ここ数年、企業システムのインフラ基盤がオンプレミスからクラウドにシフトしているが、それに伴い、クラウドを支えるストレージ技術にも変革が起こっている。本稿では、ストレージ技術について、押さえておくべき最新動向についてお届けする。

弱点が解消され、HDDからフラッシュへの移行が進む

長らくHDDが主役だったエンタープライズ・ストレージだが、2017年頃を境にフラッシュが主力記憶メディアとして認識されるようになった。これが、ストレージの潮流として押さえておくべきポイントの1つだ。

フラッシュは当初「バイト単価が高い」「使い減り(摩耗、ウェアリング)する」という2点が弱点として問題視されていた。そのため、大容量が必要なエンタープライズ・ストレージではまだまだHDDが主で、フラッシュは少量がキャッシュや最高速レイヤ向けメディアとして使われるにとどまる、と考えられていた時代もあった。

しかし、利用拡大に伴って急速に価格が低下したことに加え、高速性を生かしたインラインでのデータ圧縮や重複排除を併用することで実効容量を増大させたことや、ウェアレベリング(摩耗平準化)といった技術の洗練などによって、主な欠点はほぼ解消された状態だ。

弱点は「高速だが高価」「メモリ・セルの損耗」

フラッシュ・ストレージはHDDよりも高速だという点は登場当初から認知されていたが、同時に「高速な分価格も高価」であった。フラッシュ・チップの価格は順調に下がってきているが、物理容量ベースでは現時点でもHDDとほぼ同等近くまできた、というレベルだ。

しかし、HDDよりも高速な点を生かし、データI/Oの際にリアルタイムでデータ圧縮/伸張処理や重複排除の処理を行うなど、ストレージ・ソフトウェアの高度化によって物理容量以上のデータ量を保持できる点を加味すれば、既にバイト単価でHDDを下回る製品が入手可能となっている。

データ圧縮や重複排除の効果はデータの性質に依存するため、確実な保証がしにくいという問題はあるものの、実データベースで2倍近い圧縮率が得られる例は珍しくなく、その分物理容量を小さくでき、コスト削減が可能になっている。

もう1つの大きな欠点と見られていたのが、フラッシュのメモリ・セルの損耗(ウェアリング)の問題だ。フラッシュは原理的にメモリ・セル上のデータの消去/書き込みの際にダメージがあり、これが蓄積されることでセルが使用不能になるという特性がある。

初期のデジタルカメラで使用されていた記憶メディアではこうした損耗の結果データが読み出し不能になるようなトラブルが頻発していたこともあって、「フラッシュは信頼性が低い」という印象が根強く残っていた部分もあった。しかし、予備の代替セルを大量に確保した上で、ウェアレベリングによって各セルの損耗状況を均一化することで容量が目減りすることを避けるように工夫された製品が一般化した。

こうした対策の積み重ねにより、現在ではフラッシュの損耗状況はかなりの高精度で把握可能になっており、トラブルが生じる前に交換指示を出せるようになっている。機械的な故障確率はHDDのほうが高く、しかも正確な予測が困難だということもあって、運用管理やメンテナンスの負担はフラッシュ・ストレージのほうが低いという状況が実現したことも、HDDからフラッシュへの移行を促進した要因の1つとして挙げられるだろう。

2016~17年頃は、まだオールフラッシュ・ストレージは相対的に高価なデバイスに思われたことから、「オールフラッシュにしなくてはならない理由があるかどうか」について検討することが一般的だった。だが今では、「敢えてHDDを選ばなくてはいけない理由があるか否か」という検討が行われるようになり、完全に主役が切り替わった感がある。

オールフラッシュ・ストレージへの取り組みは機敏なベンチャー企業から始まったが、HDD主体の階層化ストレージを主力製品としていた既存のストレージ・ベンダーの対応も意外に早かった。

ベンチャー企業が市場で地歩を固める前に、EMCやNetAppといった大手ベンダーが迅速にオールフラッシュ製品を投入したことも、HDDからフラッシュへの移行を勢いづけた面があるだろう。結果として、オールフラッシュに取り組むベンチャーの多くが買収・合併によって姿を消し、既に成熟市場と化したような様相さえ見られるのが現状だ。