6月12日に東京で開催した「GitHub Satellite 2018」。GitHubは、ソフトウェア開発者に欠かすことのできないソースコードホスティングサービスであり、コミュニケーションサービスだ。直近では、Microsoftによる買収が実施されるなど、今後の展開が見逃せない状況となっている。

550%増の3年間、日本のGitHubプルリクエスト

Stack Overflowが2018年6月に発表した「Stack Overflow Developer Survey 2018」では、開発者の87.2%がバージョン管理システムとしてGitHubを使っているとされており、そのほとんどはGitHub.comを使っているものとみられている。多くのソフトウェア開発者にとって欠かすことのできないツール、それがGitHubだ。

GitHubは、もっとも大きなイベントとして「GitHub Universe」というイベントを毎年サンフランシスコで開催している。Universeほどではないが、ローカルで大きめのイベントしてSatelliteというイベントも開催している。

GitHubは日本を米国以外の国の中でも重要な拠点の1つと位置づけており、Satelliteの開催はそうした同社の姿勢を反映したものとされている。

世界中に大規模なユーザを抱えているGitHubの最新利用データは次の通り。

  • 2800万を超えるユーザ
  • 8500万を超えるリポジトリ
  • GitHub カントリーマネージャ ジャパンの公家尊裕氏

    GitHub カントリーマネージャ ジャパンの公家尊裕氏

今年で創立10周年を迎えるGitHubは3年前に日本での本格的なサービス展開を開始した。英語圏ベースのサービスは、本格的なローカリゼーションが進むまでは日本での普及が遅れる傾向があるのだが、GitHubが日本での本格展開を開始してから日本におけるGitHubの利用情報は次のように拡大してきたとGitHub カントリーマネージャジャパンの公家尊裕氏は説明する。

  • ユーザ数増加250%
  • プルリクエスト数増加率550%
  • オープンソースソフトウェアプロジェクトの参加ユーザ増加率77%
  • 日本における成長率を説明する公家氏

    日本における成長率を説明する公家氏

GitHub.comのサービスは、懇切丁寧に日本人向けのローカリゼーションが実現しているとは言い難いが、それでもソフトウェア開発者には欠かすことのできないツールとして受け止められている。

開発者のためのサービスという変わらない姿勢

初日の基調講演では、GitHub Senior Vice President of Technology、Jason Warner氏から、GitHubのこれまでの姿勢や、今日における問題、こうした問題に対してGitHubがどのように取り組んでいるのかが説明された。

  • GitHub Senior Vice President of Technology、Jason Warner氏

    GitHub Senior Vice President of Technology、Jason Warner氏

今回の基調講演では特に新しい内容の発表はなかった。これまでGitHubが取り組んできた内容の説明であり、ソフトウェア開発者をサポートするという一点においてさまざまな取り組みを行なっていること、そしてこれからも行なっていくことが繰り返し説明された。

Jason Warner氏の説明はソフトウェア開発を改善していくことの現実を捉えたものと言える。ソフトウェア開発に銀の弾丸というものは存在しないと言われており、細かい改善を繰り返し続け、ソフトウェア開発が必要とするサービスを常に提供すること、改善すること、取り組みをやめないこと、こうしたことこそが真にソフトウェア開発者に求められるサービスなのだということが示唆されていた。

Microsoft、GitHubの独立性を保つ

先日、MicrosoftがGitHubを買収するという発表が行われた。ソフトウェア開発者にとって電撃的な発表だった。多くのソフトウェア開発者は、この発表に不安を感じただろう。特にこれまでMicrosoftがオープンソースソフトウェアとの関わりで行なってきたことを知っている開発者は不安を覚えたはずだ。

GitHub Satellite 2018の基調講演に登壇した日本マイクロソフト 最高技術責任者の榊原彰氏は次のように説明する。

「マイクロソフトは変わってきた」。そして、MicrosoftがGitHubを買収したことに関しこれまでのMicrosoftの取り組みを鑑みつつ「信用を行動で示そうと思う」と話す。

この数年間でMicrosoftはオープンソースソフトウェアやオープンソースプロジェクトとの関わりや支援を積極的に進めている。最近のMicrosoftはオープンソースに対して親和的で積極的だ。

コア技術の一部をオープンソースソフトウェアとしてGitHubで公開するといった取り組みも行なっている。MicrosoftがGitHubを買収するというのは最近の取り組みからすると、それほど不思議なことではない。

  • 日本マイクロソフト 最高技術責任者の榊原彰氏を中央に公家氏とWarner氏で握手

    日本マイクロソフト 最高技術責任者の榊原彰氏を中央に公家氏とWarner氏で握手

榊原氏はMicrosoftが買収したLinkedInを引き合いに出し、その事業の独立性を保ってきていることを指摘。Microsoftは買収したGitHubの独立性を保ち、従来と変わらず安心して開発者に利用できるようにすると説明し「行動を見ていただきたいと思う」と述べた。

また「非常にわくわくしている。GitHubとMicrosoftでより多くのことを達成していきたい」と同氏は今後の取り組みを楽しみにしていると語っていた。

いますべきことは、GitHub.comを使ってみること

GitHubはソフトウェアのバージョン管理システムとしての機能を提供するという以外に、ともかく「つなげる」ことに重きを置いている。開発者が求める機能は多種多様だ。GitHubがすべてのサービスを提供するというのではなく、開発者が使っているツールを「つなげる」ことで、開発者に利便性を提供する。まさに「ハブ」として機能することを望んでいる。

もう1つのGitHubの視点は、複雑になり続けている開発とそれを取り巻く状況をできる限り「シンプル」に落とし込むということにある。ソフトウェア開発者がシンプルにコーディングに集中できること、これがGitHubの目指す世界だ。

MicrosoftによるGitHubの買収に実際にどういった経営判断があったのかは明らかにされていない。今後、MicrosoftとGitHubがどのようにサービスで協力体制を実現していくのかも、現状では誰にもわからない状況だ。

しかし、GitHub.comのサービスは現在も提供されており、そして少なくとも今後もサービスを継続して提供する姿勢にはなっている。まず、この世界最大の開発者プラットフォームを使ってみるというのが、今のGitHubを知るもっともよい方法ではないだろうか。