KDDIは9月5日、顧客と新たなビジネスソリューションを創出する5G/IoTのビジネス開発拠点として東京・虎ノ門に「KDDI DIGITAL GATE」を開設した。
新拠点では5GやセルラーLPWA(LTE-M)など、最新の通信規格を用いた検証設備に加え、各種センシングデバイスや画像認識技術、XR、AIなど最先端のテクノロジーにより、実現される多様なソリューションを体感できるツールを備え、顧客企業と新たなビジネスを共創する。
KDDI DIGITAL GATE センター長の山根隆行氏は、新拠点に関して「世の中のラボや共創スペース、コワーキングスペース、ショールーム、技術検証施設とは違い、顧客とともにビジネスを構築する場として位置づけている」と、述べた。
また、顧客企業に加え、さまざまなパートナー企業やスタートアップ企業、技術者、デザイナーなどが交流できる「オープンエリア」や、デザイン思考により潜在的な課題を発見する「ワークショップスペース」を有するほか、創出したアイデアをアジャイル開発手法で迅速にプロトタイプ開発と検証が可能な「PoC開発ルーム」「ラボラトリー」を設けている。
これにより、アジャイル開発が可能な同社の専門チームに加え、高度な専門性を持つパートナー企業との共創により、「気づく」「創る」「学習し改良する」を迅速に回転させ、5GやIoT時代における市場価値の高いサービスを迅速に提供するという。
共創ツールの例としては、画像解析・AI技術には無人レジ、3Dボディスキャナー、映像解析技術・XRにはテレプレゼンス、3Dホログラム、次世代ウェアラブルデバイスにはスマートグラス、ヒアラブルなどを揃えている。
アジャイル開発とデザイン思考を取り入れたビジネス開発拠点
通常、ビジネスを構築する際は一定の人、モノが必要となるが、新拠点では「アジャイル開発」と「デザイン思考」をアプローチの手法として取り入れることで、新しいビジネスを創出するという。
プロセスとしては、Leran、Explore、Build/Validateの3段階のステップを踏む。Learnでは、まずは実際に新拠点を見学・体験してもらう。
Exploreについては、実施期間4~8週間をかけてユーザー体験のデザインやMVP(Minimum Viable Product:顧客にとって価値のある最小限の機能を持つ製品)を決定する。同氏は「イノベーションを起こすためには、エンドユーザーの適切な課題を素早く発見し、すぐさま製品に反映した上で顧客に使ってもらい、結果を得て、再度開発につなげることを繰り返し、イノベーションに正確に近づいていくことが肝要だ」と、強調した。
Build/Validateに関しては実施期間を8~12週間に設定し、プロトタイプの構築と、検証・改良を繰り返す。これを実現するためにアジャイル開発の一般的な手法の1つである「スクラム」のトレーニングやコンサルティングを手がける米Scrumの資格を持つチームが担当し、顧客もチームに加わり、製品開発に取り組む。
では、なぜKDDIは新拠点を整備したのか。この点について山根氏は、同社自体が社内プロセスの変革に開発手法としてではなく、ビジネスを構築するためにアジャイル開発を取り入れた影響が大きいと説明する。同社では、2013年にアジャイル開発手法を採用し、プロセス変革に5人で着手したが、2016年にはアジャイル開発センターが発足、現在では200人、20チーム体制に成長している。
山根氏は「プロセス変革に着手する前は縦割り組織のため、動きづらい側面があった。しかし、着手後は小さく動いて素早く製品を作るチームができあがり、企画・開発が一体化することでビジネスが形になり、開発スピードが半年から3カ月に短縮した」と述べており、外部にも得られたノウハウを提供したいと考えたからだという。
「KDDI ∞ Labo」を新拠点に移転
さらに、同日にはスタートアップ企業の斬新なアイデアや先進的なテクノロジーを取り入れた、オープンイノベーションによる新たな価値創出を実現するため「KDDI ∞ Labo」の活動拠点を新拠点に移転する。
また、5月に発表した5G時代の新たな事業の共創を目的とした「次世代プログラム」にアラヤ、Synamon、Telexistence、Momo、ヤマップの5社が採択され、イオンリテール、サントリーホールディングス、JR東日本がパートナー企業に加わったと発表し、KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏が説明した。
同社では、2011年からベンチャー企業向けプログラムを開始しており、これまで61社が採択され、パートナー企業は36社、事業連携は50社を超えている。
同氏は「KDDI ∞ Laboのベンチャー企業などのパートナーとKDDI DIGITAK GATEのパートナーが融合することで大きなイノベーションが生まれるのではないかと考えており、イノベーションエコシステムを拡大していく」と、期待を口にしていた。
KDDI 代表取締役 社長の髙橋誠氏は「昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)の解釈は多種多様であり、1つの答えはない。われわれのDXは“顧客とずっとつながっている世界”が望ましいと考えており、グローバルのビジネスモデルはフロー型が多いが、通信とつながることでストック型のビジネスモデルに変貌する。新拠点では、どのような体験価値が生まれるのかということが重要であり、企業のビジネスモデルの変革に挑戦するとともに、われわれもDXに取り組む」と、力を込めた。