25日、午前10時にAppleの直営ショップ「Apple 京都」がオープンした。行列は8時の時点で阪急河原町駅に届き、開店までに1,300人を越えた。
Apple 京都は今年四月にオープンした「Apple 新宿」に続く、「タウンスクエア(広場)」型の店舗だ。一階、二階は、いわゆる「売り場」で、三階は日本で初めて設置された「BOARDROOM」という名称の法人向け商談スペースとなっている。
開店15分前、店内からスタッフが次々出てきて走り出し、列の人々とハイファイヴ。これはApple 新宿がオープンした時にも見られた。来年オープンが予定されている新店舗でも同じような光景を目にすることになるのかもしれない。
今日は「京都の夏」らしい天気で、最高気温は34度という予想。熱中症で倒れる人も出てくるのではないかと心配したが、長時間並んでいる人たちにスタッフが冷たいお茶を配るなどの配慮もあってか、事故もなく、ハッピーなオープニングを迎えることとなった。
開店5分前、店舗の外は暑く、中は熱い。筆者は新規オープンするApple Storeを何度か取材したことがあるが、スタッフの盛り上がり度はかつてないという印象だ。Apple 京都のスタッフは100人強。国際的な観光都市でもあるからか、アムステルダム、マイアミ、ニューヨークなどでの勤務経験を積んだスタッフが揃い、12の異なる言語を話すメンバーで接客にあたる。
9時59分、ドアが開くとカウントダウンが始まる。スタッフはもちろん、行列の人たちも一緒になって「10、9、8……」と叫ぶ。カウントダウンが終わると、大歓声とともに行列の先頭の人から順に入店。店内はスタッフがハイファイヴと笑顔で迎え入れてくれ、この日のために用意された箱入りのTシャツとピンバッジ、ステッカーのセットを渡してくれた。このボックスセット、パッケージはエンボス加工されており、中のTシャツも日本製(Apple 新宿でプレゼントされたものはバングラデシュ製)。特別な日に特別な場所で贈られる特別なプレゼントは、お金のかけ方も特別という感じだ。
列の先頭の四人組はApple 新宿のオープン時にプレゼントされたTシャツを着用。話を伺ってみると、Apple 新宿の開店日に知り合ったとのことだった。その後も連絡を取り合う仲となり、今日のオープニングを祝いたいがために、東京、神戸、京都から集まったという。彼らはタウンスクエアに集まった仲間なのだ。Apple 新宿のコンセプトは「街を訪れた人がふらりと集う場所」だった。その場所がコミュニティスペースとしての役割を果たしたというわけだ。Appleが思い描いた、理想のストアの在り方通りになったということでもある。
そして、コミュニティスペースとして機能させるために、Apple 京都にも、Apple 新宿同様の「フォーラム」が設置されている。フォーラムとは、古代ローマの都市で、元老院、神殿などの公共施設がおかれたオープンスペースを指すが、Apple Storeのフォーラムでは、Appleが「現代版の公共広場」と位置付けるToday at Appleのセッションが実施される。この日も早速、GarageBandを使った音楽制作のセッションが開かれた。オープン当日のセッションはどれも「満員」「満員」「満員」。座れなかった人も立ち見で参加という盛況ぶりだ。
筆者は内覧会の翌日、京都を拠点に活動するアーティストを何人か尋ねた。皆、Apple製品を使用して制作にあたっている作家だ。彼らに話を聞くと、京都は元々、織物などの職人さんがとても多く、街全体でクリエイターを支持する/したいという人々の気持ちが強い、とのことだった。作家でなくとも創造的な生き方をしている人が多く、アートの分野に限らず、料理だとかヨガだとか、様々なワークショップがあちこちで開かれているようだ。最近、京都に越してきたと話す作家は、古くから近所に住む人たちに、仕事は何処でしているのか聞かれたので、「自宅で」と答えたところ、その人たちの反応は、そうですか、というもので、その作家のことを訝しがったりしなかったそうだ。というのも、京都では、二階を住居、一階を店舗や作業場としている家屋が多く、「自宅で」仕事をしている人が結構な数なので、そういう答えは全く不自然ではないのである。
ここで、Apple 京都の店舗の構造に触れておこう。一階はガラスで囲まれた、これまでのApple Storeのスタイルを踏襲。賑やかな通りと落ち着いた店内の境界を感じさせないものになっている。そして二階。正面部分(ファサード)の上部は薄く透けた建具で囲まれていて、障子を閉めたイメージになっている。これはつまり、京都のあちこちで見られる「職人の家」を想起させるものなのだ。雑なジャポニスムを基調に設計されたのではなく、京都という街を徹底的にリサーチしてデザインされているのである。これは、街に馴染むストアを作って、コミュニティに根ざした眼差しを涵養するのだという気概に溢れたアプローチであると評価したい。
文化とテクノロジーの中心地であるこの街は、Appleのテクノロジーを駆使して創作活動に勤しむアーティストはもちろん、有力なiOSデベロッパーが拠点を構え、Apple製品とともに勉学に励む学生が多く住む。Appleにとって特別なロケーションに、特別なストアをオープンできるとなれば感慨も一入だろう。
ストアを訪れた人々にも感想などを聞いてみると、心斎橋に行かなくて済むとか、階段の手摺の触り心地が良いなど様々な答えが帰ってきたが、やはり、今までのApple Storeと違う特別感があると言う人が多かった。Apple 京都は、この特別感を今後も上手く印象付けていくことだろう。Today at Appleでも京都をベースに活動するクリエイターを講師に迎えるとも聞いている。それこそ、アプリのデベロッパーの協力を仰いだ料理教室や、秋に登場するwatchOS 5の機能にフォーカスしたヨガ教室といった、今までになかったセッションがあっても良いと思う。伝統の街に新しい風を吹き込む、Apple 京都はそんな象徴となるような存在であって欲しい。