ファイル共有サービスからスタートしたBoxがプラットフォーム戦略を進めている。日本では働き方改革が追い風となり、「第2陣のブームが起こっている」というのは日本法人ボックス・ジャパンの取締役社長を務める古市克典氏だ。Boxが8月末に米国で開催した「Box Works 2018」で、古市氏に日本での事業展開について聞いた。

  • 古市克典氏。ボックス・ジャパン設立時から取締役社長として日本市場を率いる。今年のBox Worksでは「Japan Lounge」として日本からの顧客やパートナー専用のラウンジも設けられた

--オンラインのファイル共有サービスからコンテンツマネジメントプラットフォームに拡大させているが、その狙いは何か--

古市氏: Boxは現在、デジタルワークプレイスとデジタルビジネスの2本柱を持っている。前者は個人の働き方や生産性に関するもので、後者はデジタル化、プロセス全体の改革を図ることができる。

われわれのサービスの最初の使い道はファイルの同期・共有だった。そういう意味ではDropboxと立ち位置が似ていたが、われわれは企業に特化すること舵を切り、そこで重視されるセキュリティ機能に注力した。米国では国防総省、司法省、航空宇宙局(NASA)など、セキュリティが確保されていないと採用いただけないような業種にも浸透した。

Boxの創業は2005年だが、われわれの成長と時期を同じくして、さまざまなSaaSが立ち上がった。そこで、各分野で最もよく使われているSaaSとの連携を通じてプラットフォームになるという方向性を進めた。CRMならSalesforce.com、ERPならNetSsuite、オフィスソフトならMicrosoft Office 365、G Suiteといった具合だ。こうした戦略により、1社ですべての機能を提供するベンダーとは違う路線を打ち出すことができた。

Boxの特徴は強力なコラボレーション、同期、共有はもちろんだが、強力なセキュリティ、そしてAPI連携によるエコシステムがある。

グローバルでは1400以上のアプリケーションと連携して使える。つまり、Boxを導入すると1400以上のアプリケーションやサービスがすぐに使えるというわけだ。日本でも140以上のサービスが利用できる。ユニークなところでは、シャチハタの電子印鑑サービスなどがある。日本全国の主要なコンビニエンスストアでBox内のドキュメントを印刷できるサービスも日本独自のものだ。

--日本はBoxにとって世界で2番目の市場ということで、成功している。その要因は?--

古市氏: 市場のニーズに合ったこと、チャネル戦略、セキュリティなどが成功の要因と分析している。

市場のニーズについて説明すると、日本人はもともとコラボレーションが上手だ。同じ文化を共有する日本企業にとって、チームワークは強さの1つとはいえ、人の力に頼るコラボレーションだった。一方で、米国などは多様化が当たり前で共通の文化に頼れないため、コラボレーションのためのツールを発展させてきた。Boxもその1つだ。

日本の職場が多様化すると、人の力に頼るやり方は行き詰ってしまう。そこで、Boxのようなツールを利用しようと動きが始まった。さらに、3つ目のニーズであるセキュリティも満たしている。もちろんSaaS、クラウドの流れも大きな加速要因だ。SaaSが機能ごとに立ち上がったので、それらのコンテンツプラットフォームとなるBoxの価値が上がってきている。

SaaSを積極的に使おうというITベンダーが積極的にBoxを扱ってくれている。2018年3月に東京と大阪でプライマリとバックアップ、と2つのゾーンを利用できるようになったことで、ユーザーは災害対策を施した形でデータを国内に置くことが可能になった。これにより、Boxを十分に提供できていなかった官公庁、病院、銀行などの業界に対して、提案できるようになった。 チャネルについては、慎重に選んだ。BoxはCRMなどのツールに比べると汎用的で企業内の全部署、全従業員が関わってくる。顧客企業のITシステムに熟知しているパートナーこそ、最適なBoxの使い方を伝えることができる。現在、約200社のチャネルパートナーにBoxを販売してもらっている。

--働き方改革も成功の追い風になっているか?--

古市氏: もちろんだ。セキュリティに魅力を感じた採用が最初の波とすれば、現在は働き方改革という第2の波が押し寄せている。

働き方改革の用途として最も多いのはリモートワークだ。Boxは場所やデバイスを問わずにドキュメントにアクセスできるので、さまざまな働き方を可能にする。働き方改革を実現するコンテンツプラットフォームとして評価を受けている。

三菱地所などはオフィス、家と場所にとらわれず仕事ができる環境を構築しているが、セキュリティを満たす形でどこからでもアクセスできるという点がBoxの評価につながっている。営業なら直行直帰が可能になり、また、産休に入った女性社員が自宅から会社の様子を確認するなど、さまざまな使い方がある。

また、井村屋は過去の資産をBoxに入れ、社内で部署の垣根を越えて情報を共有してイノベーションを起こそうとしている。

米国本社はタスク、ビジネスプロセスの自動化などの機能も発表しており、これらが一般提供になれば、時短に止まらない働き方改革をさらに支援できるでしょう。

--写真や動画のタグ付け、分類などを通じて作業を効率化するAIの取り組み「Box Skills」がまもなく一般提供となる。日本での展開は?--

古市氏: 米国と歩調を合わせて進めていく。SkillsはBoxがすべての機能を提供するのではなく、APIを利用して他社のAIエンジンを活用する。ベーシックスキルの主なエンジンは、Microsoft Azure、Google Cloud、IBM Watsonなどだ。

ベーシックスキルの日本語対応を強化していくが、カスタムAIにより日本語に強いAIが入ると期待している。われわれのパートナーには富士通、NEC、NTTなどがあり、共に日本企業の使い方に適したカスタムAIを作り込んでいくことができると考えている。

分野としては、コールセンター、契約書の読み込み、デジタル資産管理などが考えられます。契約書なら、金額、更新時期など自動的にメタ情報をつけて管理を効率化できる。例えば、デジタル資産管理なら、アパレルにおいて秋物、長袖、シャツ、青などと自動的にタグ付けされ、商品情報を効率よく取り出すなどのことが考えられる。

--Dropboxも企業分野に注力している。競合をどのように見ているか?--

古市氏: 最大のライバルは、企業内にあるオンプレミスのサーバです。ファイル管理をクラウドで行うことについて、まだ抵抗感を持つ企業がある。クラウドにシフトすると決めてもらえれば、かなりの確率でBoxを選んでもらえる。

日本のクラウド市場はまだ活性化できる。Dropboxをはじめ、他のクラウドベンダーとは共に日本のクラウド環境を活性化させていきたいと思っている。