ドイツで開催中のエレクトロニクスショー「IFA2018」において、ソニーがウォークマンで培った技術をベースに開発した超弩級のデジタルオーディオプレーヤー「DMP-Z1」を発表しました。
本機は、8月中旬に香港で開催されたオーディオ・ビジュアルのイベントでお披露目された新製品。2016年にデビューしたフラグシップラインの「Signature Series」に新しく名を連ねることになる、据え置き型のデジタルオーディオプレーヤーです。
欧州では、英・仏・独で2018年12月以降に販売開始予定で、価格はなんと8,500ユーロ前後(約110万円)を見込んでいます。日本への導入は未定としています。
本機の設計に携わったソニービデオ&サウンドプロダクツの佐藤浩朗氏と田中光謙氏は、ウォークマンのようなポータブルオーディオプレーヤーやアンプでは鳴らし切れなかった「音はものすごく良いけれど、ハイインピーダンス設計なので鳴らしにくい高級ヘッドホンも軽々と駆動できる、大出力と高音質設計を徹底したオーディオプレーヤーを作ることが目的だった」と口をそろえてコメントします。
天面は、艶やかな鏡面仕上げのアルミ天板を採用。メタルパーツは重厚なつや消しブラックに仕上げています。
写真では分かりにくいかもしれませんが、本機は最大辺が約28cmもある大型のプレーヤーです。質量も約2,490gとかなりのもの。本体のフロント側には4.4mm/5極のバランス接続用のヘッドホン・イヤホン端子を搭載。その直下にあるのが、3.5mmのアンバランス接続のヘッドホン・イヤホン端子です。アンプ機器へのアナログライン出力にはあえて非対応とした男気あふれる「ヘッドホン・イヤホンリスニング専用機」です。
ゼンハイザーの「HD 800 S」やベイヤーダイナミックの「T1 2nd Gen」をはじめ、いま市場にあるハイインピーダンス設計の高音質ヘッドホンと組み合わせていい音が楽しめるよう、バランス接続では1,500mW/16Ω、ステレオミニ出力では570mW/16Ωという高出力を実現しています。
電源は、内蔵バッテリーで駆動します。つまり、宅内のリビングや書斎などさまざまな場所で快適なヘッドホンリスニングが楽しめるわけです。本革製の専用キャリングケースも付属します。
ただ、バッテリー駆動に対応した本当の狙いは、ACアダプターによる給電よりもさらにクリーンな電源供給を得るためでもあります。バッテリー駆動時には、合計5つのセルを使って各部位に安定した電源を供給。さらに、ソニーのカスタム設計によるアナログボリュームと合わせて、優れた透明感と艶のあるボーカル再生、そして重厚な低音の響きが楽しめる仕組みです。
AC電源と内蔵バッテリーのどちらで駆動するかは、本体で選択が可能。天面にはウォークマンライクな3.1型のタッチパネル液晶を搭載しているので、こちらからメニューを開いて各設定を変更できます。バッテリー駆動時のスタミナの目安ですが、96kHz/24bitのFLACファイルを約9時間連続で再生できるそうです。
本体のシャーシは、フレームを一体化させた「H型構造」のモノコックボディ。アンプ基板とメイン基板をシャーシの上下に分けて配置したことで、物理的に距離を離して音質に与える悪影響を回避しています。
デジタルオーディオプレーヤーの音質を左右するDA変換は、左右独立のデュアルDAC構成とし、ICチップには旭化成エレクトロニクスの「AK4497EQ」を使用しています。さらに、ヘッドホンアンプのICはテキサスインスツルメンツの「TPA6120A2」を採用。左右チャンネルの分離感を高めることで、立体感のある音に仕上げています。
ヘッドホン出力のはんだ付け部をはじめ、各箇所に高音質の糸はんだを使用。アンプ基板からヘッドホンジャックへ信号を送るための線材には、米のハイエンドブランドであるKIMBER KABLEのパーツを使って、力強く伸びのある音を引き出しています。さらに、信号経路を細かいところまでブラッシュアップするなど、レイアウトの最適化にも抜かりなし。各パーツは、オーディオグレードを徹底して選び抜いています。
本体に内蔵するメモリーは256GB。外部メモリーとして、microSDカードを2枚挿して同時に使えます。デジタル入出力端子はUSB Type-C。USB-DACとして、PCによるヘッドホン再生にも活用できます。
ハイレゾ音源は、11.2MHzまでのDSDファイルのネイティブ再生に対応。ソニーのHDDオーディオプレーヤー「HAP-Z1ES」にも採用されている「DSDリマスタリングエンジン」により、あらゆる形式の音楽データを5.6MHz相当のDSD形式にアップコンバートしながら、きめ細かな音を再現できる機能が乗っています。リニアPCM系の音源も最大384kHz/32bitのWAV/FLACまでサポート。さらに、MQA音源もネイティブ再生ができます。
今年のIFAで同時に発表されたウォークマン「NW-A50」シリーズにも搭載された、アナログレコード再生の音響的なメリットを独自のアルゴリズム処理によってエミュレートする「バイナルプロセッサー」のほか、音質を好みに合わせてカスタマイズできるイコライザーも完備。さらに、AIによるディープラーニングを活用してアップスケーリング処理の音質を高めた新しい「DSEE HX」エンジンも搭載しています。
そして、変わり種の機能がもうひとつ。本機は、Bluetoothオーディオ再生のトランスミッターとしてだけでなく、レシーバーとしても楽しむことができます。例えば、iPhoneでSpotifyを再生し、Bluetoothで本機に飛ばして高品位なDSEE HXによるアップスケーリング処理をかけて高級ヘッドホンで聴く、という使い方もできます。対応するBluetoothのオーディオコーデックはLDAC/AAC/SBCになります。
IFAの会場で試聴できたサウンドはとてもクリアで力強く、まさに高級HiFiオーディオの貫禄を見せつけました。ウォークマンには、Signature Seriesに名を連ねるフラグシップ「NW-WM1」シリーズもありますが、本機が描く音場の広さ、音の立体感と生々しさはまたケタ違いな領域に到達しています。気になる日本での導入時期、そして価格はどうなるのでしょうか? 首を長くしながら発表を待ちましょう。