマグネシウム合金、背面にアラミド繊維といった軽量な材料を組み合わせることによって、徹底的な軽量化を図った。スマホの重さは約146gで、一般的な文庫本と同程度にまで抑えられている。6インチクラスでは200g前後のスマホが多い中で、手に持っただけで「明らかに軽い」と分かるレベルだ。
有機ELは曲げやすいことも特徴で、サムスンは画面端をカーブさせたスマホを2014年に発売している。AQUOS zeroも画面全体がカーブを描いており、片手で持ちやすい本体形状で6.2インチの大画面を実現。軽さだけでなく、総合的にも世界の最新スマホと比べても見劣りしないスペックを備えている。
勢力図はどう変わる? 有機EL外販も視野
IT業界のマーケティング調査を行うBCNの調査によると、国内スマホ市場におけるシャープのシェアは、2018年上半期にAndroidスマホで1位。同社は「2020年にはAndroidシェア40%を目指す」としており、特にミッドレンジ機の「AQUOS sense」は累計200万台を出荷していることから、後継機の「AQUOS sense2」にも期待がかかる。
だが、他メーカーも負けてはいない。10月2日にスマホ新製品を発表したファーウェイもBCNの調査を引用し、2018年6〜9月期にAndroidスマホでシェア1位をアピール。10月にはソニーモバイルやサムスンによる冬モデルの登場が見込まれる中、GoogleやOPPOも新製品を投入する構えだ。
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その中でシャープの強みは、やはりディスプレイだ。シャープには有機EL以外に独自の「IGZO」液晶技術があり、省エネに優れる。IGZO搭載のフラグシップ機「AQUOS R2」は併売するとしており、今後もそれぞれのパネルの特性を活かした製品を出してきそうだ。
また、スマホで有機ELのポテンシャルを引き出すには画質のチューニングも重要となる。シャープは今回、AQUOSシリーズのテレビで培った広色域技術を、有機ELスマホ用にゼロから見直した。こうした映像周りのノウハウもシャープの強みといえる。
ディスプレイの形状も変化している。かつてスマホの画面は16:9が主流だったが、18:9など縦長の大画面化が進んでおり、上部にはカメラを搭載する切り欠き(ノッチ)が必要になってきた。将来的には折りたたみ画面への進化もあり得るが、ディスプレイ技術があればこうしたトレンドも先取りできるはずだ。
国内市場では、鴻海傘下になったとはいえ「シャープ」や「AQUOS」のブランド力は健在で、幅広い年齢層に知られている。海外では有機ELスマホをベルリンの「IFA 2018」で先行展示しており、海外市場に向けた計画もあるという。そしてやはり、有機ELパネルを他の端末メーカーに供給する外販も見据えているようだ。
世界のスマホの開発競争はサムスン、アップル、ファーウェイの上位3社がリードしており、その序列を覆すことは容易ではない。だが、シャープはディスプレイを中心に独自の強みを持っており、これまでのiPhoneへのパネル供給実績や、親会社である鴻海との連携など、現状に一石を投じる武器がそろいつつあるように見える。
(山口健太)