2018年9月に登場するとみられる新型iPhone。

2018年9月のカレンダーと、Appleの決算日の関係から、9月21日が発売日となり得る可能性が高いと筆者は予測する。それでは、AppleはどんなiPhoneを用意しているのだろうか。

iPhone X化するラインアップ

2017年にAppleは3つの新しいiPhoneを用意した。既存の画面サイズを踏襲した4.7インチ液晶のiPhone 8、5.5インチ液晶のiPhone 8 Plus、そして新たに有機ELパネルを使用し画面サイズを拡大した5.8インチのiPhone Xだった。

2016年までは4.7インチと5.5インチの2種類のiPhoneを発売してきたが、2017年はiPhone Xが加わり、3モデル構成となったことが変更点だった。その体制を続けるならば、2018年も3つのiPhoneを期待することができる。

「iPhone X」

まず、有機ELパネルを搭載した5.8インチのiPhone Xは、後継モデルが登場することは想像に難くない。また、iPhone Xの画面サイズを拡大させた大画面モデルの登場も期待され、6.5インチに設定されると予測されている。

既存の5.8インチモデルのiPhone Xは、iOSの挙動から、iPhone 8 Plusのような「大画面モデル」の扱いではないことが読み取れる。例えば、横長のランドスケープモードで構えた際、メールやメモなどのiOS標準アプリの画面構成が大画面モデルのように「リスト」と「コンテンツ」の2画面にはならないからだ。

そして、残るもう1つのモデルには、6.1インチの液晶全画面モデルが用意されるとの予測が大勢を占める。Appleは昨年、有機ELパネルによって縁取りがない全画面デザインを実現したと説明していたが、これを液晶で実現しようとしている。

2017年には、iPhoneに先駆けて、Samsung GALAXY S8やEssential Phoneが全画面スマートフォンを発売しているが、後者は有機ELではなく液晶画面で全画面モデルを実現し、iPhone Xより先に、画面の中に切り欠きを用意してカメラを備える「ノッチ」デザインも世に送り出した。

日本のディスプレイメーカー、JDIは2017年6月に、四辺の額縁を細く抑えたスマートフォン向け「FULL ACTIVE」ディスプレイの量産を開始している。Appleもこの技術を採用し、液晶全画面モデルの実現を行おうとしている、と考えられる。

液晶モデル投入の理由

Appleに関する予測の正確さに定評があるアナリスト、Ming-Chi Kuo氏は、2018年モデルのiPhoneについても、詳細に関してレポートしている。

これによると、5.8インチ・6.5インチの有機ELディスプレイモデルが先行して発売され、6.1インチ液晶モデルは遅れて投入されるとしている。このパターンは2017年に、iPhone 8シリーズが9月に発売され、iPhone Xが11月に発売されたことと重なる。

6.1インチ液晶モデルについては、デュアルカメラのシングル化、上位モデルより少ない3GBメモリ、最大ストレージが256GB止まり、通信が2×2 MIMO止まり、アルミニウムフレームという差別化が行われるとみられている。

その理由は、価格を抑えることだ。Kuo氏は6.1インチ液晶モデルについて、600〜700ドルという価格を想定しており、iPhone 8と同程度の価格帯で登場させる予測だ。有機ELモデルも5.8インチで800ドル台、6.5インチで900ドル台と、5.8インチモデルは100ドルの値下げを想定しているが、さらに安い価格で、iPhone X世代のデザインを備えるiPhoneを準備しようとしていることがわかる。

iPhone Xのスタンダードを踏襲する理由

現在のiPhoneラインアップは、ホームボタンがありTouch IDで指紋認証を行うiPhone 8シリーズと、TrueDepthカメラによって3D顔認証を行うiPhone Xが混在している状態だ。

Appleは今後数年かけて、TrueDepthカメラをiPhone、iPad、Macといったラインアップ全体に波及させていこうとしており、2018年モデルのiPhoneすべてにTrueDepthカメラを用意しようとしていることがわかる。

Touch IDは指紋認証にしか使われなかったが、TureDepthカメラは生体認証のFace IDで指紋認証より大幅に誤認識率を減らせるだけでなく、表情を使ったインターフェイスや写真撮影にも使える仕組みだ。

例えば絵文字にアニメーションを付けられるアニ文字やMemoji、セルフィ撮影の際のシングルカメラでのポートレートモード、顔の表情を使ったAR効果やGarageBandアプリでのエフェクト操作など、多彩な用途がある。

iPhone Xで登場し、人気を集めているアニ文字

価格を問わず仕様を統一することは、アプリ開発者にとって、TrueDepthカメラを用いたアプリの開発を促し、結果としてiPhoneの魅力をアプリの面から高めることにつながるのだ。

TrueDepthカメラを武器にする

現在Appleのスマートフォンビジネスを取り巻く環境は、先進国を中心とする既存マーケットでの好調さと、新興国を攻めあぐねている状況が混在していることは先日の記事でも紹介した。

関連記事 : 新型iPhone控え「絶好調」のApple、ゆくさきに暗雲も?

不用意な格安モデルに取り組まない以上、価格以外の価値で勝負できる魅力をいかにたくさん用意できるかが重要になってくる。その際、セキュリティを強化し、顔を使ったインターフェイスであるTrueDepthカメラは、iPhone X世代のiPhoneにとって重要な優位性となる。

Phone Xの前面カメラに搭載されている「TrueDepth」カメラ

Appleは米国向け先端製造業ファンドを通じて、TrueDepthカメラに用いられるVCSELを製造するFinisarに3億9,000万ドルを投資した。AppleのTrueDepthカメラのセンサーにおけるサプライヤーの1社であるLumentum Operationsは2018年第4四半期の好決算とともに、今後の売上高の成長に関するガイダンスを示した

iPhoneすべてのラインアップにTrueDepthカメラが搭載されることを示唆しているだけでなく、iPadやMacにも、近い将来TrueDepthカメラが採用されるだろう。それは、iPhoneで初めて採用されたRetinaディスプレイやSiri、Touch IDなどがiPadやMac、Apple Watchに採用されてきた経緯と共通している。

TrueDetphカメラは、開発者だけでなくユーザーにとっても、Apple共通の体験として活用されていくことになる。

顔認証もノッチのデザインも、すでにAndroidスマートフォンにあふれている。しかしAppleが独自に投資を行い、アプリ開発者を巻き込んだ価値作りを行っている上、他社が簡単に追いつけない武器となっていくだろう。

(松村太郎)