国立遺伝学研究所は8月6日、世界各地の雪氷環境に生息する雪氷藻類に対して遺伝子解析を行い、特定の藻類種類が北極と南極の両極から共通で検出されたこと、またそれらは現在も分散、交流している可能性があることを発表した。

同成果は、山梨大学総合分析実験センターの瀬川高弘 助教、国立環境研究所の松崎令 JSPS特別研究員、千葉大学理学部の竹内望 教授らの研究グループと、国立極地研究所の秋好歩美 技術専門員、北海道大学低温科学研究所の杉山慎 教授、東京農業大学の米澤隆弘 准教授、国立遺伝学研究所の森宙史 助教らのチームによる共同研究によるもの。詳細は、英科学誌「Nature Communications」に掲載された

  • アラスカで観察された赤雪現象

    アラスカで観察された赤雪現象(出所:北海道大学Wedサイト)

雪氷藻類は、融解期の雪氷上で繁殖する光合成微生物で、世界各地の氷河や積雪上に広く分布している。雪氷藻類の多くは緑色の藻類(緑藻)に分類されるが、雪氷上の強光によるDNAの損傷を防ぐために細胞内にアスタキサンチンなどの赤い色素を貯め込むため、高密度に繁殖すると雪が赤く染まったように見える。この現象は赤雪と呼ばれ、世界各地の積雪で見えるが、優占する藻類細胞の多くは休眠胞子であることから、どこの赤雪でもほぼ似たような色とサイズに観測されてしまい、顕微鏡で観察しても正確な種類同定は難しいことが知られている。

  • 赤い色素をもった雪氷藻類の増殖により、雪が赤く染まる

    赤い色素をもった雪氷藻類の増殖により、雪が赤く染まる(出所:北海道大学Wedサイト)

近年の研究では、赤雪は残雪や氷河表面の太陽光反射率を減少させ、それらの融解を促進しているという結果も報告されており、地球環境への影響も危惧される。

また、氷河や積雪といった雪氷圏は、それぞれ地理的に独立して分布しているため、各地の雪氷藻類が同一種類なのか、それぞれの地域の雪氷藻類はどこから来るのか、どのくらいの距離を分散可能なのか、という問題も含め、研究が進められてきた。

研究では、北極および南極から採取した複数の赤雪試料からDNAを抽出し、PCR法で18SrRNA遺伝子とITS2領域をそれぞれ増幅後に塩基配列を解読し、配列情報を使って系統解析を行った。

その結果、南極と北極の赤雪には少なくとも緑藻綱13種類とトレボウクシア藻綱9種類からなる、全部で22種類の藻類が含まれていると推定されたという。このうち15種類は北極もしくは南極のみに存在するものであったが、配列データでは6%しか占めないマイナー種類であり、残りの7種類が塩基配列の94%を占め、両極から検出されたとのことだ。

さらに、ITS2領域の塩基配列が100%一致している完全一致配列を探査した結果、64047種類見つかり、これらのほとんどは北極もしくは南極のどちらかに分布していた。

一方、今回解析した両極の全ての地域(南極および北極域のスヴァールバル諸島、グリーンランドおよびアラスカ)から検出された完全一致配列は912種類あり、これの配列がすべての種類の完全一致配列に占める割合は1.4%、地域別にみても3~9%と低頻度であることが確認された。しかし、全塩基配列数に占める割合は平均37.3%と、高くなったという。

これらの結果から、研究グループでは、雪氷藻類の限られた系統が全球に共通して分布しており、現在も分散、交流していること、また、そのような藻類が赤雪上では優占していることが示唆されると説明している。

研究グループは今後、地球の気候変動の影響が大きい中低緯度のサンプルを加えて全球レベルでの定量評価を行うことにより、多様な微生物が相互作用する生態系の系全体への理解が明らかになることが期待されるとしている。