ユーザーがチューニング可能なオラクルのAIチャットボットサービス

2回目の納税や納税証明に関する問い合わせは、1回目の自動車税への問い合わせにくらべて、一般的な内容を多く含む。そのため、日本語のゆらぎや日常会話への応対の質がより問われることになったという。

そんな中で助けとなったのが、オラクルのAIチャットボットサービスが提供しているいくつかの機能だ。梶沼氏は、その1つとして「チューニング作業を自分たちで実施できること」を挙げる。

「どの質問にどの回答を返すかをクラウド上の管理ページから自分たちでカスタマイズできる点がよかったです。一般的なシステム開発では、細かなカスタマイズ作業でも、ベンダーやパートナーに依頼して、対応を持つ場合があります。オラクルのAIチャットボットは、クラウドサービスの管理画面を直接ユーザーが操作できるので、対応する質問と回答のペアを変えたり、文章を短くしたりといった細かな調整が迅速にできました」(梶沼氏)

佐藤氏は「キーワードでのチューニングが可能なこと」も評価する。AIを用いないタイプのチャットボットでは、質問と答えが比較的しっかりとした文章になっていないとマッチしないケースが多い。これに対し、オラクルのAIチャットボットは、質問と答えのペアを特定の「キーワード」を指定しておくだけで、マッチするように設定できる。「文章を作り変えたりせず、キーワードを指定するだけなので、ペアが作りやすく、チューニング作業を楽に進めることができました」(佐藤氏)

また、渡邉氏は、質問に対して「FAQとしてリストを表示できる機能」の便利さも挙げる。これは、特定の質問があったら、選択肢を表示して、候補を絞っていくものだ。例えば、「ローソンで支払いができますか」との質問があったら、「納付できるコンビニを知りたい」「コンビニで納付できますか」「コンビニはいくらまで払えますか」などをリストとして提示し、答えを導きやすくする。「ゆらぎがある文章にすべて正確に答えるのはAIでも難しいところがあります。候補を絞っていくことですばやく回答が得られ、利用者にもわかりやすいと感じました」(渡邉氏)。このほか、ユーザーからアンケートを取ったりできるなど、BtoCサービスで培われた気の利いた機能を持つことも魅力だったと話す。

  • 日本オラクルの「コンビニ納付に関するチャットボットの応答」の画面

AIを活用することで人がすべき作業に集中できるようにする

実験の評価はこれから本格的に行うが、反響は十分だったという。実証実験ということで積極的な広報活動は行わなかったが、複数のメディアに取り上げられたこともあり、ほぼ想定どおりのアクセス数も得られた。

結果として、1回目の実証実験のチャットボットの起動回数は6万件で、実際の質問数は約8500件。2回目については問い合わせが約5500件だった。アンケートでは「チャットボットなので聞きたいことが気軽に聞けた」「知りたいことがすぐにわかった」といった意見が寄せられたという。

「最初は子供のように片言の言葉しか話せなかったのですが、Q&Aを教え込ませていくうちにどんどん正答率が高くなっていくことが興味深かったです。『やっと小学生だね』『そろそろ反抗期かな』など、期間中にどんどん成長していく姿を目の当たりにしたことで、AIの可能性を実感できました」と、梶沼氏と佐藤氏は口をそろえる。

今後学習を重ねていけば、AIは税務という領域でも十分に実用に耐えうると感じているという。しばしば人の仕事を奪うなどと心配されることもあるAIだが、渡邉氏はその辺りは心配していないという。

「AIは単純作業や機械的な作業を任せることには適していると思います。イレギュラーな判断はできませんので、そこは人がやらないといけない。必ずしも人が行う必要がない作業をAIに任せることで、人はもっと高度な作業に集中できるようになると思います。例えば、税務では日々の忙しさもあり、ベテランが新人の育成に力を割くことが難しい状況です。AIを活用して、人がすべき作業により集中できるようになることを期待しています」(渡邉氏)

このような、人にしかできない業務へ集中できることこそが、今回の実験で得た最も大きな教訓と言えそうだ。